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「お願いです巫女様ぁ」
『ぐぐぐぐぐ・・・・』
「何か食べ物をお恵みください」
『ぐぎゅううぅぅううぅぅぅ・・・・』
男が両手を合わせて拝むように懇願する間も、腹の虫は治まらない。
「やれやれ」
巫女は大きな溜め息を1つ。
「何日か前に掏摸(すり)にやられて、銭無しなんです」
腹を鳴らしながら男の訴えは続く。
「宿場町は銭無しには冷たいし、田畑や森の実りはもう少しだし、この辺には動物もいないし」
男は半泣きだ。
「そしたら、巫女様のただならぬ雰囲気の声が聞こえて、大分前に会った旅人が、人助けをすると飯が食える、と言っていたのを思い出して、急いで駆け付けたんです」
男の言い分を腹の虫が締め括る。
「ふむ。理由はどうあれ、助けられたのは事実じゃからのう。それに儂もそろそろ腹が減った」
男は期待の眼差しを巫女に向け、言葉を待つ。
「しばし付いて来い、場所を変える。ここでは気が滅入るし、何より飯が不味くなる」
言って巫女は歩き出す。
「はい!どこまでも喜んで御供します!」
先程までのへたり声は何処吹く風、男は明るい声で返事をすると、巫女を追って歩き始めた。
しばらく歩くと、雑木林の片側が開け、緩やかな斜面と砂利地の先に穏やかな河川が流れ、陽当たりも良い場所に出た。
「さて、この辺りにするかのう」
斜面を降りる巫女の後ろを、
「はあい。ごっはん??ごっはん??ひさしぶりのごっはっん??」
すっかり上機嫌な男が付いていく。
巫女は適当な場所で葛籠を降ろすと、
「すまぬが、茶屋以外で飯時は笠を取りたい。気分を害さぬでくれよ?」
男に問い掛ける。
「へ?どうぞどうぞ、お気になさらず」
既に座り込んでいた男は気軽に答える。
巫女がゆっくりと笠を外すと、火傷の跡は左目のやや上にまで及んでおり、耳は少し歪な形をしていた。
巫女の顔を見た男は少し呆けた顔付きになる。
そんな男を見て、物憂げな表情になった巫女は、
「・・・すまぬな」
小さく詫びて腰を下ろし、葛籠を開ける。
「いや、あの、人には色々あるんだなぁと思っただけで、決してそんなわけじゃぁ」
男は慌てて弁明を始めた。
「構わぬ。この風体では仕方なきことじゃよ」
言いながら、葛籠の中から小さな椀と鍋、箸を取り出す。
「さて、」
巫女は辺りを見渡しながら立ち上がり、
「柴(しば)を拾ってくる、待っておれ」
砂利地に散乱する小枝を拾い始める。
「俺も手伝いますよ」
男が立ち上がろうとすると、
「構わぬ。待っておれ」
巫女は穏やかに言葉で制止する。
「恩人に振る舞う飯を作るのに、恩人に手伝わせるような無作法はせぬ」
巫女は小枝を集めながら喋る。
「じゃからお主は、気兼ねなく座っておるが良い」
巫女に言われるまま、男は座り直すことにした。
小枝を適度に拾って戻ってきた巫女は、石を鍋の大きさに合わせて丸型に積み上げ、簡単な釜戸を作り、符を1枚敷いてから小枝を積め入れる。
「火起招来」
巫女が符に霊力を送ると、符が燃えて、小枝に火が回る。
「ほあぁ。便利だなあ」
それを見た男は感嘆の声を出す。
「儂も術者の端くれでのう。これくらいはな」
巫女は火が全体に回ったのを確認してから、鍋を持って立ち上がり、川に向かう。
「(ん?魚か)」
川辺の浅瀬には丸々とした魚が、あちらこちらで泳ぎ回っていた。
巫女は取り合えず水だけ汲んで戻ると、鍋を釜戸の上に置く。
次いで、再び葛籠を開け、大小幾つかの包みを取り出した。
巫女が包みの1つを開けると、拳大の固い握り飯が3つ入っていた。
「ほ、干し飯(ほしいい)だあっ!」
それを見た目男が歓喜の声を出す。
別の包みを開けると、
「梅干し、漬け物っ」
更に別の包みを開けると、
「干し肉まで!?」
男は涎を拭きながら、
「こ、ここは極楽浄土ですか!?貴女は天女様ですか!?」
巫女に敬いの視線を向ける。
「大袈裟な奴じゃのう」
ころころと変わる男の表情が可笑しくて、巫女の表情にも自然と笑顔が混ざる。
『ぐぐぐぐぐ・・・・』
「何か食べ物をお恵みください」
『ぐぎゅううぅぅううぅぅぅ・・・・』
男が両手を合わせて拝むように懇願する間も、腹の虫は治まらない。
「やれやれ」
巫女は大きな溜め息を1つ。
「何日か前に掏摸(すり)にやられて、銭無しなんです」
腹を鳴らしながら男の訴えは続く。
「宿場町は銭無しには冷たいし、田畑や森の実りはもう少しだし、この辺には動物もいないし」
男は半泣きだ。
「そしたら、巫女様のただならぬ雰囲気の声が聞こえて、大分前に会った旅人が、人助けをすると飯が食える、と言っていたのを思い出して、急いで駆け付けたんです」
男の言い分を腹の虫が締め括る。
「ふむ。理由はどうあれ、助けられたのは事実じゃからのう。それに儂もそろそろ腹が減った」
男は期待の眼差しを巫女に向け、言葉を待つ。
「しばし付いて来い、場所を変える。ここでは気が滅入るし、何より飯が不味くなる」
言って巫女は歩き出す。
「はい!どこまでも喜んで御供します!」
先程までのへたり声は何処吹く風、男は明るい声で返事をすると、巫女を追って歩き始めた。
しばらく歩くと、雑木林の片側が開け、緩やかな斜面と砂利地の先に穏やかな河川が流れ、陽当たりも良い場所に出た。
「さて、この辺りにするかのう」
斜面を降りる巫女の後ろを、
「はあい。ごっはん??ごっはん??ひさしぶりのごっはっん??」
すっかり上機嫌な男が付いていく。
巫女は適当な場所で葛籠を降ろすと、
「すまぬが、茶屋以外で飯時は笠を取りたい。気分を害さぬでくれよ?」
男に問い掛ける。
「へ?どうぞどうぞ、お気になさらず」
既に座り込んでいた男は気軽に答える。
巫女がゆっくりと笠を外すと、火傷の跡は左目のやや上にまで及んでおり、耳は少し歪な形をしていた。
巫女の顔を見た男は少し呆けた顔付きになる。
そんな男を見て、物憂げな表情になった巫女は、
「・・・すまぬな」
小さく詫びて腰を下ろし、葛籠を開ける。
「いや、あの、人には色々あるんだなぁと思っただけで、決してそんなわけじゃぁ」
男は慌てて弁明を始めた。
「構わぬ。この風体では仕方なきことじゃよ」
言いながら、葛籠の中から小さな椀と鍋、箸を取り出す。
「さて、」
巫女は辺りを見渡しながら立ち上がり、
「柴(しば)を拾ってくる、待っておれ」
砂利地に散乱する小枝を拾い始める。
「俺も手伝いますよ」
男が立ち上がろうとすると、
「構わぬ。待っておれ」
巫女は穏やかに言葉で制止する。
「恩人に振る舞う飯を作るのに、恩人に手伝わせるような無作法はせぬ」
巫女は小枝を集めながら喋る。
「じゃからお主は、気兼ねなく座っておるが良い」
巫女に言われるまま、男は座り直すことにした。
小枝を適度に拾って戻ってきた巫女は、石を鍋の大きさに合わせて丸型に積み上げ、簡単な釜戸を作り、符を1枚敷いてから小枝を積め入れる。
「火起招来」
巫女が符に霊力を送ると、符が燃えて、小枝に火が回る。
「ほあぁ。便利だなあ」
それを見た男は感嘆の声を出す。
「儂も術者の端くれでのう。これくらいはな」
巫女は火が全体に回ったのを確認してから、鍋を持って立ち上がり、川に向かう。
「(ん?魚か)」
川辺の浅瀬には丸々とした魚が、あちらこちらで泳ぎ回っていた。
巫女は取り合えず水だけ汲んで戻ると、鍋を釜戸の上に置く。
次いで、再び葛籠を開け、大小幾つかの包みを取り出した。
巫女が包みの1つを開けると、拳大の固い握り飯が3つ入っていた。
「ほ、干し飯(ほしいい)だあっ!」
それを見た目男が歓喜の声を出す。
別の包みを開けると、
「梅干し、漬け物っ」
更に別の包みを開けると、
「干し肉まで!?」
男は涎を拭きながら、
「こ、ここは極楽浄土ですか!?貴女は天女様ですか!?」
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