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エピローグ

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「ユミナ、仕事の調子はどうだい?」

 私は呼ぶ声がする方に振り向いた。

「あぁアレンか」

 今いいところだと言うのに……まったくどうでもいいのが絡んで来た。

「別にいつも通りよ。用が無いなら帰ったら?」

「相も変わらず君は冷たいな。たまには食事にでも付き合ってくれよ」

 毎回毎回、この男はしつこい。

「貴方の脳を好きなだけ弄らせてくれるなら考えてあげてもいいわ」

「おいおい、物騒だな。でも君なら本気でやりかねないから、またにするよ」

 本当は弄くって私への興味をなくさせたいのだが。

「それで、彼が君のフィアンセなのかな? えっと……名前はら、ライリーだっけ?」

「ラドリーよ。それにフィアンセだなんて……彼はかわいいかわいい私のモルモット。彼のおかげで"ゼウス"システムと人生カードの研究が随分進んだわ。あと他人の人生を疑似体験出来る"モルペウス"もね」

「で"今日は"どんな夢を見せているんだい?」

「私の好きな映画とミックスさせたシナリオよ」

「夢の中でも君と一緒になれるなら彼は幸せだな。じゃお邪魔虫は帰るとするよ」

 本当に邪魔だから手に負えない。
 でもこれでまた二人きりね。愛しのラドリー。

「貴方を精神病院で見つけたときは一目惚れしたんだからね」

 ラドリーは7年前に両親を強盗犯に殺されている。
 そのショックで意識を閉ざしてしまったままだ。
 不憫に思った親戚関係はそれぞれが少しずつお金を出して入院費を出して治療を施したが目覚める兆しは無く、親戚に見放されようとしていたところを私が引き取った。

「貴方は私が与える情報の中で幸せな人生さえ見ていればいいのよ」

 私は眠り続ける彼にそっとキスをした。

「それじゃ、私は帰るわラドリー。明日は……そうね今日の続きにしましょう。私達の結婚生活なんて素敵ね。子供は女の子と男の子と1人ずつがいいわ」





「ラドリー起きて」

 声に呼ばれ俺は目を覚ます。まだ意識がはっきりしない。

「ここは? さっきまでアルティスの中央センター前に……それに」

「何寝ぼけてるの?しっかりしてよラドリー」

 体を起こして横を見るとユミナと……子供が二人。男の子と女の子が1人ずつ。

「パパ早く起きてよ!」

 と女の子が俺の体を揺さぶる。

「今日はいっぱい遊んでくれるって約束だよ!」

 と男の子が言う。
 パパ?俺が?誰との?
 呆然と子供達を見た後ユミナの顔を見る。

「っつ!」

 突然走る頭の痛み。だがそれは一瞬だけで痛みはすぐに引いた。そして……すべて思い出した。まるで頭の中に記憶が飛び込んできたような奇妙な感覚だが。

「大丈夫?パパ?」

「あ、ああちょっと寝ぼけてたみたいだな。ごめんな」

 さっきまで何を考えていたんだ、この子達は俺とユミナの大切な子供達じゃないか。

「さあ、ユミナの作ったおいしい朝ごはんを食べてたくさん遊ぶぞ!」 

 そうだ、綺麗な奥さんとかわいい二人の子供達に囲まれて、俺は今日も幸せだ。

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