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不死の姫と勇敢な騎士
66 鳴動
しおりを挟む夜も更け、空には星たちが輝きを放つ。私に優しい光を持って夜を照らす月が丸く浮かび見下ろす。
「そろそろかしら……」
帝国の兵糧を狙い、戦い続ける力を奪うことに主眼を置いた今作戦。その鍵はベルクを窮地に導いた大罪人であり、ラルフの父でもあるテオドールと私の従者であり、現騎士団長ラルフにベルク最強の騎士と言わしめたリーザにかかっている。
無事二人を送り出し、私たちの仕事は完了している。あとは待つだけなのだが……
「待つというのがこんなにも大変だなんて……」
手持ち無沙汰で何もすることがない。すると自然と思考は不安を嗅ぎ取り、最悪の事態を思い描かせる。私はその度に頭を振って考えを散らした。どうやら、信じると言うことと心配することに因果関係はないようだ。
あんなに信頼を乗せて彼女を送り出したと言うのに、心配事は尽きないのだから。
「そろそろかしら……」
何度目かもわからないほど繰り返した囁き。最初は「大丈夫です」「心配しないで」と声を掛けてくれたラルフや騎士団の皆は、束の間の夢の中にいる。
彼らの寝顔を見て少しホッとする。荒れる波が少し凪いだような気がした。
「火が! 帝国の陣地で火の手が見えます!」
見張り役が叫びを上げ知らせる。その叫びに体をビクリとさせて皆が次々と目を覚ます。
その火は関所の見張り窓からも見えた。暗闇の平原の中で煌々と光りをばら撒く作戦成功の合図。
「やった! やったぞ!」
騎士団が手と手を取り合い、精一杯の喜びを表現する。しかし、私は今だ不安からは解放されていない。彼女の無事な姿を確認するまでは安心することなど出来ない。
「姫様……行きましょう」
そう思うのは私だけではない。私の肩に手を乗せ促ラルフも同じ心境なのだろう。きっと無事です、迎えに行きましょう。彼の手からはそう伝わってくるような気がした。
ドォォォンン!
その直後、関所全体を震わせるような鳴動が駆け巡る。
「爆発したぞ!」
見張り役の声がその原因を告げる。私はヴァルハラを掴み、ラルフと共に関所をでた。道が開けるところまで全力で走る。見張り窓から見えた燃え盛る炎のほど近くからもうもうと煙が立ち上っているのが見える。
「まさか、用意していた火薬に引火したのか……」
「リーザ……」
兵糧だけでなく武器としての火薬を失ったのならばそれ以上ない成果と言える。だが喜びよりも彼女の無事のほうが気がかりだ。
遠くからは帝国軍が慌てふためいている様子が微かに見える。所々から悲鳴も聞こえる。混乱を極めた陣地内……逃げ出すにはうってつけの状況ではあるが、もしあの爆発に巻き込まれていたら……
するとあちらからこちら側に走ってくる影が見える。後ろからの光源で照らされ、黒塗りの鎧だと気が付く。
「あれは! 帰って来たぞ!」
この渦中であの現場から逃げ出し、わざわざ敵であるベルクを目指してくる帝国兵はいない。つまり作戦を遂行し、撤退してきた我々の味方だ。
それでも私の不安は収まらない。何故ならその影は一つだけだったのだから。
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