嫁が浮気してたので俺は姿を消そうと思う

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

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第10話:失そう準備

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 これまでに行き先は決めた。逃亡決行当日は家を出て、JRの駅に行って東京に向かう。万が一妻が俺のスマホを見ても東京行きのチケットを取った履歴があるので疑うことはないだろう。しかし、俺は東京まではいかず、途中で降りる。そこで適当な在来線に移動していくつか駅を移動する。

 手ごろな駅周辺で着替えを買う。普段俺が買わない様な服を買うつもりだ。そして、その日は近場のネットカフェで過ごして、マンガを読んだりネットをつかったりして、一晩過ごす。翌日、鈍行で鹿児島を目指すのだ。

 万が一、俺のスマホの情報をなんらかの方法で取得されたら行き先が分かるので、切符は現金を使って買う。SUICAは使わない。位置情報が取られていたらまずいのでGPS機能はOFF。妻がメッセージを送ってくることもあり得るので、スマホの電源は入れたまま。位置情報を取られないために、ネカフェのフリーwifiには接続しない。

 鹿児島についたら、適当に駅をいくつか移動する。ネカフェはないと困るので適度に反映している場所がいい。山奥なんかに隠れたらコンビニもないのですぐに詰む。ネカフェは身分証明書がなくても登録できる会社があったので、その系列店に行く必要がある。それ基準で探すので駅の近くにその店がある駅を探す感じになる。

 次は、身分証明書の確保。普段ほとんど使わない身分証明書だけど、急に必要になることがある。例えば、車を運転している時に警察に止められたらすぐに提出が求められる。系列店のネカフェが無くて他の店にせざるを得ない時に必要かもしれない。

 そういった意味で普通自動車の運転免許を発行してもらう必要があった。もちろん、正規のものじゃない。偽名で作るのだから偽造となる。そんなの日本では無理だと思っていたけど、ネットをたたくと普通に偽造免許を作ってくれるサイトが山ほどある。詐欺じゃないことを願うばかりだけど、ネカフェに送るようにしてネカフェから申し込む。

 自宅で事前に作ってしまうと自宅に届いてしまう。家のパソコンに申し込んだ履歴も残るし、届いた郵便を妻が開けてしまうかもしれない。あらゆるリスクを回避して完璧に逃亡しなければいけない。俺は全てを逃亡決行後に行う様にしていた。

 その後は、街を見て生活できるか考えて不便そうだったら他の街に移動する。大丈夫だと思ったらネカフェ生活のスタートだ。

 逃亡決行までに家で行うこともある。ある日突然俺が黙っていなくなってしまったら妻は俺を探すだろう。一番最初に考えるのは警察だ。「捜索届」……最近では「行方不明者届」に名称が変わったんだったっけ。それを出しても警察は動かない。

 小学生とか幼児ならまだしも、成人の場合色々本人の都合もあるのだ。行方不明者届を受理することはあっても、積極的に捜索したりはしないのでスピード違反で警察に捕まるなど警察にお世話にならなければ見つかることはない。

 街中には「Nシステム」って自動ナンバー読み取り機が設置されている。でも、それを使うのはヤクザの幹部が移動する時とか、国際的に重要な人物が動いている時など。俺みたいにそこらのどこにでもいる「チー牛」サラリーマンが失そうしたといってもそれが使われることはない。その上、車は家においてきた。免許証もないのでレンタカーすら借りられない。俺が警察経由で捕まることはほぼないだろう。

 次に親兄弟。俺に兄妹はいないのでその点は心配がない。問題は両親だ。俺が出張から帰って来るはずの日に帰ってこず、数日たっても帰ってこない時に両親に連絡するだろう。両親のことだから、不安に思って病気になってしまうかもしれない。

 以前母さんは飼っていた猫が逃げ出した時に体重が10キロも痩せたことがあった。猫は死期を悟ると人間の目の届かない所に行く。普段家から出ない猫がわずかな隙間から抜け出したのはそういうことだったのだろうと俺は思っている。猫で10キロ痩せたので、一人息子が行方不明になったとなったら20キロとか30キロ痩せてしまうかもしれない。だから、俺は両親に宛てて手紙を書くことにしたんだ。

 俺が出張から帰宅予定が土曜日、その日の夜になっても帰ってこないと分かり妻がすぐに俺の実家に連絡したと仮定して翌日の日曜日に手紙が届くようにした。これはレターパックを使えば簡単だった。早く着いても遅く着いても具合が悪い。ちょうど日曜日に届くように準備した。

 文面はすごく考えた。長々と書いたらその分情報を渡してしまう。短すぎたら事件に巻き込まれたのではないかなどと考えてしまう。小説などによく出てくる「探さないでください」というのはよく考えられた言葉だった。

 端的に希望だけ伝え、余計な情報を出さないのだから。そして、自らの意思で失そうしていることを伝えている。理由などは一切書かれていないので「言いたくない」とか「察してください」とかの意味も含まれている。

 俺も「探さないでください」の作戦で行こうと思ったが、これは妻に対しては有効であっても両親に送る手紙の内容としては不向きだった。両親とは同居していないので、いなくなった俺のことを心配はするだろうけど、探すかどうかは微妙なところだ。探すのは妻が主体となるだろうし、そのサポートはするだろう。でも、主体的に探すかと言えば、そうは思わない。だから「探さないでください」ではダメなのだ。

 そうなると、急に文章が難しくなる。俺は事件などに巻き込まれたのではないことを伝えなければならない。自らの意思で逃亡するのだ。妻の浮気についてぐだぐだ書くのも男らしくないし、そんなことを書けば妻が責められるだろう。「あんたが浮気したから息子がいなくなった」と。

 だから、逃亡の理由を書くことはできない。それでいて安全で自由であることを伝えなければならないのだ。これまでに俺が読んだ小説にそんな一説があっただろうか。全然思いつかない。そもそも、単に家出? 失そう? 逃亡? する男の話なんて聞いたことが無い。その男が妻に伝えることならまだしも、別居している両親に送る手紙に書く言葉なんて……ある訳がない。そうか、つまりどうでもいいんだ。重要ではなかった。

 そこまで考えた結果「私は大丈夫です」という一文に決めた。

 430円もするレターパックライトはA4よりちょっと大きいくらいの封筒だ。厚紙でしっかりしている。その中に一筆箋を1枚だけ入れて「私は大丈夫です」と名前だけ書いて送った。親からしたら「自分は大丈夫かもしれないけど、奥さんや子どもはどうなの!?」と思うかもしれない。

 いずれ妻の浮気が分かり、娘も俺の子でないと分かった時に俺の書いた一文が理解できるかもしれない。それまでは誤解もされるかもしれないけど、そんなことはもうどうでもいい。俺は全てから逃げるのだから。

 できる限りの準備はできた。後は決行日の木曜日を待つだけだ。あと2日。
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