金髪美少女によって異世界へと連れ去られた僕の話

たかまちゆう

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17.窮地

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 景色がまたしても変わった。

 広大な土地に、まるでチューリップのような植物が大量に生い茂っている。
 季節が違うのか、まだ花は咲いていない。

 ミミは、僕に寄りかかってきた。
 既にレムを抱えている僕には、ミミを支えることができず、結局三人一緒に倒れてしまう。

「……ちゃんと支えて」
「ご、ごめん……」

 ミミは息が上がってしまっている。
 ランゼローナから逃れるために、かなりの距離を移動したのだろう。

「しばらく休ませてもらう。いくらあの人でも、この距離なら探知できないはず」
「ありがとう、助かったよ。……君達のこと、疑ってごめん」
「私に謝ってもらう必要はない。レム様に命じられたら、私が貴方を殺していた」
「……」
「でもレム様には謝って。貴方のことを、本当に心配していたから」
「一体、どうして僕が殺されそうなことが分かったの?」
「ローファ様に相談されたの。あの人が、ヒカリを殺そうとしていると」
「ローファが?」

 訳が分からなかった。
 ローファは、ランゼローナよりも『魔力の器』が大きいはずだ。
 ランゼローナを止めたいなら、自分で止めればいいだけの話ではないか?

「ローファ様の『魔力の器』は、本当はランゼローナ様より小さい」
「……えっ?」
「レム様と私も、今日、初めて教えられた。このことを知っていたのは、今生きている人の中では、ローファ様とファラ様とランゼローナ様だけらしい」
「……どうして、そんな嘘を?」
「ランゼローナ様はパヒーネスの外から来た。しかも、体型も城の住人の好みからは外れている。だから、この世界の序列一位には相応しくないとされた。ローファ様は城の生まれで身体も小さいから、人望が得られる。そういう判断があったらしい」

 結局、城の中では『魔力の器』よりも家柄が優先されるのか……。

「……何か、それって酷いな」
「まったくだわ」
「!」

 驚愕で目を見開いたミミが、意識を失ってしまった。
 ランゼローナの魔法で眠ってしまったのだ。

「そんな……どうやって……!」

 僕は目を疑った。
 ランゼローナが、先ほどまでと同じように立っている。

「ミミはパヒーネスの出身者だもの。遠くの場所に土地勘なんてあるわけがないじゃない。でも、ここに転移してみたのはただの勘よ。当たったのは嬉しいけど、喜んでいいのか分らないわね。まさか、ミミがレムと一緒に行きたがるのはガッシュ畑だろう、なんて憶測が当たるなんて……」

 ランゼローナが呆れたように言った。

 ……ガッシュ畑?

 僕は、辺り一面を埋め尽くしているチューリップのような植物を見た。
 これは、花ではなくて、作物だったのか……!

 冷静に考えてみれば、ここは一種類の植物の花畑としてはあまりにも広すぎる。
 主要な作物を栽培しているのだとすれば、この広大な畑にも納得がいく。

 たまたまチューリップに似ている、植物の見た目に完全に騙された。

「収穫の時期が近くなると、ガッシュ畑に視察に行くのがレムの趣味だったの。特にここは、パヒーネス周辺で一番大きな畑よ」

 ランゼローナが解説してくれる。

 僕は頭を抱えたくなった。
 逃亡先に、こんな場所を選ぶなんて……。

 甘い物が大好きなレムは、一面のガッシュ畑を見て大喜びしたのだろう。
 レムに心酔しているミミも、そんなレムを見て嬉しかったに違いない。

 パヒーネスの外のことをあまり知らないミミにとって、ここはとても良い思い出の場所なのだ。

 あまりにも選択が安易すぎた。
 だからといって、ミミを責めるわけにもいかない。
 彼女は戦闘のプロではないのだ。

 魔力量が上の相手には殆ど勝算がないことを考えれば、ランゼローナに果敢に戦いを挑んでくれただけでも感謝すべきだろう。

 これで、僕を守ってくれる人はいなくなってしまった。
 その事実を改めて認識して、どうすればいいのか分からなくなる。

「安心して。物理的な効果のある魔法は苦手だけど、ただ壊すだけなら簡単だもの。苦しむ時間なんてないわ。一瞬で楽にしてあげる」
「待ってよ! どうして僕を殺そうとするんだ! さっきも言ったけど、僕に人殺しなんてできるわけがないよ!」
「悪いけど、詳しい理由を教えることはできないわ」
「どうして!?」
「それを教えること自体が、深刻な事態を招く恐れがあるからよ」
「僕は何も悪いことなんてしてないのに、殺す理由も教えてくれないの!?」
「そうね。貴方は何も悪くない。でも、私も悪くないの。恨むなとは言わないわ。だから、このまま大人しく死んで!」

 駄目だ、殺される……!

 物理的な効果がある魔法は、発動に時間がかかるという。
 それでも、何分も必要なわけではないだろう。
 数秒で僕を殺すことができるに違いない。

 ランゼローナが、僕を見据え、両手を突き出してくる。

 このままだと死んでしまう……!

 そう思った瞬間、ランゼローナは誰かに突き飛ばされたかのように倒れた。

「くっ……!」

 やった、僕の魔法が発動した!

 方法は何であれ、相手の集中を乱してしまえば、物理的な魔法の発動は阻止できるのだ。
 こうして時間を稼げば、レムかミミが目を覚ますまで粘ることも不可能ではないはずだ!

「やっぱり、こうなるわよね」

 そう言いながら、ランゼローナは立ち上がった。
 その手には、ナイフが握られている。

「なっ……!」

 ランゼローナは、僕に向かって信じられない速度で突っ込んできた。
 僕はなんとか避けようとしたが、とても避けきれるスピードではなかった。

「……!」

 熱い!
 最初の感覚はこれだった。

 そして、少し遅れて、右肩に凄まじい痛みが襲ってきた。

 僕は叫んだ。
 自分でも、何を叫んだのか分からなかった。

 痛い!
 とにかく痛い!

「物理的な効果を及ぼす魔法でも、自分になら短時間はかけられるのよ? 知らなかったの?」

 知らなかった……いや、そんな魔法があること自体は、以前レムかミミから聞いた気がする……やっぱり気のせいかも……。

「大人しくしていれば、痛みもなく死ねたのに。その状態じゃ魔法は使えないと思うけど、貴方は異世界人だから安心するわけにはいかないわ。それじゃあ、さようなら」

 ランゼローナは僕に両手をかざした。

 何とかもう一度、物を動かす魔法を……いや、無理だ!
 まぐれは何度も続かないし、痛みでそれどころではない。

 それでも、僕は願った。
 とにかく、どんな方法でもいいから、ランゼローナの集中さえ乱せれば……!

 どんな魔法でもいいから発動してくれ!

 そう思った瞬間、僕は不思議な感覚に襲われた。
 まるで、身体の中から、魂が抜けていくかのような感覚だった。


 意識が遠のくなかで、全身が揺さぶられるような、激しい振動を感じた。
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