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それぞれの道、新たな道。
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「じゃあいつもので」
行きつけの、ガヤガヤした大衆料理店で、俺は店のマスター、ストラさんに向かって料理を注文した。彼女は体格のいい女性で、荒っぽい冒険者たちが喧嘩し始めたときに片手で持ち上げて店の外に放り出したという逸話がある。強い女性だ。
4人掛けのテーブル席に仲間と腰かける。隣にシヴ、向かいにはアリア、対角線上にはパリスが座っている。
戴冠式から1週間後。新たな勇者が異世界から召喚され、俺たち元勇者パーティは晴れて全員無職になった。
「はい、お待ちどうさま」
アツアツのフライパンの上に、米、そしてアサリ、エビ、イカといった豊富な海鮮が乗っているパエリアが運ばれてきた。オリーブオイルとワインの香りがしてさらに食欲が刺激され、空腹感が襲う。海に面しているここヴァルク王国の名物料理であり、冒険から帰ってきたときに仲間と食べる恒例の料理。思い出の味だ。
「あと、これはオマケね。勇者お疲れ様」
そう言って彼女は、バルサミコソースのかかったローストビーフを出してくれた。くちどけやわらかで、しっかりとした肉の味わいがよく、パエリアと共に一気に食卓を豪華にした。
「ありがとうストラさん。もうみんな知ってんだな。俺たちが解任されたってこと」
「そりゃね。この町は広いようで狭いのよ」
正式な勇者交代の発表はまだだが、情報が城下町に広まるスピードはやはりすさまじい。この世界最大の大国ヴァルク王国といえど、世界は狭い。貴族の持病から、小さなゴシップネタまで次の日には町の女がおしゃべりをしている。これは、異世界でもそうなのだろうか。
他の席からストラさんを呼ぶ声がして、「じゃあまたね」と行ってしまった。
「で、これからみんなどうするんだ」
勇者を解任された今、俺たちは一介の冒険者に戻った。もともとは、5年前に冒険者ギルドで出会った仲間だ。その後俺が勇者に選ばれ、晴れて勇者パーティとなったのだが、解任された今、各々進むべき道をもう一度考えようと数日時間が設けられた。
「私は、この町で僧侶としての活動に専念したいと思います」
「そうか、シヴ。どこかあてはあるのか」
「ええ、旧友が孤児院をやっておりまして、そこで働こうと思います」
彼は、アツアツのパエリアを丁寧に食べながら話した。
彼ももう40歳になる。(俺やアリア、パリスは20歳前半)
普通の冒険者ならそろそろ引退している時期だ。慈善活動に専念するのも立派な僧侶の仕事だ。
「俺は、常に戦いを求めるぜ。勇者パーティでなくなったとしても、そんなことは関係ない。冒険者ギルドに行って依頼を受け戦う、それだけだ。ハルも来るだろう?」
パリスは、飯に全集中といった様子だ。ただ、話していることは彼らしい。まだ一緒に冒険をしたいと言ってくれるのは正直うれしかった。しかし。
「俺はどうかな。久しぶりに自由な時間が送れることだし、戦いの事以外にも世界を見て回ろうと思うよ。勇者として各国を旅したけど、正直俺は世界のことをまだ知らな過ぎた。戦い以外のことももっと知りたいんだ。アリアはどうするんだ?」
「私は、勇者パーティの一員でなくなった今、フィールド家に戻らなければいけません」
アリアはいつもより元気がなかった。
勇者という称号はかなり大きい。王の直属の騎士というポジションであり、たとえ王族であっても、王の許可なしには命を下すことが出来ない。彼女も勇者の仲間であったために、上流貴族のお嬢様でありながらフィールド家からの干渉を受けずに冒険出来ていたのであろう。ただの冒険者になってしまった今、彼女を守る地位はもうない。
「そうか、ならみんなばらばらになってしまうな」
少し、しんみりとした空気になった時、店の扉が開いた。ローブをまとい、フードを深くかぶった背丈の大きい男が一人立っていた。
「いらっしゃいませ」
店の主、ステラさんがそう言って出迎えたが、まるで見えていないのかのように無視をしてスタスタとこちらに向かってきた。
「君がハル・エタニティだね」
俺の名前を呼んだ男は、テーブルの前で立ち止まった。
「どちら様ですか」
冒険者はどこで恨みを買っているかわからないものだ。フードを被った男はいかにも怪しい。
男はいわゆるテーブルのお誕生日席に座ると、ゆっくりとフードをとった。
その顔は、この国ならだれもが知っている顔であった。
ヴァルク王国第一位皇位継承者シンドバット・ヴァルク。少し前までは次期王と呼ばれていた人であった。
シンドバット殿下の顔を見た瞬間、俺はなにか時代が大きく動いているのだと感じた。
行きつけの、ガヤガヤした大衆料理店で、俺は店のマスター、ストラさんに向かって料理を注文した。彼女は体格のいい女性で、荒っぽい冒険者たちが喧嘩し始めたときに片手で持ち上げて店の外に放り出したという逸話がある。強い女性だ。
4人掛けのテーブル席に仲間と腰かける。隣にシヴ、向かいにはアリア、対角線上にはパリスが座っている。
戴冠式から1週間後。新たな勇者が異世界から召喚され、俺たち元勇者パーティは晴れて全員無職になった。
「はい、お待ちどうさま」
アツアツのフライパンの上に、米、そしてアサリ、エビ、イカといった豊富な海鮮が乗っているパエリアが運ばれてきた。オリーブオイルとワインの香りがしてさらに食欲が刺激され、空腹感が襲う。海に面しているここヴァルク王国の名物料理であり、冒険から帰ってきたときに仲間と食べる恒例の料理。思い出の味だ。
「あと、これはオマケね。勇者お疲れ様」
そう言って彼女は、バルサミコソースのかかったローストビーフを出してくれた。くちどけやわらかで、しっかりとした肉の味わいがよく、パエリアと共に一気に食卓を豪華にした。
「ありがとうストラさん。もうみんな知ってんだな。俺たちが解任されたってこと」
「そりゃね。この町は広いようで狭いのよ」
正式な勇者交代の発表はまだだが、情報が城下町に広まるスピードはやはりすさまじい。この世界最大の大国ヴァルク王国といえど、世界は狭い。貴族の持病から、小さなゴシップネタまで次の日には町の女がおしゃべりをしている。これは、異世界でもそうなのだろうか。
他の席からストラさんを呼ぶ声がして、「じゃあまたね」と行ってしまった。
「で、これからみんなどうするんだ」
勇者を解任された今、俺たちは一介の冒険者に戻った。もともとは、5年前に冒険者ギルドで出会った仲間だ。その後俺が勇者に選ばれ、晴れて勇者パーティとなったのだが、解任された今、各々進むべき道をもう一度考えようと数日時間が設けられた。
「私は、この町で僧侶としての活動に専念したいと思います」
「そうか、シヴ。どこかあてはあるのか」
「ええ、旧友が孤児院をやっておりまして、そこで働こうと思います」
彼は、アツアツのパエリアを丁寧に食べながら話した。
彼ももう40歳になる。(俺やアリア、パリスは20歳前半)
普通の冒険者ならそろそろ引退している時期だ。慈善活動に専念するのも立派な僧侶の仕事だ。
「俺は、常に戦いを求めるぜ。勇者パーティでなくなったとしても、そんなことは関係ない。冒険者ギルドに行って依頼を受け戦う、それだけだ。ハルも来るだろう?」
パリスは、飯に全集中といった様子だ。ただ、話していることは彼らしい。まだ一緒に冒険をしたいと言ってくれるのは正直うれしかった。しかし。
「俺はどうかな。久しぶりに自由な時間が送れることだし、戦いの事以外にも世界を見て回ろうと思うよ。勇者として各国を旅したけど、正直俺は世界のことをまだ知らな過ぎた。戦い以外のことももっと知りたいんだ。アリアはどうするんだ?」
「私は、勇者パーティの一員でなくなった今、フィールド家に戻らなければいけません」
アリアはいつもより元気がなかった。
勇者という称号はかなり大きい。王の直属の騎士というポジションであり、たとえ王族であっても、王の許可なしには命を下すことが出来ない。彼女も勇者の仲間であったために、上流貴族のお嬢様でありながらフィールド家からの干渉を受けずに冒険出来ていたのであろう。ただの冒険者になってしまった今、彼女を守る地位はもうない。
「そうか、ならみんなばらばらになってしまうな」
少し、しんみりとした空気になった時、店の扉が開いた。ローブをまとい、フードを深くかぶった背丈の大きい男が一人立っていた。
「いらっしゃいませ」
店の主、ステラさんがそう言って出迎えたが、まるで見えていないのかのように無視をしてスタスタとこちらに向かってきた。
「君がハル・エタニティだね」
俺の名前を呼んだ男は、テーブルの前で立ち止まった。
「どちら様ですか」
冒険者はどこで恨みを買っているかわからないものだ。フードを被った男はいかにも怪しい。
男はいわゆるテーブルのお誕生日席に座ると、ゆっくりとフードをとった。
その顔は、この国ならだれもが知っている顔であった。
ヴァルク王国第一位皇位継承者シンドバット・ヴァルク。少し前までは次期王と呼ばれていた人であった。
シンドバット殿下の顔を見た瞬間、俺はなにか時代が大きく動いているのだと感じた。
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