聖女と呼ばれる私は王子に婚約破棄されました

白雨あめ

文字の大きさ
1 / 1

第一話

しおりを挟む


「アンナ、僕との婚約は破棄してもらう。」

ノーマン王子はそう言いそばかすのある頬を歪にゆがめ、ニヤリと笑った。

彼が特定の女生徒と密会を重ねていることは知っていた。
どうやら彼は婚約者である私を差し置いて、愛しい存在でもできたらしい。
幼いころから決まっていた許嫁。こんな形で裏切られるとはね。

「なるほど。そちらがそういう態度にでるのであれば容赦はいたしませんよ。」

私はそう言い、王子が呼び止める声に振り返らず歩を進めた。








「ノーマンッ! これはいったいどういうことだっ。アンナ嬢と婚約破棄だと? ふざけるのも大概にしろっ!」

陛下の叱責が響き渡る。
ここは王城。

王子は肩をすぼめながら言った。

「陛下、なにをそんなにお怒りに? 過去にも王族の婚約破棄の話はあったでしょう。なにを慌てておられるのか……。」

「馬鹿者! 過去のことと今回のことを一緒にするなっ! お前は貴重な聖女を失ったのだぞっ。聖なる力をもった娘をこの国から出さないため、お前を婚約者に選んだというに…。こんなことなら王太子を選ぶべきだった…。」

「へいか…。」

ノーマンは王の言葉を聞き、今更ながら自分のした過ちに気づいた。
王族として、この国を導くものとして取り返しのつかないことをしてしまったことに……。

「はあ…、ノーマン、お前はもう下がれ。追って沙汰をだす。自室で待機しておるのだ。」

「へ、へいかっ! しかし」

「黙れ! お前はほんとうに大変なことを、大変なことをしてくれたのだぞ。あの娘が他国に渡れば、それは国のパワーバランスさえ…」

城の衛兵に左右を固められ、廊下へ連れ出されている王子にその先の言葉は雑音に聞こえた。
いままでみたことのない険しい顔をした王の額にはうっすらと汗のようなものが伝っていた。










「これで清々しますわ。」

歩みを止めたのは、きれいなバラ園がみえたからだ。
赤やピンク、青など様々な色の薔薇が咲いている。

そこに思わずしゃがみこんだ。

こんな形で王子に裏切られるなんて思ってもみなかった。
幼いころからよく一緒に遊んだ。学園にはいるまでは1番仲の良い友人でもあった。終ぞそういう意味で彼をすきになったことなどなかったが、私にとっては違う意味で大切だったのに……。

「うぅ……。なんでよ! ……ばかーっ! さいあくっ、ぅ。」

こんなことで泣いてしまう自分もいやだった。
なのに、涙は私の意思に反してぼろぼろをあふれ出す。
涙がしみこんでスカートがどんどん重くなっていく気さえした。


「えっーと、……大丈夫?」

「え。」

突然の男の声に顔を上げる。
赤髪の長身の男がそこにたっていた。この国では見ないような装いだ。
それなのに、ひどく価値があるように見える。

「あなたは……。」

「あー、俺は……、いえ私はそんな大したものでもないので。それより大丈夫かな? ハンカチお貸ししましょうか?」

こちらは本気で泣いているのに、おどけたように聞いてくる相手に腹がたつ。
これ以上泣いているのを見られたくなくて顔をしかめて止めようとしていると、男が目の前に座り込んできた。

「ほら。」

そういって私のおとがいを優しく掬うと、真っ白なハンカチで私の涙を拭った。

「ははっ、……ぶさいくっ。」

「なんですって!」

この私を美しいかんばせを、不細工だなんていう男がいるなんてっ!
怒りにプルプル震える私をみて彼はひとしきり笑ったあと、立ち上がり言った。


「貴方の名前を教えてくれませんか?」



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

強面系悪役令嬢はお見合いに全敗しました……

紅葉ももな(くれはももな)
恋愛
申し訳ございません! 私のような者は貴女の伴侶として相応しくありませんのでこの度の婚約のお話はなかった事にさせていただきたく存じます」  父親譲りの強面でお見合いに全敗したフェリシテの運命の旦那様はいずこに?  

悪役令嬢カタリナ・クレールの断罪はお断り(断罪編)

三色団子
恋愛
カタリナ・クレールは、悪役令嬢としての断罪の日を冷静に迎えた。王太子アッシュから投げつけられる「恥知らずめ!」という罵声も、学園生徒たちの冷たい視線も、彼女の心には届かない。すべてはゲームの筋書き通り。彼女の「悪事」は些細な注意の言葉が曲解されたものだったが、弁明は許されなかった。

ただの婚約破棄なんてため息しか出ませんわ

アキナヌカ
恋愛
私、ユディリーア・パヴォーネ・スカラバイオスは、金の髪に美しい蒼い瞳を持つ公爵令嬢だ。だが今は通っていた学園の最後になる記念の舞踏会、そこで暇を持て余して公爵令嬢であるのに壁の花となっていた。それもこれも私の婚約者である第一王子が私を放っておいたからだった、そして遅れてやってきたヴァイン様は私との婚約破棄を言いだした、その傍には男爵令嬢がくっついていた、だが私はそんな宣言にため息をつくことしかできなかった。

公爵令嬢の一度きりの魔法

夜桜
恋愛
 領地を譲渡してくれるという条件で、皇帝アストラと婚約を交わした公爵令嬢・フィセル。しかし、実際に領地へ赴き現場を見て見ればそこはただの荒地だった。  騙されたフィセルは追及するけれど婚約破棄される。  一度だけ魔法が使えるフィセルは、魔法を使って人生最大の選択をする。

王宮図書館の司書は、第二王子のお気に入りです

碧井 汐桜香
恋愛
格上であるサーベンディリアンヌ公爵家とその令嬢ファメリアについて、蔑んで語るファメリアの婚約者ナッツル・キリグランド伯爵令息。 いつものように友人たちに嘆いていると、第二王子であるメルフラッツォがその会話に混ざってきた。

今、婚約破棄宣言した2人に聞きたいことがある!

白雪なこ
恋愛
学園の卒業と成人を祝うパーティ会場に響く、婚約破棄宣言。 婚約破棄された貴族令嬢は現れないが、代わりにパーティの主催者が、婚約破棄を宣言した貴族令息とその恋人という当事者の2名と話をし出した。

殿下は私を追放して男爵家の庶子をお妃にするそうです……正気で言ってます?

重田いの
恋愛
ベアトリーチェは男爵庶子と結婚したいトンマーゾ殿下に婚約破棄されるが、当然、そんな暴挙を貴族社会が許すわけないのだった。 気軽に読める短編です。 流産描写があるので気をつけてください。

処理中です...