命を詠う華

YUE

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「貴方達こそ死になさい!」
茨城が走り出す。
「上等だっ!」
「掛かって来いやあっ!」
男達も激昂しながら頼光達に殴り掛かる。
しかし、
「やめ、ろ!逃げろ!逃げて、くれ!」
天だけは悲痛に叫ぶ。
瞬く間に、本殿内は地獄絵図へと変わる。
それは一方的な蹂躙だった。
喧嘩的な戦い方しか知らない、ましてや素手の素人が、刀を自在に操る侍に勝てる道理などありはしない。
1人、また1人と、自ら作った血の海に沈む。
茨城も奮戦するが、神便鬼毒酒の酒気に当てられ、動きが鈍ってる上に2人を相手にしているために、救援にまで手が回らない。
「やめろ・・・」
眼前で、
「やめてくれ・・・」
男女問わず、人も妖も、
「頼む・・・」
簡単に命を奪われていく。
「やめてくれええええっ!」
立つのがやっとの天は、叫ぶことしか出来ない。
「これがお前の業(ごう)の深さよ」
いつの間にか近くまで来ていた成親が、冷淡な表情で告げる。
「これは昔、お前がやったことだ」
その声に、
「京の都、名も無き集落、」
最も聞きたくなかった声が混ざって聞こえる。
「己の愉悦のために、なぶり、蹂躙し、罪無きその血に笑い狂った、お前自身の業に、今度はお前が殺されるのだ!朱天童子!」
「せいめいいいっっ!」
天は成親の首を掴もうと手を伸ばすが、ふらつく動きでは簡単に逃げられる。
それは、遥か遠く、京にて。
陰陽道場の一郭。
晴明は炎猛る護摩壇の前で禅を組み、思念を飛ばし、血縁の成親に憑依していたのだ。
「因果応報。お前が罪無き者達に与えた慟哭、怨嗟、絶望、今こそその身に受けるがいい! 」
晴明の言葉で、本殿内で猛威をふるう頼光の姿に、昔の、悪鬼羅刹と畏れられた朱天童子の姿が重なる。
「うあああああああっっ!!!やめてくれえええええっ!!」
そう見てしまった天が半狂乱に叫ぶ。
「天様!?」
その声に茨城は振り向き、隙を作ってしまった。
その隙を逃すまいと、渡部綱が渾身の力で刀を降り下ろす。
茨城は何とかその気配には気付くことが出来たが、身体は反応出来なかった。
―ぐちゃり―
と、鈍い音がして、茨城の左腕が床に落ちた。
苦悶の叫びと共に肩口から鮮血が吹き出す。
「茨城いっ!」
天は叫びながら走り出す。
ふらつき、倒れながらも、何とか駆け付ける。
手に妖気を集め振り払うと、突風が吹き荒れ、頼光達を押し戻す。
「まだこれ程の力を振るうのか」
晴明だけは結界を作り、突風を防いでいた。
「逃げろ、茨城!動ける奴等だけでも逃がすんだ!」
「ならば天様が!」
「俺はもうまともに動けねえ!お前にしか頼めねえんだ!」
「しかし!」
「長としての命令だ!生きてる者を逃がせ!生き延びろ!」
怒声にも近い天の声に、
「・・・分かりました!」
茨城は腹を括った。
茨城は角の方に集まっている女達に駆け寄り、
「動ける者達は動けない者達に肩を貸してください。ここから逃げますよ。これは天様からの命令です。生き延びて、天様の意志を未来に繋ぎます!」
有無を言わさない語気で促す。
女達は涙を堪えながら子供達を背負い、動けない妖怪や男達を支える。
しかし、かろうじて意識のある妖怪達、怪我をしながらも動ける男達は、女達の手を振りほどいた。
そして、その者達が互いに肩を組み合い、歩む先は・・・戦場だった。
「貴方達!何処へ行くつもりですか!?」
茨城は慌ててその者達の肩を掴んで止める。
「先に行ってくれや、茨城」
男が、
「あの方を、置いていくことなど、出来ない」
妖怪が、同じ考えのもとに一丸となっていた。
「まさか・・・!」
意図を理解した茨城が言葉を失う。
「行け!天様の意志を繋げるんだろ!」
「我等の願い、託しましたよ」
茨城は涙を流しながらも、女達を先導し、振り返らずに本殿を脱出した。
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