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第49話 忘却の理由
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「マリー、私だ! ルナだ! 思い出してくれ!」
ルナさんが、マリーの姿を見て、必死の形相で呼びかけます。
しかし、そんなルナさんを見て、マリーは気持ち悪いものを見るような顔をしました。
「……お姉さん、誰?」
「マリー……!?」
ルナさんの顔が、絶望に染まります。
少し前の自分を見ているようで、私は胸が苦しくなりました。
「マリー! この人は……貴方のお姉さんなのよ!?」
私がそう言うと、マリーは首を傾げました。
「……何を言ってるの? 私のねえさまは、ねえさまだけでしょ?」
「違うのよ! 貴方の本当のお姉さんは……ルナさんなの!」
「……変なねえさま」
マリーは、笑みを浮かべて言いました。
私の言葉を、全く信用していないようです。
今のマリーにとっては、私が「姉」である、という彼の言葉だけが事実なのでしょう。
自分が姉であるということを、マリーに否定されたのはルナさんです。
しかし、私まで、自分が妹を失ってしまった時のような、絶望的な気分になりました。
「マリーの姉だと? まさか、そんな女がいたとはな……」
傍らにいるマリーの頭を撫でながら、彼女の仮初めの父親である男が、興味深そうに言いました。
ルナさんが綺麗な人なので、自分の「娘」が大きくなったらこうなる、などと考えているのでしょうか……?
「この人攫いめ! マリーを返せ!」
激昂した様子でルナさんが言うと、彼は鼻で笑いました。
「返せ、だと? 自分が捨てたものについて、それを拾った者に返せと要求するとは、理解に苦しむな」
「捨ててなどいない! 私は、警備隊の任務がどれほど忙しかったとしても、1年に1度は故郷に帰って、マリーに会っていたんだ!」
「……お前は馬鹿なのか? ガキが1年も放置されて、耐えられるはずがないだろう?」
「私だけではない! 叔父も叔母も、その子のことを、実の娘のように大切にしていた! お前に、私達の何が分かる!? 人攫いに説教される筋合いはない!」
「……何と愚かな女だ。マリーが、親戚から厄介者扱いされていたことに、気付いていなかったのか?」
「嘘を吐くな!」
「嘘であるものか。マニに食われるのは、精神的に衰弱したガキだけだ。そうなるには、必ず理由がある。それに……お前の叔父と叔母は、既に、マリーのことを忘れているのではないか?」
「……」
「やはりそうだろう? 俺の魔法の影響を受けたところで、マリーのことを強く想っているならば、身近に思い出の品でも置いておけば、こいつのことを簡単に忘れたりはしないはずだ。お前がマリーのことを忘れていない、ということは……マリーのことを思い出す物を、肌身離さず身に付けているのだろう?」
「……!」
ルナさんは、自分の左手首を押さえました。
そこには、小さな石をつないだ、ブレスレットがあります。
それは、子供の手作りであるように見えました。
「やはりな。それだけのことで忘れずに済むのに、マリーのことを忘れたということは、大して愛していなかった証拠だ。そんな連中に、妹を預けて安心していたとは……実に能天気な女だな」
「くっ……!」
「お前が、妹のことを、どれほど大切に想っていたかは知らないが……そんな感情は、ただの自己満足だ。本物のマリーを死なせたのは、お前自身だからな!」
そう言って、彼はゲラゲラと笑いました。
他人のことを見下して、その不幸を嘲笑う、最低な笑いです。
その隙を突いて、カイザードの仲間の1人が、攻撃魔法を放ちました。
しかし、その魔法は、セーラが展開した障壁に遮られてしまいます。
「なっ……!?」
魔法を放った人は、はっきりと狼狽していました。
他の仲間も、その人の魔法が完全に遮られたことに、少なからず動揺している様子です。
「ふん、身の程知らずが。お前達、やれ! 1人も逃がすな!」
「……駄目!」
私は、妹達を止めるために叫びました。
しかし、少女達は止まりませんでした。
ルナさんが、マリーの姿を見て、必死の形相で呼びかけます。
しかし、そんなルナさんを見て、マリーは気持ち悪いものを見るような顔をしました。
「……お姉さん、誰?」
「マリー……!?」
ルナさんの顔が、絶望に染まります。
少し前の自分を見ているようで、私は胸が苦しくなりました。
「マリー! この人は……貴方のお姉さんなのよ!?」
私がそう言うと、マリーは首を傾げました。
「……何を言ってるの? 私のねえさまは、ねえさまだけでしょ?」
「違うのよ! 貴方の本当のお姉さんは……ルナさんなの!」
「……変なねえさま」
マリーは、笑みを浮かべて言いました。
私の言葉を、全く信用していないようです。
今のマリーにとっては、私が「姉」である、という彼の言葉だけが事実なのでしょう。
自分が姉であるということを、マリーに否定されたのはルナさんです。
しかし、私まで、自分が妹を失ってしまった時のような、絶望的な気分になりました。
「マリーの姉だと? まさか、そんな女がいたとはな……」
傍らにいるマリーの頭を撫でながら、彼女の仮初めの父親である男が、興味深そうに言いました。
ルナさんが綺麗な人なので、自分の「娘」が大きくなったらこうなる、などと考えているのでしょうか……?
「この人攫いめ! マリーを返せ!」
激昂した様子でルナさんが言うと、彼は鼻で笑いました。
「返せ、だと? 自分が捨てたものについて、それを拾った者に返せと要求するとは、理解に苦しむな」
「捨ててなどいない! 私は、警備隊の任務がどれほど忙しかったとしても、1年に1度は故郷に帰って、マリーに会っていたんだ!」
「……お前は馬鹿なのか? ガキが1年も放置されて、耐えられるはずがないだろう?」
「私だけではない! 叔父も叔母も、その子のことを、実の娘のように大切にしていた! お前に、私達の何が分かる!? 人攫いに説教される筋合いはない!」
「……何と愚かな女だ。マリーが、親戚から厄介者扱いされていたことに、気付いていなかったのか?」
「嘘を吐くな!」
「嘘であるものか。マニに食われるのは、精神的に衰弱したガキだけだ。そうなるには、必ず理由がある。それに……お前の叔父と叔母は、既に、マリーのことを忘れているのではないか?」
「……」
「やはりそうだろう? 俺の魔法の影響を受けたところで、マリーのことを強く想っているならば、身近に思い出の品でも置いておけば、こいつのことを簡単に忘れたりはしないはずだ。お前がマリーのことを忘れていない、ということは……マリーのことを思い出す物を、肌身離さず身に付けているのだろう?」
「……!」
ルナさんは、自分の左手首を押さえました。
そこには、小さな石をつないだ、ブレスレットがあります。
それは、子供の手作りであるように見えました。
「やはりな。それだけのことで忘れずに済むのに、マリーのことを忘れたということは、大して愛していなかった証拠だ。そんな連中に、妹を預けて安心していたとは……実に能天気な女だな」
「くっ……!」
「お前が、妹のことを、どれほど大切に想っていたかは知らないが……そんな感情は、ただの自己満足だ。本物のマリーを死なせたのは、お前自身だからな!」
そう言って、彼はゲラゲラと笑いました。
他人のことを見下して、その不幸を嘲笑う、最低な笑いです。
その隙を突いて、カイザードの仲間の1人が、攻撃魔法を放ちました。
しかし、その魔法は、セーラが展開した障壁に遮られてしまいます。
「なっ……!?」
魔法を放った人は、はっきりと狼狽していました。
他の仲間も、その人の魔法が完全に遮られたことに、少なからず動揺している様子です。
「ふん、身の程知らずが。お前達、やれ! 1人も逃がすな!」
「……駄目!」
私は、妹達を止めるために叫びました。
しかし、少女達は止まりませんでした。
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