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最終話 未来 ~聖者アルカイオス~
しおりを挟む祈りは届いたのだろうか。
大聖女アメリアと剣聖テオドロスの息子、聖者アルカイオスは人類で初めて聖者となった人物である。
彼は母、大聖女アメリアの聖女の庭で育った経緯からごく自然に聖者に覚醒した。
神獣達に愛でられ、賢者の教えを受け、剣聖の手ほどきを受けた、天と世界とに祝福された聖者である。
これにより。
勇者達の魔王討伐には二度と戦力不足が起きる事はなかった。
勇者、剣聖以外で聖剣で戦う事の出来る聖者の誕生である。それは、世に聖女の存在そのものの不要論まで生み出した。
「聖者や聖女を生み出されるのは神の御意志。ただ人が議論するには及ばない」
後に、聖者アルカイオスは、「良識と倫理を説く聖者」という二つ名で呼ばれるようになる。簡潔だが理をもって他者同士の紛争などを調停する事が多かった事から、自然とそう呼ばれた。
また彼、聖者アルカイオスは魔王討伐には赴く必要のない、人類史上初の聖者でもあった。その存在意義に多くの者が首を傾げたが、これは本人が宣言して収めた。
「我の存在意義を知る者、すなわち、これ神ただ一柱あるのみ」
寡黙な聖者は、ただ静かにその人生の殆どを母たる大聖女アメリアの元で過ごした。
母、大聖女アメリアが息を引き取り、父、剣聖テオドロスがその後を追うと、ジディンクス王国を旅立ち、各地を巡った。
彼は風景画を得意とし、やがて各地で書いた絵を国元に送り始めた。
ジディンクス王国を治めていた従兄弟王には寡黙な口とは対照的な手紙を送った。
『母は魔王討伐を終えた時点で、もう何処にも行く事は出来ない身だった。長生きできたのは単に神々の恩恵に過ぎない。殆ど母国とジディンクス王国位しか世界を知らぬまま旅立たせてしまった。せめて墓所にこの絵を飾ってやって欲しい』
これに。
カエサリオンの息子、カエサル王は微笑を浮かべて引き受けた。
大聖女アメリアと剣聖テオドロスの息子アルカイオスはやがて長い旅を終えて帰国した。カエサル王が心底驚嘆したのは、この時、彼が妻を伴って帰国した事。
その妻がすでに妊娠していた事である。
そして、この妻が殆ど何も知らずアルカイオスの妻になっていた事だった。
そう。
アルカイオスがもうすぐ60才を迎える男である事さえも、である。
見た目、30才位の美丈夫ぷりは彼の父とよい勝負ではあるのだが。
諸々全てに対して、動揺し、混乱しながらもニッコリと微笑んだカエサル王は、しっかりと拳を強く握りー
勢いよく、遠慮無く、キッチリとアルカイオスの頭上に拳骨を叩きこんだ。
何故、説明も順序も何もかも無視したのか?!という従兄弟達の問いに、
「これと決めた女性を口説く時には全てを明らかにせず、速攻でものにしろと賢者テレス・ムィートに教わった」
と白状し、
「何教えてるんですか!!賢者様!!」
という悲鳴を上げさせた。
「それに父上からも、これと決めた女性を得るためには慎重に、かつ迅速に事を進めろ、相手の退路を断てと教わった」
と更に暴露し、
「何教えてるんですか!!伯父上!!」
と頭を抱えさせた。
「そう言えば、そう言った二人の後ろで母上が見た事のない無表情で立っておられたな。あれは怖かった。何があったか知らないが二人がひたすら頭を下げていたが」
この一言に、ジディンクス王国の王族達は震え上がった。何故なら彼等の従兄弟、聖者アルカイオスは嘘をつけない。よってこれは事実なのだ。
何という恐ろしい事を今、思い出してくれたんだ!!何故、その父達の過ちから学習してくれなかったんだ!そんな事実、できれば永遠に知りたくなかったのに!!
そして。
兄弟仲よく、アルカイオスの首根っこを掴みあげ、深々と彼の妻に謝罪した。
彼の妻は夫の実年齢に顔を引き攣らせ、ついで彼が聖者である事に青くなり、そして世にも有名な大聖女と剣聖の息子である、と知ると気を失った。
だが、それでもアルカイオスと離縁を望まず、戸惑いながらもジディンクス王国の辺境にて娘を生んだ。
その額に、大聖女アメリアと同じ神紋を浮かべた、生まれながらの大聖女を。
それは。
大聖女アメリアの象徴物、沙羅の花。
懐かしく、慕わしい大聖女の神紋に彼女の吐息を感じ、しばしジディンクス王国の王族達は穏やかで幸福だった少年の時代を振り返った。
聖女の庭にいつも神獣達と共に暮らしながら穏やかに微笑んでいた、かの人の事を。
こうして。
ジディンクス王国の辺境には必ず聖者か聖女が誕生するようになった。
この事からジディンクス王国はやがて神々に祝福されし王国、と謳われるようになる。
コメント
初めての投稿で、いやはやどうしたものか、とヒヤヒヤしていましたがようやく終着点に辿り着きましたよ。(ホッ)
というより完結が一度は見えたのに、見失うと言う謎現象が起き、(はい、単に私の力量不足です!)危うく近況報告での「終わる終わる詐欺」になる所でした。あぁ、危ない!
この作品のテーマは命、魂の循環でした。又は再生であり祈りです。
短いお付き合いでしたが、読んで下さった方達全てに感謝します。
本当にありがとうございました!
続きは予定しておりません。
ただアメリア達の子孫の話を現在執筆中です。まだまだ構成が固まり切れていないので投稿はずっと先になると思います。
また、世界観は同じですがこんなにシリアス一杯でなく、完全にコメディよりに切り替わる予定です。(予定と予防線を張る、小賢しい悪足掻き)
ではまた、いつかお目にかかれる日まで。
この世界の片隅で、私も待っています。
応援ありがとうございます!
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