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後日談
ミカ、東の島へ行く①
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「お願い!」
「だめ」
「ラスのけち!!」
「そうかもな」
私達二人の押し問答を眺め、ユーグはずずとお茶を啜った。
渡り日まで残り10日というある日。
私は狩りから戻ってきたラスを捕まえ、とあるお願い事をしたのだが、すげなく却下されてしまった。
夕食にあずかろうとやって来ていたユーグは、のんびりとソファーに座って話の決着がつくのを待っている。
「どうしてダメなの?」
「危ないから」
「ラスに乗るの、だいぶ慣れてきてるよ。ちゃんとラスの言う事聞くし、大人しくしてる」
「そういう問題じゃない」
お互いに一歩も引かない様子に焦れたユーグが、呆れ顔で口を挟んだ。
「いいじゃないか、ラス。可愛い奥さんがそこまで頼んでるんだから」
いいぞ、ユーグ! もっと言ってやって!
ラスは彼を睨み、フン、と鼻を鳴らした。
「可愛い奥さんだからこそ、危険に晒したくないんだ。ミカに万が一のことがあったら、オレは生きていられない」
「……うわあ。情熱的だねえ」
ユーグは感心したように頷き、再び静観の構えに戻る。
だめだ、ユーグは頼りに出来ない。
ラスは私の前にかがみこみ、軽いキスを頬に落とした。
「欲しいものがあるなら、オレが買ってきてやるから。ミカはいつも通り、いい子で待っていて」
いかにも大人ぶった言い方にカチンときた私は、最後の切り札を切ることにした。
「ラスの嘘つき」
「……どういう意味?」
ラスの目付きが険しくなる。
私は顔を背けてラスから離れ「もういいよ」と言い放った。
「前にラスは言ったよね。『ミカが望むならどんなことだって叶えてやる』って。結婚して三年経ったら、もう忘れちゃうんだ。ふーん」
「ちがっ! それは――」
「ラスが一緒に飛んでくれないのなら、他の人に頼むから、もういい」
腹いせにそう言い放った直後、ユーグは大きな溜息をついた。
「あーあ。ミカ、それ最悪」
どういう意味か聞き返そうとした私を、ラスが荒々しい手つきで抱き寄せる。
腰をがっちり掴まれ、逃がさないといわんばかりに顔を覗き込まれた。
「他の人? 一体、誰に飛んでもらうつもり」
ラスの青い瞳の中で、嫉妬の炎がメラメラと燃え盛っている。
あ、まずい。言い過ぎた。
「それは……」
「それは? 早く名前を言って、ミカ。そいつの翼を叩き折ってくるから」
怒りに満ちた表情は彼が本気だと雄弁に語っていた。
私と同じで、かなりヤキモチ焼きの旦那さまだ。
「父さんだよ! 父さんに頼もうかなっていう意味!!」
「……ほんとに、父さん?」
「そうだよ。そんなこと頼めるような、親しいタリム人なんて他にいない。知ってるでしょ?」
ようやく納得したのか、ラスは腕の力を緩め、私を優しく抱き締め直した。
「でも驚いたし、すごく傷ついた。ミカ、慰めて」
「わあ、図々しい。どの口が、そんなことを言うわけ?」
「このくち」
ラスがにっこり笑って、私の唇をちゅ、と啄む。
「……もう帰ろうかな」
ユーグはお腹をさすりながら、悲しそうな顔でぼやいた。
事の起こりは、坂野智子さんの日記が他にも見つかったこと。
物置の片づけをしてたら出てきた、というその日記を、坂野さんのご子孫はわざわざ届けてくれたのだ。
私は彼に何度も礼を述べ、大切に読んで返すと約束した。
早速開いた日記に記されていた内容に、私は大きく目を見開いた。
なんと坂野さんはつがい相手であるガルザと一緒に、時々東の島へ遊びに行っていたというのだ。
鳥型に変身したガルザに麻縄を巻き、それを自分にも巻きつけて落ちないように工夫したのだとか。
半日もあの姿勢で冷たい強風に耐えるのって、かなり辛い気もするけど、私の視線は日記の中の一文に釘付けになった。
『――東の島は、大層栄えていた。石畳の道にレンガ造りの瀟洒な建物。横浜の港を思わせる。自分と同じただびとを数人見かけた。ガルザはサリム人男性を警戒して、私を常に抱きかかえるようにして歩いたので、話しかけることは出来なかった。日本人らしき人もいれば外国人もいたが、みんな黒目黒髪だった。女神達は、黒目黒髪の女性が好きなのだろうか』
他のただびと!?
そういえば、以前ユーグも話してくれた。『大抵のただびとは、東の島に落ちる』って。
何もかもすっかり落ち着いた今だからこそ、会いたいと思った。会って、話してみたい。
私はこの世界で私は生きていくと決めているし、元の世界に戻りたいとは全く思っていない。
ただ、自分と同じ境遇の人と会ってみたいだけなのだ。翼も、魔法も持っていない人と。
日記の内容をラスに話し、私もジャンプに行きたい、と頼んでみたのだが、全く相手にされなかった。
もしかしたら、彼は不安なのかもしれない。
私が元の世界を恋しがっていると勘違いしてるのかも。
ユーグが家に戻った後、私はラスに違うおねだりをすることにした。
「明日は、一日お休みなんでしょう?」
「ん? ああ、そうだな。ミュシカまでは家にいるよ。獲物の加工もやらなきゃだけど、それは明後日からにする」
「じゃあ、朝の沐浴に連れていって。それも、ダメ?」
ラスは嬉しそうに笑って、ソファーの隣に座った私の髪を優しく撫でてくれた。
「ああ、もちろんいいよ。誰も来てない時間に、行こうな」
私がそこで何とかラスを説得してやろう、と密かに狙ってることに気づかず、純粋に喜んでいる様子に、ちくりと胸が痛む。
「ラス、大好き」
ごめんねの代わりに手を伸ばし、柔らかな彼の髪を梳く。
それを合図に、ラスが私に覆いかぶさってくる。ラスのくれる甘いときめきに私はすっかり夢中になった。
◇◇◇
早朝の沐浴場は久しぶりだ。
誰もいないことを確認してから服を脱ぎ、泉の中に全身を浸す。
ラスも豪快に服を脱ぎ捨て、私の隣に並んだ。
「あれ、今日は泳がないの?」
からかうように声を掛けると、ラスが少し赤くなる。
「どれだけ昔の話だよ」
「ほんの数年前でしょー―わ、ちょっと、止めて!」
仕返しにザブザブをお湯をかけてくるラスに飛びつき、泉の中に沈めてやろうと力を込める。
ラスは素早く私の手をかわし、ぎゅっと背中から抱きしめてきた。
「はぁ……幸せ。ミカの肌、いい匂いする」
「……もう。恥ずかしいでしょ」
「なんで? 誰も見てない」
そのままラスは私の肩口に吸い付き、跡をつけた。
悪戯が成功した子どものように無邪気な笑みを浮かべた彼に、私もつられて笑ってしまう。
私を抱き締めたまま、ラスはお湯の中であぐらをかいた。
「――それで? ミカは何か話したいことがあるんだろ」
ラスの声がすぐ後ろから聞こえる。彼にすっぽり包まれる体勢になった私は、ドキリとしてしまった。
上手く隠せたと思っていたのは私だけで、ラスは私の企みにとうに気づいていたらしい。
思い切って心のうちを打ち明けようと口を開く。
「元の世界が懐かしいとか、そういうんじゃないの。ただ、同じ世界から来た人と話してみたいだけ。私のこの願いがラスを不安にさせるなら、もう言わない。でもきっと私はこの先もずっと『ああ、他のただびとに会ってみたかったなあ』と思って過ごすと思う」
脅しまじりになってしまったが、これが私の本音だ。
ラスは私の肩に額を当て、小さく溜息をついた。
「そんな風に言われたら、俺に選択の余地はないな」
「……ごめん」
「いや、俺の方こそ意地になってごめん。ミカの気持ち、もっと考えるべきだった」
ラスは謝り、「じゃあタジに話してみる。あと、ユーグにも」と続ける。
「ユーグに? なんで?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまう。
「ミカ一人を背中に乗せて長時間飛ぶの不安だから、ユーグにも一緒に乗ってもらう。上空は寒いし、風がどれだけ強いかも分からない。ミカに何かあったらと思うと、怖くて仕方ないんだよ」
不安が滲む彼の口調に、胸が痛くなった。
坂野さんが飛べたんだから私も大丈夫だろう、なんて楽観的に考えていたけど、ラスの言う通りそう簡単なものじゃないんだろう。
それでも、どうして東の島へ行ってみたいという気持ちを抑え込めない自分が嫌になる。
「ごめんね、ラス」
しょぼくれた私に気づき、ラスは苦笑した。
「そんなに落ち込むなよ、ミカ。番の願いを叶えること自体は、俺たちにとってはご褒美なんだから」
「うん……ラスも何かない? 私もラスのお願い叶えたい」
自分だけ我儘を聞いて貰うのも悪くて、そう申し出る。
ラスは私を抱え直し、彼の方を向かせた。
「ミカがオレのお願い、何でも言うこと聞いてくれるってこと?」
甘く煌めく瞳に、心臓が跳ねる。
惜しげもなく晒された引き締まった裸体を、急に直視出来なくなった。
「う、うん。そうだね」
赤くなって視線を逸らせた私の耳に、ラスはそっと唇を寄せた。
「ふーん。……じゃ、その権利は、発情期まで取っておいてもいい?」
例のセクシーな声で囁かれ、ぐは、と吐血しそうになる。
「……っ、そういう意味じゃないっ!」
「照れちゃって、可愛い」
ラスは余裕たっぷりな表情で、私の耳をはむ、と甘噛みする。
昔は私が可愛がる方だったのに、なにこの下克上。
そうは言っても大好きな人に愛情を籠めてからかわれるのはやっぱり嬉しくて、私の頬はでれでれと緩んでしまうのだった。
「だめ」
「ラスのけち!!」
「そうかもな」
私達二人の押し問答を眺め、ユーグはずずとお茶を啜った。
渡り日まで残り10日というある日。
私は狩りから戻ってきたラスを捕まえ、とあるお願い事をしたのだが、すげなく却下されてしまった。
夕食にあずかろうとやって来ていたユーグは、のんびりとソファーに座って話の決着がつくのを待っている。
「どうしてダメなの?」
「危ないから」
「ラスに乗るの、だいぶ慣れてきてるよ。ちゃんとラスの言う事聞くし、大人しくしてる」
「そういう問題じゃない」
お互いに一歩も引かない様子に焦れたユーグが、呆れ顔で口を挟んだ。
「いいじゃないか、ラス。可愛い奥さんがそこまで頼んでるんだから」
いいぞ、ユーグ! もっと言ってやって!
ラスは彼を睨み、フン、と鼻を鳴らした。
「可愛い奥さんだからこそ、危険に晒したくないんだ。ミカに万が一のことがあったら、オレは生きていられない」
「……うわあ。情熱的だねえ」
ユーグは感心したように頷き、再び静観の構えに戻る。
だめだ、ユーグは頼りに出来ない。
ラスは私の前にかがみこみ、軽いキスを頬に落とした。
「欲しいものがあるなら、オレが買ってきてやるから。ミカはいつも通り、いい子で待っていて」
いかにも大人ぶった言い方にカチンときた私は、最後の切り札を切ることにした。
「ラスの嘘つき」
「……どういう意味?」
ラスの目付きが険しくなる。
私は顔を背けてラスから離れ「もういいよ」と言い放った。
「前にラスは言ったよね。『ミカが望むならどんなことだって叶えてやる』って。結婚して三年経ったら、もう忘れちゃうんだ。ふーん」
「ちがっ! それは――」
「ラスが一緒に飛んでくれないのなら、他の人に頼むから、もういい」
腹いせにそう言い放った直後、ユーグは大きな溜息をついた。
「あーあ。ミカ、それ最悪」
どういう意味か聞き返そうとした私を、ラスが荒々しい手つきで抱き寄せる。
腰をがっちり掴まれ、逃がさないといわんばかりに顔を覗き込まれた。
「他の人? 一体、誰に飛んでもらうつもり」
ラスの青い瞳の中で、嫉妬の炎がメラメラと燃え盛っている。
あ、まずい。言い過ぎた。
「それは……」
「それは? 早く名前を言って、ミカ。そいつの翼を叩き折ってくるから」
怒りに満ちた表情は彼が本気だと雄弁に語っていた。
私と同じで、かなりヤキモチ焼きの旦那さまだ。
「父さんだよ! 父さんに頼もうかなっていう意味!!」
「……ほんとに、父さん?」
「そうだよ。そんなこと頼めるような、親しいタリム人なんて他にいない。知ってるでしょ?」
ようやく納得したのか、ラスは腕の力を緩め、私を優しく抱き締め直した。
「でも驚いたし、すごく傷ついた。ミカ、慰めて」
「わあ、図々しい。どの口が、そんなことを言うわけ?」
「このくち」
ラスがにっこり笑って、私の唇をちゅ、と啄む。
「……もう帰ろうかな」
ユーグはお腹をさすりながら、悲しそうな顔でぼやいた。
事の起こりは、坂野智子さんの日記が他にも見つかったこと。
物置の片づけをしてたら出てきた、というその日記を、坂野さんのご子孫はわざわざ届けてくれたのだ。
私は彼に何度も礼を述べ、大切に読んで返すと約束した。
早速開いた日記に記されていた内容に、私は大きく目を見開いた。
なんと坂野さんはつがい相手であるガルザと一緒に、時々東の島へ遊びに行っていたというのだ。
鳥型に変身したガルザに麻縄を巻き、それを自分にも巻きつけて落ちないように工夫したのだとか。
半日もあの姿勢で冷たい強風に耐えるのって、かなり辛い気もするけど、私の視線は日記の中の一文に釘付けになった。
『――東の島は、大層栄えていた。石畳の道にレンガ造りの瀟洒な建物。横浜の港を思わせる。自分と同じただびとを数人見かけた。ガルザはサリム人男性を警戒して、私を常に抱きかかえるようにして歩いたので、話しかけることは出来なかった。日本人らしき人もいれば外国人もいたが、みんな黒目黒髪だった。女神達は、黒目黒髪の女性が好きなのだろうか』
他のただびと!?
そういえば、以前ユーグも話してくれた。『大抵のただびとは、東の島に落ちる』って。
何もかもすっかり落ち着いた今だからこそ、会いたいと思った。会って、話してみたい。
私はこの世界で私は生きていくと決めているし、元の世界に戻りたいとは全く思っていない。
ただ、自分と同じ境遇の人と会ってみたいだけなのだ。翼も、魔法も持っていない人と。
日記の内容をラスに話し、私もジャンプに行きたい、と頼んでみたのだが、全く相手にされなかった。
もしかしたら、彼は不安なのかもしれない。
私が元の世界を恋しがっていると勘違いしてるのかも。
ユーグが家に戻った後、私はラスに違うおねだりをすることにした。
「明日は、一日お休みなんでしょう?」
「ん? ああ、そうだな。ミュシカまでは家にいるよ。獲物の加工もやらなきゃだけど、それは明後日からにする」
「じゃあ、朝の沐浴に連れていって。それも、ダメ?」
ラスは嬉しそうに笑って、ソファーの隣に座った私の髪を優しく撫でてくれた。
「ああ、もちろんいいよ。誰も来てない時間に、行こうな」
私がそこで何とかラスを説得してやろう、と密かに狙ってることに気づかず、純粋に喜んでいる様子に、ちくりと胸が痛む。
「ラス、大好き」
ごめんねの代わりに手を伸ばし、柔らかな彼の髪を梳く。
それを合図に、ラスが私に覆いかぶさってくる。ラスのくれる甘いときめきに私はすっかり夢中になった。
◇◇◇
早朝の沐浴場は久しぶりだ。
誰もいないことを確認してから服を脱ぎ、泉の中に全身を浸す。
ラスも豪快に服を脱ぎ捨て、私の隣に並んだ。
「あれ、今日は泳がないの?」
からかうように声を掛けると、ラスが少し赤くなる。
「どれだけ昔の話だよ」
「ほんの数年前でしょー―わ、ちょっと、止めて!」
仕返しにザブザブをお湯をかけてくるラスに飛びつき、泉の中に沈めてやろうと力を込める。
ラスは素早く私の手をかわし、ぎゅっと背中から抱きしめてきた。
「はぁ……幸せ。ミカの肌、いい匂いする」
「……もう。恥ずかしいでしょ」
「なんで? 誰も見てない」
そのままラスは私の肩口に吸い付き、跡をつけた。
悪戯が成功した子どものように無邪気な笑みを浮かべた彼に、私もつられて笑ってしまう。
私を抱き締めたまま、ラスはお湯の中であぐらをかいた。
「――それで? ミカは何か話したいことがあるんだろ」
ラスの声がすぐ後ろから聞こえる。彼にすっぽり包まれる体勢になった私は、ドキリとしてしまった。
上手く隠せたと思っていたのは私だけで、ラスは私の企みにとうに気づいていたらしい。
思い切って心のうちを打ち明けようと口を開く。
「元の世界が懐かしいとか、そういうんじゃないの。ただ、同じ世界から来た人と話してみたいだけ。私のこの願いがラスを不安にさせるなら、もう言わない。でもきっと私はこの先もずっと『ああ、他のただびとに会ってみたかったなあ』と思って過ごすと思う」
脅しまじりになってしまったが、これが私の本音だ。
ラスは私の肩に額を当て、小さく溜息をついた。
「そんな風に言われたら、俺に選択の余地はないな」
「……ごめん」
「いや、俺の方こそ意地になってごめん。ミカの気持ち、もっと考えるべきだった」
ラスは謝り、「じゃあタジに話してみる。あと、ユーグにも」と続ける。
「ユーグに? なんで?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまう。
「ミカ一人を背中に乗せて長時間飛ぶの不安だから、ユーグにも一緒に乗ってもらう。上空は寒いし、風がどれだけ強いかも分からない。ミカに何かあったらと思うと、怖くて仕方ないんだよ」
不安が滲む彼の口調に、胸が痛くなった。
坂野さんが飛べたんだから私も大丈夫だろう、なんて楽観的に考えていたけど、ラスの言う通りそう簡単なものじゃないんだろう。
それでも、どうして東の島へ行ってみたいという気持ちを抑え込めない自分が嫌になる。
「ごめんね、ラス」
しょぼくれた私に気づき、ラスは苦笑した。
「そんなに落ち込むなよ、ミカ。番の願いを叶えること自体は、俺たちにとってはご褒美なんだから」
「うん……ラスも何かない? 私もラスのお願い叶えたい」
自分だけ我儘を聞いて貰うのも悪くて、そう申し出る。
ラスは私を抱え直し、彼の方を向かせた。
「ミカがオレのお願い、何でも言うこと聞いてくれるってこと?」
甘く煌めく瞳に、心臓が跳ねる。
惜しげもなく晒された引き締まった裸体を、急に直視出来なくなった。
「う、うん。そうだね」
赤くなって視線を逸らせた私の耳に、ラスはそっと唇を寄せた。
「ふーん。……じゃ、その権利は、発情期まで取っておいてもいい?」
例のセクシーな声で囁かれ、ぐは、と吐血しそうになる。
「……っ、そういう意味じゃないっ!」
「照れちゃって、可愛い」
ラスは余裕たっぷりな表情で、私の耳をはむ、と甘噛みする。
昔は私が可愛がる方だったのに、なにこの下克上。
そうは言っても大好きな人に愛情を籠めてからかわれるのはやっぱり嬉しくて、私の頬はでれでれと緩んでしまうのだった。
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