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好きな花は?という質問
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私は現在、三十路でありながらにして学生である。昨年の春に入学したのだけれど、一回目の国語科の授業で、穏やかな口調の先生にある質問をされた。
春なので、桜を題材にした詩に関する授業であった。
先生は、私にというよりはみんなに。
「皆さんは、何の花がお好きですか?」
こう聞いてきた。
まず端に座っていた私にあなたは?と聞かれて、私は深く考えずに
「菜の花です」
と答えた。
続いて別の生徒に質問が移る。次の生徒はネモフィラと答えた。
ネモフィラを先生は知らなかったようで、どうにも想像が出来なかったようだった。
菜の花、桜、ネモフィラ。どれも綺麗な花であると私は思うけれど、パッと思いついたのは菜の花だった。
菜の花は、白菜などの野菜を放っておいても咲く。まず食材という面も持っているから、私はどうしても花より団子なので春と言えば菜の花のパスタなど美味しいよねと思って挙げてしまったのだ。
先生や他の生徒にはそこまで話すことはなかったけれど、一年経って桜の季節がまためぐってきた今、あの先生の問いに深く考えて答え直すとしたら、私は何と答えるのだろう。
そう考えて今、この記事を書いている。
どうだろうな。私が綺麗と思うものは、どこか地味さがあるものが多い。
大ぶりな花はあまり好まない。派手な色も好きではない。
朝顔なんかは季節を感じられるから好きだけれど、季節問わずと考えるとそこまで優先順位が高いわけでもない。
ひまわりも同様である。
派手ではあるけれど、ケイトウという花は綺麗だと思った。いつだったか、ケイトウの花畑をどこかで見かけたのだ。鮮やかで燃える炎のような形をした堂々たるその姿は、息を飲んで見つめたものだ。
なんだかんだとあれこれ思い巡らせてみたものの、しかしケイトウは私の中で一番の椅子にはしっくりこない。
やはりあの脊髄反射のように答えた菜の花を越えられる存在は思い当たらなかった。
菜の花の好きなところを挙げてみる。
中学を卒業して、最初に行った高校。結局半年で辞めてしまって今があるわけだが、その高校に通うのに、私は電車で何駅も離れた高校を選んだ。
その高校に入学する日、電車の車窓から見えた菜の花畑の存在感が、私の中の花という概念をいまだに埋め尽くしてしまっているのだ。
電車から見えるわけだから、見える時間はほんのひととき。けれど、忘れられない景色なのである。
もう一つ好きなところを挙げるとすると、私の好きな歌の歌詞に菜の花があるからだ。
朧月夜という曲があるだろう。
菜の花畑に入り陽薄れ 見渡す山の端 霞深し
あの一説が、メロディも見えるその情景も、たまらなく好きなのである。
どこかノスタルジーなところがある。
食べても美味しい春の味である。
これ以上の花が私の中では見つからない。
これを読んでいる物好きな方へ。
あなたの好きな花は、何だろうか。今一度、自分の中の思い出と向き合えるこの質問を、私は今度は画面の向こうのあなたへ問いたい。
春なので、桜を題材にした詩に関する授業であった。
先生は、私にというよりはみんなに。
「皆さんは、何の花がお好きですか?」
こう聞いてきた。
まず端に座っていた私にあなたは?と聞かれて、私は深く考えずに
「菜の花です」
と答えた。
続いて別の生徒に質問が移る。次の生徒はネモフィラと答えた。
ネモフィラを先生は知らなかったようで、どうにも想像が出来なかったようだった。
菜の花、桜、ネモフィラ。どれも綺麗な花であると私は思うけれど、パッと思いついたのは菜の花だった。
菜の花は、白菜などの野菜を放っておいても咲く。まず食材という面も持っているから、私はどうしても花より団子なので春と言えば菜の花のパスタなど美味しいよねと思って挙げてしまったのだ。
先生や他の生徒にはそこまで話すことはなかったけれど、一年経って桜の季節がまためぐってきた今、あの先生の問いに深く考えて答え直すとしたら、私は何と答えるのだろう。
そう考えて今、この記事を書いている。
どうだろうな。私が綺麗と思うものは、どこか地味さがあるものが多い。
大ぶりな花はあまり好まない。派手な色も好きではない。
朝顔なんかは季節を感じられるから好きだけれど、季節問わずと考えるとそこまで優先順位が高いわけでもない。
ひまわりも同様である。
派手ではあるけれど、ケイトウという花は綺麗だと思った。いつだったか、ケイトウの花畑をどこかで見かけたのだ。鮮やかで燃える炎のような形をした堂々たるその姿は、息を飲んで見つめたものだ。
なんだかんだとあれこれ思い巡らせてみたものの、しかしケイトウは私の中で一番の椅子にはしっくりこない。
やはりあの脊髄反射のように答えた菜の花を越えられる存在は思い当たらなかった。
菜の花の好きなところを挙げてみる。
中学を卒業して、最初に行った高校。結局半年で辞めてしまって今があるわけだが、その高校に通うのに、私は電車で何駅も離れた高校を選んだ。
その高校に入学する日、電車の車窓から見えた菜の花畑の存在感が、私の中の花という概念をいまだに埋め尽くしてしまっているのだ。
電車から見えるわけだから、見える時間はほんのひととき。けれど、忘れられない景色なのである。
もう一つ好きなところを挙げるとすると、私の好きな歌の歌詞に菜の花があるからだ。
朧月夜という曲があるだろう。
菜の花畑に入り陽薄れ 見渡す山の端 霞深し
あの一説が、メロディも見えるその情景も、たまらなく好きなのである。
どこかノスタルジーなところがある。
食べても美味しい春の味である。
これ以上の花が私の中では見つからない。
これを読んでいる物好きな方へ。
あなたの好きな花は、何だろうか。今一度、自分の中の思い出と向き合えるこの質問を、私は今度は画面の向こうのあなたへ問いたい。
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