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リリベルの剣武闘

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魔力が落ち着いたことで、
私は途端に動けるようになった。




父の書斎に呼ばれ、
婚約は来月行われることと私の魔力の暴走がいつ起こるものか分からないため、婚約したら殿下の住む王宮で暮らすことになるだろうと知らされた。



私は婚約までひと月しかないのかと思うと、少し寂しくなる。



私は以前のように
ウィルの執務を手伝っている。

王宮の執務室で作業してもいいのだが、私は一応部外者のため、いい顔はされないだろうという予想がついたのと、何よりも私とウィルが一緒に作業していると殿下が煩いのだ。




静かな執務室で黙々と作業する。
そしてその合間に決心して重い口を開いた。




「………ウィル。
私ひと月後に婚約することになったの。」





「ああ、殿下から聞いてるよ。待ち切れないだのなんだのって毎日のようにリリィリリィ。口を開けばすぐリリィの話ばかりだ。」




「え、あ…ああ、そうなの。」




なんとなく予想はしていたが、
本当にそうだとは思わなかった。



殿下が私を好いてくれてるのは分かるが、
私はもう少しゆっくりと家で過ごしたいと思った。




「リリィ?」

少し悲しくなった私はボーッとしてしまったようで、ウィルはそんな私を心配してか、顔を覗き込む。

「あ、なんでもないわ。
ボーッとしちゃっただけ!
そういえばもうすぐ剣武闘大会があるわね。」

私は話を逸らした。

「ああ、リリィが前に備品の発注を
手伝ってくれたから、
もう準備はできているよ。」




剣武闘大会とは、簡単に言えば
剣術の得意な者が誰かを決める大会だ。


木で作られた剣を使い、
トーナメント戦で勝ち上がっていき、
優勝した者は国王に願いを聞いてもらえるのだという。


剣武闘大会は国中の腕自慢が集まり、
もちろん剣軍副隊長であるウィルも参加するのだ。

ただ、どうしても決勝で負けてしまう。

確かにウィルは魔法の方が得意ではあるが、剣術にも優れているのだ。



「次こそ優勝できたらいいね!」



私応援するから。
とウィルを励ます。

「リリィが私を応援してくれるなんて
嬉しいよ。」

とウィルが言う。
そして、残念でしたねと続けた。





私は何のことか分からなくて首を傾げる。

すると扉の方から咳払いが聞こえてきた。



「久しぶりだね。愛しいリリィ。」



ニコニコとしているはずの
彼の笑顔はどことなく怖い。


「お、王太子殿下⁈」



久しぶりに会った殿下は
輝いて見えるほど格好良かった。




「治ったというのに、
私には会いに来てくれないのかい?」

そう言いながら私を抱きしめる。


「ええと、先日は助けて頂いて
ありがとうございます。
もうこの通り元気に動けるようになりました。」



「それじゃ、また魔力が暴走しないように、早速キスをしよう。」


「っ!」




そう言った殿下の顔が近づく。

私は驚いて動けなかった。




「執務室でイチャつくのは
やめていただけますか。」


ウィルのトゲトゲとした正論が飛んできたおかげで、すんでのところで回避することができた。

「フレッド。
君だってリリィがまた倒れたら嫌だろう。」




はあ。とため息をこぼしてウィルが喋り出した。



「リリィが倒れるのは嫌ですが、
2人だけの時にしてください。」








「んー…………。それもそうだな。
リリィのキスする可愛い顔を
見られるのは避けたい。」




違う理由で納得したようで、



キスされるのは防ぐことができた。

「それよりもリリィ。
先程聞き捨てならないことが
聞こえたのだが?」

「え…?」


何か言っていただろうか。
私は身に覚えがなかったので、首を傾げた。





「リリィは剣武闘大会で
私に優勝して欲しいんだろう?」


ウィルがそう言うので、

「そうね、
初めて見に行くことができるのだから、
ウィルには頑張ってほしいわ。」


毎年魔力の漏れを気にして行くことが
出来なかった剣武闘だが、
今年は父から許可が出ている。
だからウィルには頑張ってほしいと思っていた。




「フッ…。
毎年私が負けているのは殿下だ。」


笑っているウィルと
その反対で悔しそうにしている殿下を見る。


「え、えっと、ごめんなさい。
私知らなかったもので…。」


「知らなかったとはいえ、
リリィが応援しているのは私だそうです、
殿下。」

ウィルは残念でしたねと殿下に追い打ちをかけていた。



そしてウィルはオーウェン公爵様にお話があるので失礼しますと執務室から出て行った。






今殿下と2人だけにしないで!
という私の心の声はウィルには届かない。

静かな時間を壊したのは殿下だった。





「リリィ。」
「は、はい。」



殿下がどんな顔をしているのか分からない私は、返事だけする。

「リリィが愛しているのは誰だ?」

「え、えっと」殿下です。と言おうとして唇が重なった。

急だったので慌ててしまい、
息をしようと口を開くとすぐに殿下の舌が入ってきた。


「んっ。」


私が腰を退くと、逃さまいと腰に手を回される。


乱暴なキスだったのに、
どんどん優しいキスに変わっていく。












私は殿下に好きだと伝わるようにキスに応えた。







「んっ…はっ。んむ…。」

どれぐらいキスしていたのか分からない程で、私はクラクラしていた。



「で…でん…か…。」




私はもう立っていられなそうになっていた。


殿下は口を離してくれたが、
そのまま抱き上げられて
ソファへと運ばれると、
私の顔が見られるように
向かい合わせで膝に座らせられる。




私は殿下の膝に馬乗りになっていたので
とてつもなく恥ずかしくなった。

「~~っ!」


公爵令嬢ともあろう者が
殿方に覆い被さるなんて
破廉恥もいいところ。

咄嗟に手で顔を隠したものの、
恥ずかしさは増していき、
自分が真っ赤になっているのが分かる。





   


「リリィ。リリィが愛しているのは誰だ?」

「ぁ…で、殿下です。」




次はちゃんと答えさせてくれた。





その言葉を聞いた殿下はニコニコとしてそうだよな。と言っていた。







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