白銀の簒奪者

たかまちゆう

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第70話

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 一度納得しかけたが、僕は首を振ってそれを否定した。

「……それはあり得ませんよ。タームという少年には、ダッデウドの魔法は使えないはずです」
「どうして、そんなことが断言できるの?」
「だって、ダッデウドの魔法を発動させるためには、心の全てを破壊の願望で埋め尽くすくらいの、強烈な怒りが必要であるはずです。タームという少年は、娼婦達と親しそうにしていたんですから、それなりに楽しい生活を送っていたはずでしょう? そこまでの強い怒りを覚えるとは思えません」
「そんなの、他人には分からないわよ。娼婦たちとは良好な関係だったとしても、主人である老婆が酷いことを言って、そのせいで激しい憎しみを抱いたかもしれないじゃない」
「でも、ダッデウドの魔法を発動させるためには、ただ怒るだけでは足りないはずでしょう? 激しい怒りが、魔法を発動させるきっかけになることを認識していないと……」
「それは、ロゼットに心当たりがあるはずよ」

 そう言って、ベルさんはロゼットの方を見た。

「……タームという少年が、そのことを認識している可能性は……あると思います」

 ロゼットが、苦しそうな顔で言った。

「そんな……どうして?」
「お婆様は、ダート人に対して、強い関心を抱いていましたから。とても美しく、誰にも負けない強さを誇り、望んだことは全て実現する……そんなダート人は、お婆様の理想像だったのです。ですから、ダート人に関する情報は、熱心に集めていました。その中には、ダート人が使った魔法に関する情報も含まれていましたから、それを少年に話したのかもしれません……」

 そういえば、ロゼットは、ダッデウドの魔法について知っていた。
 それは、祖母が集めた知識を、聞いたことがあったからなのだろう。

「何て迂闊なことを……」
「あら、貴方は嬉しくないの?」

 僕の言葉を聞いて、ベルさんが不思議そうに尋ねてきた。

「嬉しいって……そんなはずがないでしょう!?」
「どうして? 既にダッデウドとして覚醒した人物を仲間にしたら、私達にとっては、貴重な戦力になるはずよ?」

 言われて、初めて気付いた。

 僕達は、実は危機的な状況である。
 帝国だけでなく、ダッデウドの主流派も敵に回しており、味方がほとんどいないのだ。

 ここで、ダッデウドの魔法を使いこなす人物を仲間にしたら、心強いことは間違いないだろう。

「……でも、大勢の人を殺した場所に、平気で居座っていられるような神経の持ち主ですよ?」
「そんなの、大したことないじゃない。殺した相手は、自分を虐待していた連中なんだから」
「この別荘にいた全員が、直接的にタームを虐待していたわけではないでしょう?」
「関係ないわよ、そんなこと。そもそも、この別荘で死んだのは、全員オットームのはずよ。たとえ何万人殺したとしても、大した問題じゃないわ」
「……」

 ベルさんは、タームに対して、一切の恐怖を覚えていないらしい。

 確かに、間接的ではあっても、この別荘にいた全員が、タームの虐待に関わっていたと言える。
 何らかの仕返しは、されても当然だろう。

 どうしても殺さなければ気が済まなかった、ということであれば、それを強く非難するつもりはないし、そもそも、そんな資格は僕にはない。

 しかし、ロゼットやルーシュさんの話を聞いた後で、このようなダッデウドの残虐性を見せられると、僕の中の危機感が高まった。
 もしも、タームという少年が、非常に残忍な性格をしていたら……そんな人物を仲間にしてもいいのだろうか?

「……別荘の中を探しましょう。まだ、生き残りがいるかもしれません」

 ロゼットがそう言った。
 これ以上、この場所にいるのは耐えられないといった様子だ。

「貴方をタームに引き渡したら、その後でそうするのか……見物だわ」

 ロゼットの方を見ながらそう言って、ベルさんは笑った。

「ちょっと、ベルさん!」
「構いませんよ。私が残虐な行為を受けるところを、好きなだけご覧になってください」
「ええ、そうさせてもらうわ」

 ベルさんは、ロゼットが、タームによって凌辱されたり惨殺されたりすることを、心の底から楽しみにしているらしい。

 考えてみれば、それは当然のことなのだろう。
 この人は、僕が女性を虐待することを、積極的に応援した。
 それは、タームに対しても同じである、ということなのだろう。

 だが、はっきり言って、気に入らなかった。
 見知らぬタームという少年が、ロゼットのことを自由にするのも、それをベルさんが応援するのも、僕にとっては全然嬉しくない。

 これは……嫉妬だろうか?
 自分でも、よく分からなかった。


 僕達は、屋敷の中に侵入した。
 玄関の鍵をロゼットが所有しており、それで簡単に入ることができたのだ。

「うっ……!」

 別荘の中は、酷い状況だった。
 飛び散った血液が、既に真っ黒になっている。
 やはり、ここで虐殺が行われたことは間違いないようだ。

「ターム、いるんでしょう? 私達は貴方の仲間よ、出てきなさい!」

 ベルさんが、屋敷に中に向かって叫んだ。

「ベルさん、まずいですよ!」

 僕が慌てて止めると、ベルさんは不思議そうな顔をした。

「どうして? 別荘の中をコソコソと動き回って、タームに襲われたら大変でしょ?」
「それは、そうかもしれませんけど……」

 ベルさんは、タームという少年のことを、味方になると決めてかかっているようだ。
 この人は、ダッデウドに対する仲間意識が強すぎるのではないだろうか?
 そんな僕の心配をよそに、その後も、ベルさんは何度も別荘の奥に向かって叫んだ。

 やがて、別荘の奥から、誰かが歩いてくる気配がした。
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