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第57話
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「じゃあ、部屋割りはこれでいいとして……皆でお風呂に入りましょう」
ベルさんは、案の定、お約束のようになってきた言葉を発した。
「僕は1人で入りますよ。裸の状態で襲撃されても、自分の力だけで何とかしますから」
「あら、折角ノエルとの距離を縮めるチャンスなのに」
「ベルさん……一緒にお風呂に入って距離が縮まるとしたら、既に恋人同士である場合だけですよ……」
「貴方達……まさか、男女で同じお風呂に入っているのですか!?」
ロゼットは、ようやく僕達の話の意味が分かったらしく、驚愕に目を見開いた。
「いつものことではありません! 仕方がなかったんです!」
クレアは、顔を真っ赤にして叫ぶように言った。
レレとノエルも、真っ赤になって俯いてしまった。
「……少なくとも、今回については、男女で一緒に入浴するのは論外ですよ。宿の主人に、異常を察知されてしまいますから……」
「それもそうね」
その後、女性達は全員でお風呂に入った。
それから、僕は1人で入浴した。
ひょっとしたらベルさんが乱入してくるのではないかと不安になったが、さすがに、そんなことは起こらなかった。
僕がお風呂から出ると、豪勢な食事が用意されていた。
この人数では、とても食べきれない分量があり、高価な物であろう綺麗な皿に、色とりどりの料理が盛り付けられている。
どうやら、ロゼットをもてなすために、ありったけの食材を調理したようだ。
「お嬢様、申し訳ございません。こちらで用意できる物だけを使ったので、お口に合うかどうか……」
最善は尽くしたように思えるのだが、宿の主人は恐縮しきりだ。
「むしろありがたいですよ。屋敷から持ってきた材料を調理させるのでは、何のために外にでているのか分かりませんから」
「そうおっしゃっていただけると助かります。お嬢様が好きな、メドニ茸のスープをご用意したので、是非召し上がってください」
「まあ、嬉しい」
「メドニ茸って……そういえば、この匂い……」
僕は、部屋の中に漂う香りが何であるか思い出した。
「懐かしい。ティルトがよく採っていた、あのキノコね?」
クレアも思い出したようだ。
「臭い……」
スープの皿に顔を近付けたノエルが、鼻を押さえて言った。
「ノエルは、この匂いが苦手なの?」
「何だか……気持ち悪いです」
「メドニ茸は癖が強いもの。無理して食べることはないわ」
ロゼットがそう言う。
確かに、このキノコは強い香りを持っているので、苦手な人はいそうである。
全員が着席し、食事を始める。
僕は、さっそくメドニ茸のスープを飲んでみた。
「……!?」
信じられないほど……不味い!
強い苦みと渋みが、口の中に広がる。
加えて、ザラザラとした舌触りが気持ち悪い。
口に含むことで、キノコの匂いは強烈な臭気として感じられた。
どうしてこんなキノコが好まれ、高い値が付くのだろう?
全く理解できないことである。
「……」
クレアも、スープが美味しくないと感じている様子だ。
それでも、一口だけでは申し訳ないと思ったのか、少しずつ飲む。
「まあ! 美味しいスープね!」
ベルさんは、顔を輝かせて言った。
レレも、スープが気に入った様子である。
彼女達の味覚は、一体どうなっているのか?
「……あら、味付けを変えましたか?」
ロゼットが、不思議そうに呟いた。
「申し訳ございません。ダシを取るための材料が、お屋敷の物とは違いまして……お口に合いませんでしたか?」
「いいえ。これはこれで、とても美味しいと思います」
「そうですか。それは良かった」
そう言って、宿の主人は笑顔を浮かべた。
異変は、その少し後に起こった。
突然、レレがスプーンを取り落とす。
そして、そのままぐったりとして動かなくなった。意識を失ってしまったようだ。
続いて、ベルさんとロゼットも、同様の状態になる。
「……ティル……ト……」
異変を察知したらしく、クレアが席を立ち、フラフラとした状態でこちらに歩いてきた。
「クレア……!」
僕も席を立ったが、それと同時に、激しい頭痛に襲われる。
こちらに倒れこんできたクレアを、何とか抱き止めたものの、そのまま二人で座り込んでしまった。
「皆さん、どうしたんですか!?」
ノエルが焦った様子で叫ぶ。
彼女だけは、何も異変が起きた様子がない。
「いけませんねえ、せっかくのスープを一口も飲まないだなんて……これだから貧乏人は困るんですよ」
宿の主人が、ニタニタと笑いながらノエルを見ている。
先ほどまでとは、様子が一変していた。
「お前が、あのスープに……毒を入れたのか!」
僕が叫ぶと、宿の主人は首を振った。
「毒だなんて、とんでもない。入れたのは、ドゥバーミ草を乾燥させてすり潰した物ですよ。単なる眠り薬です」
「貴方も……警備隊の人から頼まれて……?」
ノエルが、青ざめた顔で尋ねた。
「警備隊だと? そんな心配をするなんて、やっぱりお前達は、とんでもない連中だったんだな」
宿の主人は、もはや口調も一変させていた。
ノエルや僕達のことを、見下すような目で見ている。
「違うんですか……?」
「お前らのことなんてどうでもいい。用があるのは、その金持ちのお嬢様だけだ」
「では、貴方の目当ては……お金ですか?」
「金だと? 馬鹿馬鹿しい! お前は、俺が身代金でも要求すると思っているのか? 俺の目的は、金持ちに復讐することだ!」
「復讐……?」
「こいつら金持ちは、俺が用意する物を拒否して、自分達が持って来た食材で料理を作らせたんだぞ? 金さえあれば、他人に何でもさせられると思い込んだ連中を、一度は自由に支配してみたいと思うのは当然の権利だろう?」
「そんな……ロゼットさんは、貴方の料理を喜んで食べていたのに……」
「どうせ、珍しがっていただけだ。金持ちどもめ、どいつもこいつも、俺を見下しやがって!」
宿の主人は、眠っているロゼットを、憎悪の籠もった目で見る。
この男は、全ての金持ちに対する憎しみを、ロゼット1人にぶつけるつもりらしい。
その顔からは、狂気と、強い欲望が感じられた。
ベルさんは、案の定、お約束のようになってきた言葉を発した。
「僕は1人で入りますよ。裸の状態で襲撃されても、自分の力だけで何とかしますから」
「あら、折角ノエルとの距離を縮めるチャンスなのに」
「ベルさん……一緒にお風呂に入って距離が縮まるとしたら、既に恋人同士である場合だけですよ……」
「貴方達……まさか、男女で同じお風呂に入っているのですか!?」
ロゼットは、ようやく僕達の話の意味が分かったらしく、驚愕に目を見開いた。
「いつものことではありません! 仕方がなかったんです!」
クレアは、顔を真っ赤にして叫ぶように言った。
レレとノエルも、真っ赤になって俯いてしまった。
「……少なくとも、今回については、男女で一緒に入浴するのは論外ですよ。宿の主人に、異常を察知されてしまいますから……」
「それもそうね」
その後、女性達は全員でお風呂に入った。
それから、僕は1人で入浴した。
ひょっとしたらベルさんが乱入してくるのではないかと不安になったが、さすがに、そんなことは起こらなかった。
僕がお風呂から出ると、豪勢な食事が用意されていた。
この人数では、とても食べきれない分量があり、高価な物であろう綺麗な皿に、色とりどりの料理が盛り付けられている。
どうやら、ロゼットをもてなすために、ありったけの食材を調理したようだ。
「お嬢様、申し訳ございません。こちらで用意できる物だけを使ったので、お口に合うかどうか……」
最善は尽くしたように思えるのだが、宿の主人は恐縮しきりだ。
「むしろありがたいですよ。屋敷から持ってきた材料を調理させるのでは、何のために外にでているのか分かりませんから」
「そうおっしゃっていただけると助かります。お嬢様が好きな、メドニ茸のスープをご用意したので、是非召し上がってください」
「まあ、嬉しい」
「メドニ茸って……そういえば、この匂い……」
僕は、部屋の中に漂う香りが何であるか思い出した。
「懐かしい。ティルトがよく採っていた、あのキノコね?」
クレアも思い出したようだ。
「臭い……」
スープの皿に顔を近付けたノエルが、鼻を押さえて言った。
「ノエルは、この匂いが苦手なの?」
「何だか……気持ち悪いです」
「メドニ茸は癖が強いもの。無理して食べることはないわ」
ロゼットがそう言う。
確かに、このキノコは強い香りを持っているので、苦手な人はいそうである。
全員が着席し、食事を始める。
僕は、さっそくメドニ茸のスープを飲んでみた。
「……!?」
信じられないほど……不味い!
強い苦みと渋みが、口の中に広がる。
加えて、ザラザラとした舌触りが気持ち悪い。
口に含むことで、キノコの匂いは強烈な臭気として感じられた。
どうしてこんなキノコが好まれ、高い値が付くのだろう?
全く理解できないことである。
「……」
クレアも、スープが美味しくないと感じている様子だ。
それでも、一口だけでは申し訳ないと思ったのか、少しずつ飲む。
「まあ! 美味しいスープね!」
ベルさんは、顔を輝かせて言った。
レレも、スープが気に入った様子である。
彼女達の味覚は、一体どうなっているのか?
「……あら、味付けを変えましたか?」
ロゼットが、不思議そうに呟いた。
「申し訳ございません。ダシを取るための材料が、お屋敷の物とは違いまして……お口に合いませんでしたか?」
「いいえ。これはこれで、とても美味しいと思います」
「そうですか。それは良かった」
そう言って、宿の主人は笑顔を浮かべた。
異変は、その少し後に起こった。
突然、レレがスプーンを取り落とす。
そして、そのままぐったりとして動かなくなった。意識を失ってしまったようだ。
続いて、ベルさんとロゼットも、同様の状態になる。
「……ティル……ト……」
異変を察知したらしく、クレアが席を立ち、フラフラとした状態でこちらに歩いてきた。
「クレア……!」
僕も席を立ったが、それと同時に、激しい頭痛に襲われる。
こちらに倒れこんできたクレアを、何とか抱き止めたものの、そのまま二人で座り込んでしまった。
「皆さん、どうしたんですか!?」
ノエルが焦った様子で叫ぶ。
彼女だけは、何も異変が起きた様子がない。
「いけませんねえ、せっかくのスープを一口も飲まないだなんて……これだから貧乏人は困るんですよ」
宿の主人が、ニタニタと笑いながらノエルを見ている。
先ほどまでとは、様子が一変していた。
「お前が、あのスープに……毒を入れたのか!」
僕が叫ぶと、宿の主人は首を振った。
「毒だなんて、とんでもない。入れたのは、ドゥバーミ草を乾燥させてすり潰した物ですよ。単なる眠り薬です」
「貴方も……警備隊の人から頼まれて……?」
ノエルが、青ざめた顔で尋ねた。
「警備隊だと? そんな心配をするなんて、やっぱりお前達は、とんでもない連中だったんだな」
宿の主人は、もはや口調も一変させていた。
ノエルや僕達のことを、見下すような目で見ている。
「違うんですか……?」
「お前らのことなんてどうでもいい。用があるのは、その金持ちのお嬢様だけだ」
「では、貴方の目当ては……お金ですか?」
「金だと? 馬鹿馬鹿しい! お前は、俺が身代金でも要求すると思っているのか? 俺の目的は、金持ちに復讐することだ!」
「復讐……?」
「こいつら金持ちは、俺が用意する物を拒否して、自分達が持って来た食材で料理を作らせたんだぞ? 金さえあれば、他人に何でもさせられると思い込んだ連中を、一度は自由に支配してみたいと思うのは当然の権利だろう?」
「そんな……ロゼットさんは、貴方の料理を喜んで食べていたのに……」
「どうせ、珍しがっていただけだ。金持ちどもめ、どいつもこいつも、俺を見下しやがって!」
宿の主人は、眠っているロゼットを、憎悪の籠もった目で見る。
この男は、全ての金持ちに対する憎しみを、ロゼット1人にぶつけるつもりらしい。
その顔からは、狂気と、強い欲望が感じられた。
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