36 / 82
第36話 私の後悔
しおりを挟む
夜になって、私達は、レベッカと会った場所に赴きます。
レベッカは、昼間と同じように、ぼんやりとした様子のままで佇んでいました。
彼女の両親は、こんな時間に娘が外出しても、平気なのでしょうか……?
レベッカは、物音を立てないように、慎重に抜け出したのでしょうが……私は、家を抜け出すことを許した彼女の両親に対して、怒りを覚えました。
彼が、腕組みをして命じます。
「俺達を、人目につかない場所に連れて行け」
「……こっち」
脱け殻のようなレベッカは、彼の命令に淡々と従います。
彼女の魂が、ほとんど魔物に食べられてしまったことを思うと、今にも泣き出してしまいそうな気分でした。
レベッカは、私達を路地に誘導しました。
周囲に人気がないことを確認して、彼は言います。
「お前は『マニ』だな?」
彼がそう言った瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われました。
その言葉は、彼が聖堂でミーシャに言ったのと、全く同じものだったからです。
「……」
レベッカは、その言葉に対して、何の反応も示しません。
しかし、その顔からは、表情が完全に消えました。
そして、人形のようになったレベッカの身体から、見覚えのある白い靄が、漏れ出すように現れます。
この靄は、ミーシャの時と同じ魔物……マニです。
妹を失った時のことを思い出して、私の全身が震えました。
しかし、それを見た彼は、満足そうに頷いています。
彼の、まるでマニの存在を歓迎しているかのような表情を見て、嫌悪感が高まりました。
「マリー、あのマニを撃て!」
「任せて、パパ!」
マリーは、ミーシャの時と同じように、一条の閃光を放ちました。
その光が靄を撃ち抜くと、魂を失ったレベッカの身体が、その場に倒れ伏します。
ぐったりとした少女を見て、私の目からは涙が溢れてしまいました。
「お前は、どうして泣いているんだ? 俺の召使いなら、コレクションが増えることを祝うべきだろう?」
彼は、興奮が抑えられないような口調で言ってから、レベッカの亡骸へ駆け寄って行きました。
この男が、レベッカに新たな人格を入れることは、阻止すべきではないか……?
頭の中で、そのことを本気で検討します。
彼が新たな人格を与えても、レベッカが生き返るわけではありません。
ただ、彼にとって都合の良い、操り人形のような少女が生まれるだけです。
そうやって肉体だけが生かされたとしても、彼に虐げられる運命が待っているのであれば……いっそのこと、このまま死んでしまった方が、レベッカの魂も救われるのではないでしょうか?
それに、新たな命を生み出すことは、本来であれば、神様だけが有する能力です。
彼はもちろんですが、たとえ深淵の魔女であっても、新たな魂を生み出す権利などありません。
ですが……私は、彼を止めるための行動を起こすことを、躊躇してしまいました。
人の命を奪う権利だって、人間にはありません。
私にも、レベッカの肉体を、このまま死なせることを決める権利などないのです。
私の妹になった少女達のことを見ます。
彼女達は、彼にとって都合の良い人格として生み出されましたが、全員が同じ性格というわけではなく、個性があります。
その個性すら、彼が意図的に作ったものですが……時々、彼女達は、彼の予想に反する言動をするといいます。
僅かであっても、彼女達の魂は、それぞれの身体に残っているのではないか……そんな気がして仕方がありません。
そうして、私が必死に悩んでいる間に、彼はレベッカの頭に、手を置いていました。
思わず声を上げそうになりましたが、必死にこらえます。
彼は、嬉しそうに言いました。
「さあ、お前も、俺のコレクションとして生まれ変われ! お前は……俺の『オモチャ』だ!」
……やはり、彼のことは、何としてでも止めるべきでした。
この世の終わりを告げられたかのような衝撃に襲われながら、私は激しく後悔しました。
レベッカは、昼間と同じように、ぼんやりとした様子のままで佇んでいました。
彼女の両親は、こんな時間に娘が外出しても、平気なのでしょうか……?
レベッカは、物音を立てないように、慎重に抜け出したのでしょうが……私は、家を抜け出すことを許した彼女の両親に対して、怒りを覚えました。
彼が、腕組みをして命じます。
「俺達を、人目につかない場所に連れて行け」
「……こっち」
脱け殻のようなレベッカは、彼の命令に淡々と従います。
彼女の魂が、ほとんど魔物に食べられてしまったことを思うと、今にも泣き出してしまいそうな気分でした。
レベッカは、私達を路地に誘導しました。
周囲に人気がないことを確認して、彼は言います。
「お前は『マニ』だな?」
彼がそう言った瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われました。
その言葉は、彼が聖堂でミーシャに言ったのと、全く同じものだったからです。
「……」
レベッカは、その言葉に対して、何の反応も示しません。
しかし、その顔からは、表情が完全に消えました。
そして、人形のようになったレベッカの身体から、見覚えのある白い靄が、漏れ出すように現れます。
この靄は、ミーシャの時と同じ魔物……マニです。
妹を失った時のことを思い出して、私の全身が震えました。
しかし、それを見た彼は、満足そうに頷いています。
彼の、まるでマニの存在を歓迎しているかのような表情を見て、嫌悪感が高まりました。
「マリー、あのマニを撃て!」
「任せて、パパ!」
マリーは、ミーシャの時と同じように、一条の閃光を放ちました。
その光が靄を撃ち抜くと、魂を失ったレベッカの身体が、その場に倒れ伏します。
ぐったりとした少女を見て、私の目からは涙が溢れてしまいました。
「お前は、どうして泣いているんだ? 俺の召使いなら、コレクションが増えることを祝うべきだろう?」
彼は、興奮が抑えられないような口調で言ってから、レベッカの亡骸へ駆け寄って行きました。
この男が、レベッカに新たな人格を入れることは、阻止すべきではないか……?
頭の中で、そのことを本気で検討します。
彼が新たな人格を与えても、レベッカが生き返るわけではありません。
ただ、彼にとって都合の良い、操り人形のような少女が生まれるだけです。
そうやって肉体だけが生かされたとしても、彼に虐げられる運命が待っているのであれば……いっそのこと、このまま死んでしまった方が、レベッカの魂も救われるのではないでしょうか?
それに、新たな命を生み出すことは、本来であれば、神様だけが有する能力です。
彼はもちろんですが、たとえ深淵の魔女であっても、新たな魂を生み出す権利などありません。
ですが……私は、彼を止めるための行動を起こすことを、躊躇してしまいました。
人の命を奪う権利だって、人間にはありません。
私にも、レベッカの肉体を、このまま死なせることを決める権利などないのです。
私の妹になった少女達のことを見ます。
彼女達は、彼にとって都合の良い人格として生み出されましたが、全員が同じ性格というわけではなく、個性があります。
その個性すら、彼が意図的に作ったものですが……時々、彼女達は、彼の予想に反する言動をするといいます。
僅かであっても、彼女達の魂は、それぞれの身体に残っているのではないか……そんな気がして仕方がありません。
そうして、私が必死に悩んでいる間に、彼はレベッカの頭に、手を置いていました。
思わず声を上げそうになりましたが、必死にこらえます。
彼は、嬉しそうに言いました。
「さあ、お前も、俺のコレクションとして生まれ変われ! お前は……俺の『オモチャ』だ!」
……やはり、彼のことは、何としてでも止めるべきでした。
この世の終わりを告げられたかのような衝撃に襲われながら、私は激しく後悔しました。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる