上 下
86 / 95
不死の姫と魔女戦争

86 信仰と印

しおりを挟む

 黒の封書が届いてから数日。例の奇怪な封書に関しては、現状で判断材料が全く足りないために保留となった。手がかりは封蝋に刻印された印だけだ。それの調査をリーザに頼んだ。今は彼女の結果待ちと言ったところだ。

 まぁ難航することは間違いない。かと言ってこんな訳の分からない怪文書に気を揉んでいる暇はない。国王とは忙しい身なのだ。他国の王がここまで多忙の日々を送っているかはわからないが、少なくともベルク国王はそうだ。

「姫様、失礼いたします」

 扉を開けリーザが入ってくる。もうそんな時間だろうか。仕事に追われていると時間が進むのが早い。私は彼女が休憩のためにティーセットを持って現れたのかと思い、期待を寄せた。しかし彼女の手にはティーセットではなく、一冊の古めかしい本があった。

「以前頼まれておりました、封蝋の印が判明いたしました」
「本当に! さすがリーザ仕事が早いわね」

 これには私も驚く。まだ数日だと言うのに、あの謎の封書の手がかりを見つけ出してくるとは……

「それで、なんだったの?」

 彼女に結果を急く。私も多分に気になっていたようだ。

「はい、古い書物を整理していたのですが、このような書物を見つけました」

 私の仕事机に差し出された本に目をやり、表題を確認する。

「戦神信仰と奇跡? よくわからないけど、確かにこの印は……」

 表題ではどんな内容かは判然としないが、その下に描かれた印には覚えがある。つい数日前に送られてきた黒の封書に施された封蝋の印だ。盾と剣、そして双頭の狼。机の引き出しにしまってあった封書を取り出し、確認する。

 やや形は異なるが、同じものと断定してもいいだろう。

「中は読んでみたの?」
「いえ、まだ確認しておりません。整理を放り出して急ぎでお持ち致しました」

 よく見れば、リーザの白いエプロンはやや埃っぽく汚れている。それだけ急ぎと言うことはここまで走ってきたのだろうが、入室する彼女はいつも通りであった。彼女に疲れると言う事象は存在するのだろうか。

「わかったわ、ありがとうリーザ。これは私が確認するわね」
「はい、それでは私(わたくし)は書庫整理に戻ります」

 私は彼女が退出するのを見送り、黒の封書と共にその本を机の引き出しにしまい込む。今すぐに確認したいのは山々ではあるが、目の前の仕事を片付けてからにすることにした。

 


しおりを挟む

処理中です...