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ウィルフレッドのその後②
しおりを挟む「ええ。ティオラは帰ってしまったのだけれど、なんだか心配で。
…ウィルフレッド様に伝えるわけにもいかないし、とりあえずティオラの専属騎士のリオネルには伝えておくべきかと思ったの。」
「…花が咲かないなんてあり得るのか。
リリィは何と?」
「それが…まだ開発途中だから、理由ははっきりとは言えないと仰っていて…。」
私たちの前にいた時とは違い、少し気を許した口調で話す2人の話を聞くに、はっきりしたのはティオラが育てている愛の花は咲くことがなかったということだ。
愛情で育まれるという愛の花。それなのに私を好いているはずのティオラは花を咲かせられなかった。
それは即ち、私への愛が冷めてしまったということなのかもしれない。
そう思ってしまった私は、
その考えから抜け出せなくなってしまった。
___________
「まだいたのか。」
あの後私はオーウェン公爵の所に行った後、帰ることなくここへと戻ってきたらしい。
気がつくと無我夢中で仕事をしていたようで、私はいつものように執務室にいた。
「…陛下。」
入ってきたのは私の幼馴染で、今や国王の座についたレオンノアだ。
「今はただの私だ。
たまには何も考えずにいたい時もあるよな。」
「…まあ、な。」
自分のこととなると疎い彼でも、私の変化にはすぐに気付くようだ。
そんな彼は手に瓶を持っていて、それを私に見えるように差し出した。
「久しぶりに飲むか。」
ニッと笑う彼は国王の顔ではない。
ただ1人の友達として私に声を掛けている。
「…リリィはいいのか?」
「リリィには遅くなると伝えてある。それに、たまには良いじゃないか。」
「そういうところは変わりませんね。」
私は提案のような強引な誘いを受け、執務室で2人、酒を酌み交わすことになった。
私が悩んでいるときは何を話すわけではないが側にいる。そうしているだけで私は自然と考えが纏まるのだ。
言葉にするのが下手な彼は、私を諭すようなことは今までしたことがない。その代わり私を勝手に導いていく。
私が彼の分と自分のグラスを用意し、ソファに向き合うように腰掛けると、コポコポと酒が注がれた。
「リリィとは…最近どうだ?」
「今も前も変わらないさ。ただ、愛しても愛しきれないほどに大切になっていくような感じはするがな。」
この2人は国外にも知れ渡るほどのおしどり夫婦だ。
リリィが慈悲に溢れた女神と称され、数多の国からひと目会いたいと声が掛かって大変だった事もあったが、どんな男も近づけまいと彼は必死だった。
あれはもはや事件にすら近かったと思う。
「…フレッドこそ、ティオラとはどうなんだ?」
「…っ。」
グラスを持つ手がピクッと跳ね、明らかに私が動揺したことを示す。しかし彼はその事に触れず、私をジッと見ているだけだった。
それで知った。
彼は
知っているということを。
「………ティオラの愛の花が咲かなかったらしい。」
「そうか。」
「……どうして咲かなかったのだろうか。
ティオラはもう私を好いていないというのなら、そんなこと、私は耐えられない。」
私はグラスを持つ反対の手で額を押さえる。すると殿下は静かに口を開いた。
「…それは、ティオラに確認しなければ分からないんじゃないか?」
それはそうではあるが、私はティオラに本当のことを聞くのすら怖いのだ。
「…フレッド。私もリリィの思っていることを理解してやれなかった時がある。それは“伝えなければ分からない”ことだからだ。
…ティオラは人の心を読むことができる。だから会話がなくとも本質を知ることができていたことだろう。
だけど、フレッドの心は、知ることのできないものなんだ。
それがきっと彼女をとても不安にさせているのだろう。」
ティオラは人の心を読むことができる。しかし、それは私には使うことができない。
「だが、私とティオラは1度想いを伝え合っているのに、どうして不安になるというんだ。」
「…それは、一度だけ知ってしまったからだ。」
どういうことだろうか。
そう思って私は眉を潜めて彼を見やる。
すると彼は飲み終えたグラスに酒を注ぎながらまた口を開いた。
「一度知ってしまえば期待する。
それがどんどん膨らむのと同じように、不安も付き纏うのさ。
ティオラは人の心が移りゆく様を直に感じてきただろう。
それは時に真っ直ぐで、儚く、歪んでいたりする。」
「どういうことか、分かるように説明をしてくれると有り難いんだが?」
「…そういうことだ。」
「?」
私にはまだ意味すらも掴めない。
彼の右腕と呼ばれる私だが、ティオラのこととなるとポンコツね。とリリィに言われたことがあったことを、今思い出す事になるとは思わなかった。
「ティオラもフレッドの心を分かるように説明してもらいたいんだよ。
いつまでもはっきりと言って貰えない、それでも信じていたい、想っていたい…
ティオラはあまりにも人の心に触れすぎたせいで、臆病になっているのだろう。
だからその心が花にも影響した。」
彼はペース良く、クイっと酒を飲む。
レオンノアは随分と愛に詳しくなったようだ。リリィと出会うまでの彼とは、良い意味で違う。
「ああ、そうか。」
どうして気付かなかったのだろうか。
忙しいからとティオラと会う頻度など少なくて、会ったとしても愛を伝えることなどしなかった。
早くティオラを自分のものにしたくて婚約はしたものの、それで勝手に伝わっているだろう、と思い込んでいたようだ。
そのことでティオラを不安にさせているなど微塵も考えていなかった。
「…自惚れも大概だな。」
「ああ。捨てられてもおかしくはないな。」
「はぁぁぁ…。」
「まあ、知らなかったからできなかったんだ。今ならどうすべきか分かるんじゃないか?」
「…。」
私は酒に映る自分を見る。
そこに映る私はとてもじゃないが、彼女に見せられるような顔はしていない。
彼女が憧れてくれた冷静で間違いのない私の姿とは程遠いのだ。
「何を考えているのか知らないが、自分を守るより、ティオラがどうしてほしいかだけを考えて動くべきだ。」
私はレオンノアにそう言われて酒をグイッと飲み干した。
「…行ってくる。」
そう言って立ち上がった私に、彼は目を閉じてコクンと頷く。
本来、王に対してそんな無礼が許されるわけではないのだが、ここにいるのは私の幼馴染のレオンノアだ。
そんな気配りは必要ないと言うだろう。
私は久しぶりのその関係を有り難いと思いながら、向かうべき場所に急いだ。
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