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第三章 紫電の命運

act.51 男心と女心

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 マキナの提案とは研究所のエネルギーを補給することにより、この施設の秘匿性機能を継続させると言うものであった。それを行わずここを後にした場合、近日中にはバージスの人間に発見されるであろう。

 そうなった場合、今だに当時の名残を残した非常に貴重な遺跡としておいそれと立ち入りが出来なくなる可能性がある。はたまた、迷い込んだ魔物が跋扈(ばっこ)し破壊してしまうかもしれない。

 再度訪れることを視野に入れるならば避けたい事態ばかりだ。であるならば、イグナールとしてもこの研究所の糧として魔力を供給することに反対はない。

「ああ、そうしよう」

 マキナの提案に快諾を示す。彼女がどういったように造られたかは不明だが、この施設に保管されていたと言う事はマキナにとって家にあたるのではないだろうか。そんな故郷への哀愁などは今までの彼女を見る限りないとは思う……

 マキナとしては主人となったイグナールにとって、将来的に利益をもたらす計算の上での提案であることは間違いない。だが、彼女が口に出さないだけでこの研究所を大事にしたいと言う思いを秘めている。そんな空想がよぎるほどには、彼女が人間である可能性を捨てていない。

「それじゃ行こう」

 エネルギーの補給場所。マキナがこの研究所の動力室と呼んで紹介してくれた部屋へ向かう。向かうと言っても、最終的に目指す出入口の中間に位置するので手間はない。一度探索に入った部屋でもありイグナールにとって少し苦い思いがある部屋だ。

 動力室は他の部屋とは違った異質な空気が流れる部屋だった。全ての部屋を凹凸(おうとつ)が極限までに無くしたような部屋に対して動力室はもはや凸凹(デコボコ)の迷路。隠すべきものを隠していない。他の部屋が秩序であるならばまさに無秩序。

 だが、そんな管や紐らしきものが乱雑に見え隠れする部屋にイグナールは少し興奮を覚えていた。決していやらしい方面の感情ではない。少年が未知に触れワクワクするような感情だ。

 そんな高ぶった素直な気持ちを吐露しようとした寸前、モニカが怪訝そうな顔で「気持ち悪い」と言った。イグナールは今の自分を見て出た言葉かと思い狼狽するもそれは全くの勘違いであった。

 モニカ曰く、まるで何百匹のワームの群れの中にいるようで落ち着かないと言うことである。そんな彼女の前で童心を露わにはしゃぐなくてよかったと、イグナールは焦りの汗を額から流しつつ頷いていた。

「俺達が用事を済ませるまでモニカはここで待っていてくれ」

 動力室の扉前までやってきたイグナール一行。モニカに留守番の提案をすると彼女は快諾した。一連の過去の中でモニカはきっと入りたくないだろうと思ったからだ。それとイグナール自身がもう少し部屋を見て回りたかったのもある。

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