白銀の簒奪者

たかまちゆう

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第14話

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 結局、僕達が目的地に到着するまで、10日以上かかった。
 その間、僕達の関係は、微妙な状態が続いた。

 クレアと僕は、両想いであることが確認できたので、本当なら関係が進んでも良かったはずだ。
 しかし、クレアは、むしろ僕と距離を取るようになってしまった。

 彼女にしてみれば、なし崩し的に関係が進むことが嫌なのだろう。
 僕達は、結婚するのに相応しいとされる年齢に、ようやく届いたばかりなのだ。

 それに、恥ずかしさもあるのかもしれない。
 本来の彼女は、男性の前で裸になれるような性格ではないからだ。

 秘密の話をすることが目的だったとしても、あんなことをしてしまって、後悔している様子だった。


 ベルさんは、距離が縮まらない僕達のことを、からかうようになった。

 僕は、彼女に対して恋愛感情を抱いていないのだが、ベルさんにはまったく諦めた様子がない。
 どうやら、いずれ僕とクレアは別れる、と信じて疑っていないらしい。

 その根拠は、よく分からなかった。


 困ったのは、ベルさんが僕に馴れ馴れしくした時だけは、クレアも対抗するような行動を取ることだ。
 クレアなりに、ベルさんを警戒しているのだろうが……もっと信用してほしかった。

 それに、積極的に男性にアピールするのは、彼女らしい行動とは思えない。
 あまり無理はしてほしくないと思った。


 到着した町は、平穏そのものだった。
 魔物に襲撃された様子はない。


「良かったわ。間に合ったみたいね」

 町の様子を一目見て、ベルさんが言った。

 僕とベルさんは、フードを目深に被っている。
 ダッデウドの銀色の髪は目立つし、いつ追手が僕を捕まえに来るか分からないからだ。

 立ち話は人目に付くので、僕達は、一旦路地裏に身を隠す。

「グラート人とは、綿密な計画を立てたりしないんですか?」

 僕が尋ねると、ベルさんは首を振った。

「グラートの召喚魔法は、いつでも使えるわけではないらしいの。大体のタイミングは決められても、条件が整ったら、召喚魔法を発動させるしかないのよ」
「条件って……?」
「そこまでは教えてくれないわ。召喚魔法は隙だらけの魔法だもの。詳細な条件を明らかにして、その情報が流出したら、発動する前に狙われて、殺されちゃうでしょ?」
「ダッデウドは……グラート人と同盟関係、というわけではないんですよね?」

 僕の質問を、ベルさんは肯定した。

「そうよ。提案をしたり、情報交換をしたりはするし、敵対関係ではないけど……明確に仲間に加わったりはしなかったわ。グラートが呼び出す魔物は強大だけど、どの程度の制約があるか分からない状態で、彼らと組むわけにはいかないもの」
「……ひょっとして、グラート人の魔法って、帝国を滅ぼすほどの効果はないんじゃありませんか?」

 クレアが、何かに気付いた様子で言った。

「あら、どうしてそう思うの?」
「だって、ダッデウドの魔法は強力でしょう? たとえ、召喚魔法の制約が多くて、情報は絶対に守りたかったとしても……ダッデウドを仲間にできたら、これほど心強い味方はいません。つまり、グラート人は、ダッデウドに手の内を明かすことが出来ない事情があったのではないでしょうか? それを教えてしまったら、自分達の魔法では、帝国を滅ぼすことなんて出来ない、ということが明らかになってしまうから、手の内を明かさなかった、と考えられますよね?」
「なるほど。なかなかの推理ね。じゃあ尋ねるけど、帝国を崩壊させる能力がないグラートが、計画を実行したのはどうして?」
「それは、他の少数民族の蜂起を期待しているからです。グラート人の能力を高く偽っておけば、他の民族も同調して、帝国を崩壊させようとするかもしれないでしょう? そういった人達が帝国に大きな損害を与えれば、結果的に、グラート人の目的は達成されることになります」

 ベルさんは満足そうに頷いた。

「私、頭のいい子は好きよ。でも、少し甘いわね。グラートが自分達の弱点を明らかにしないのは、帝国崩壊後の主導権争いのためよ」
「帝国崩壊後の……主導権ですか?」
「そうよ。グラートが帝国を崩壊させる、それまではいいわ。でも、その後は? 帝国が滅んだら……いいえ、その前に、帝国が弱体化した段階で、南の王国が攻め込んでくるのは明らかよ。それをただ受け入れるだけなら、結局、支配者が変わるだけでしょ? むしろ、より横暴な支配者がやってきて、現状が悪化するかもしれないわね? そういった段階で、新たな国家の要職を狙う時に、ライバルは少ない方がいいのよ」
「新しい国で、権力者のポストを、グラート人が独占する、というわけですか……? でも、南の王国が、帝国領の大半を占拠したら、どうするんでしょうか? 相手だって異民族ですし、そんなに上手くいくとは思えませんけど……」
「私も同感よ。グラートの魔法は、使い勝手が悪い召喚魔法だもの。しかも、グラートが呼び出した魔物は、グラートの命令に従うわけじゃないらしいの。破壊する時はいいけど、その後の社会で役に立つとは思えないわ」
「えっ!? あの魔物って、グラート人が操っているわけじゃないんですか!?」
「そうらしいわよ? さすがに、召喚者自身を襲ったりはしないらしいけど……」
「じゃあ、グラート人がやっているのは、無差別殺戮じゃないですか! そんなことで、帝国を崩壊させることなんて出来るんですか!?」
「グラートは、人々の不安を魔力に変換して行使するらしいの。だから、破壊を繰り返して人々の不安を高めることが、グラートにとっては好都合らしいわ」

 ベルさんの話を聞いて、クレアは暗い表情になった。

「そんなの……酷いです。殺される人は、何も悪いことなんてしていないのに……」
「文句はグラートに言って。それに……オットームである貴方にとっては許し難いことなんでしょうけど、帝国がグラートを支配して迫害した報いだとも言えるわ。オットームがどれだけ殺されても、あまり同情できないわね」
「……」

 この2人は、価値観が違いすぎて、仲良くはできないだろう。
 そのことを、改めて感じた。
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