友達の家の玄関扉が異世界に繋がっちゃって帰れないんだけど

たかまちゆう

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異世界への扉

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 六畳間で、一組の男女が対戦ゲームに興じている。
「うおぉぉぉ! よっしゃー! 初めてエミに買った!」
「負けたー! コータ強くなったね。悔しい! もう一回やろう、もう一回」
 エミはコータの腕に抱きついてせがんだ。
「や、やめろ。くっつくなよ」
 コータの顔が真っ赤になった。
「あ、あれ……? ……コータ、もしかして、あたしのこと好きだったの!?」
「そうだよ。今更気付いたのか」
 照れ隠しなのか、コータは少し怒った顔をして見せた。
 エミがソワソワし始める。
「だ、だって、コータはあたしのことなんて、女として見てないのかと思ってたから」
「エミこそ、俺のこと男だと思ってないだろ」
「いや……(小声)そんなことは……ごにょごにょ……」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、何にも」
 コータは時計を見た。針は午後8時過ぎを指している。
「……もうこんな時間か。今日は泊まっていけよ」
「いやいやいやいや、帰るよ」
 エミは赤くなって帰り支度を始めた。
「今、帰れないぞ」
「なんでよ、帰るよ」

ガチャ

 玄関扉を開けると、そこは草原だった。

バタン

「……何これ!? なんか外が草原なんだけど!?」
「ああ、繋がったか。そこのドア、毎日このくらいの時間になると、異世界に繋がるみたいでな」
 コータはゲームのコントローラーを手に持ったまま、悠然と言った。
「……は?」
 エミの目が点になった。
 意味が分からない。
「しかも、ランダムエンカウントの敵がめちゃくちゃ強い。ゲーム開始直後にレベル20の敵と戦う感じ。俺は一度遭遇して死にかけて必死で逃げてきた。それから二度と外に出てない」
「いやいやいやいや。どんな現象よそれ」
 エミは頭痛をこらえるように、こめかみを押さえた。
「正直俺にも意味は分からんが、現実にそうなってるんだから仕方ない。朝になれば元に戻ってるから、それほど困ってはいないぜ」
「今まさに私が困ってるけど?」
「だから、泊まってけよ。別に無理矢理襲ったりはしねえから」
「ううう……」
 エミはしばらくしゃがみこんで唸っていたが、おもむろに立ち上がると、コータから1メートルほど離れた場所に座り直した。
「コータはさ、あたしのこと好きなんだったら、したいとか思わないの? その……、キス、とか」
「そりゃ、したいに決まってるだろ。でもエミが嫌なら我慢するさ」
「そ、そう……」
 エミが真っ赤になって言い淀むのをしばらく見ていたコータは、不意にハッとしたように目を輝かせた。
「もしかして、してもいいのか!?」
「え、嫌だよ!」
 エミが即答したので、コータはショックを受けた顔をした。
「なんだ、違うのか」
「だって、あたし達はまだ付き合ってるわけじゃないし……、告白すらされてないし……」
「……『』?」
 コータは少し考え、正座してエミに向き直った。
「エミ」
「う、うん」
「好きだ。俺と付き合ってくれ」
「…………」
 エミは赤くなった顔を隠すように両手で押さえ、
「……はい」
 と頷いた。
 それから、コータに近づき、今度は肩が触れ合う位置に座った。
「…………」
 やや潤んだ瞳でコータを見上げる。
「キスしても、いいか?」
 コータのこの質問に、
「……うん」
 今度はエミも頷いた。
「……ん……」

 離れた後、エミはコントローラーを握って、
「もう一戦しよう!」
 と言った。
「おう、やるか」
「……今日、本当に泊まっていってもいいの?」
「お、おう。なにしろ、外は異世界だからな」
「ふふ。そうだね。異世界だからね」
 二人は異世界に感謝した。
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