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プロローグ この世界は
しおりを挟む10歳まで私の世界は自分の部屋と魔術訓練室、そして数人の使用人が全てだった。
物心がついた頃から両親は私と会うことを徹底的に避け、食事をするときや眠りにつくときもずっと使用人と過ごした。
無表情で何を考えているか分からないような子どもは、両親にとっては可愛いものではなかったのだと今では理解している。
10歳の誕生日を迎える年、王国立魔術学園の入学試験に合格し入寮のため家から出たとき、初めてこの世界はどこまでも広く天井もこんなに高いものなのだと知った。
学園には身分関係なく優れた成績と本人の希望さえあれば卒業後に魔術師として王国に雇ってもらえるという制度がある。
その制度に私はひどく惹かれた。
いつの間にか決められていた一回り年上の婚約者に嫁ぐことが決められている今の私と、この広い世界とのあまりの差に卒業までに両親への最初で最後の抵抗をしたくなったのだ。
魔力も平均的で大したことがない私には他のことで優れた評価を得る必要があった。勉強は得意としていたため問題ない。
しかしこの学園では学業面だけではなく、学園内での素行や人格、人徳も評価される。このままの内向的すぎる私では優れた評価は獲得できないことを痛感した。
そしてこの学園という環境では、表情豊かで振る舞いも適切である人間がより皆から好まれやすいということを入学後すぐに学んだ。
そこから様々なことを試して感情表現を会得しようとしたが書物だけではうまくいかず、実際に様々な人を観察することが1番の学習方法であることに気づいた。
同い年の子たちに比べて大人びていて整っている私の外見はそれに十分に利用できるものだった。
学園外で可能な限り着飾って化粧をし人がたくさんいる場所に踏み込んで男女問わず様々な人と関わりをもった。中には恋人のように大切に思ってくれる変わり者もいたけれど、そのたびに関係を切るために忘却魔法をかけお別れをしていた。
そんなことを続けたおかげか、私は学園生や教師陣に好まれる振る舞いと表情管理を完璧なくらいに身につけることができた。
入学から5年が経った今でも、この習慣は辞めていない。
いずれ学園関係者に出会ってしまうのではないかという不安もあるがずっと続けてきたことを辞めるきっかけがないのだ。
いつも通り可能な限り着飾った格好で学園から離れた飲み屋街で新しい相手を探そうとしていたとき、ここらでは見かけない自分よりも年下っぽい女の子を見かけた。
迷子だろうか、さっきから同じところを行ったり来たり。
こんな夜遅い時間に大人もいないのに子供が一人でうろうろしているのは私が言うのも変だがかなり危険だ。
それにさっきから助けを求めているかのように何度か目が合っている。さすがにそんな子を見捨てることはできなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「本当にどこだろう、ここ‥
マップにも無かったところに来ちゃったかも、
うーん…。」
「ねぇ、そこの人、
「ひぇぇ!!!
え…綺麗な人…!」
独り言の途中で話しかけてしまったからか、少女は
かなり動揺している様子だった。
「‥いきなりでごめんなさい、
ここで何をしているの?」
「あ、ごめんなさい!
それが…迷子になってしまって。」
「私が送ってあげましょうか、お家の場所は分かる?」
「昨日ホテルに泊まり始めたばかりなので住所とかまだ‥」
「昨日?そう‥。じゃあホテルの名前は分かる?」
「あ、はい!それなら…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「本当にありがとうございました!
お姉さんが声をかけてくれなかったらどうなってたことか‥」
「私もちょうど帰るところだったから気にしないで。
それに、あそこは酔っ払いの輩がうじゃうじゃいる所なんだから子供が一人で来たら危ないわよ。
今度は誰か大人と行ってみるといいかもね。」
「はい…!」
「それじゃ、お休みなさい
お嬢さん。」
知っているホテルで助かった。
当たり障りのない世間話をしながら特に問題なく送り届けることができた。
さっきの店に戻ろうか悩んだが、明日の朝に担任の教師に頼まれ事があったことを思い出したため、この日はおとなしく寮に帰ることにした。
朝になればまたクラスの委員長としての私が始まる。学園内で失敗は許されない。
いつものように完璧に演じてみせよう。
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