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不死の姫と勇敢な騎士
33 継承
しおりを挟む月明りが照らす町の広場には出来うる限りの国民が集められ、騎士団長テオドールと数名の騎士と最低限の人数で警備にあたる。現国王の不在が前代未聞ならば国民公開で町の広場で行われる王位の継承も前代未聞。
だがそれでいい、そうでなくてはいけない。どんな危険が潜んでいようとも、伝統や格式に背こうとも、これは神に王の交代を知らせるものでも、他国に示すものでもない。国民の気持ちを落ち着かせてまとめあげるためのものだ。
国民に見守られながら略式の王位継承の儀が進んでいく。
「最後に聖槍を手に、王の宣誓をお願い致します」
ヴァルハラを私の前に差し出し、テオドールが促す。闇色のヴァルハラは暗闇の中でさえもくっきりと見え、妖しい雰囲気を醸し出している。
「聞けベルク王国の民たちよ! 私が新たな王……ブリュンヒルド王ぞ!」
夜の静寂の中に響き渡る私の声は耳に、心に聞こえているだろうか?
「帝国と言う脅威が迫りくる中、皆が不安に思うのはと――」
「姫様!」
ズンッ!
背中に衝撃を受け胸に突き抜ける。体に強い違和感を覚え衝撃が走った胸に視線を下ろす。そこには短剣らしき刃物の切っ先が覗いている。
なんで……何が……あったの? 刺された?
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
誰かの悲鳴を皮切りに国民たちに混乱の渦が広がっていく。
「テオドール殿! どういうことです!」
リーザの声が聞こえる。テオドール? そうだ、私は誰かに刺された……次はきっと民が危ない……お願い皆を護って、テオドール……
刺さった短剣が勢いよく抜けれ、私はその場に倒れ伏した。
「皆のもの鎮まれ! これはただの茶番、まやかしの王にベルクの国が救えるはずもあるまい! 月の子、忌み子に王が務まるはずもない。現に長く平和が続いたベルク王国に帝国と言う災禍を呼び寄せた、そうであろう!」
これはテオドールの声だ。……どうして?
「もはや我らの国はベルクにあらず、我らの王はベルク王にあらず! 帝国に忠誠を誓い、大人しく投降すれば今までと変わらぬ生活が待っているぞ!」
「お、お父様! 何を仰っているのですか!」
「ラルフ、貴様も私と共に帝国へ下るのだ」
不思議と痛みは感じない。しかし、体に殆ど力が入らない。寒い……意識が朦朧とするなか聞こえるテオドールとラルフの声。
「よくも、貴様が内通者だったのか! テオドール!」
リーザの叫ぶ声が聞こえる。内通者……テオドール。
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