52 / 82
第52話 ナナの協力
しおりを挟む
ふと気付くと、いつの間にかナナが傍に寄ってきています。
しかし、それに気付いても、私は魔法を中断しませんでした。
今のルナさんの状態では、回復魔法を中断することは死に直結するからです。
ナナは……この状況で、彼の命令に従い、私の腕や脚を折るつもりでしょうか?
そのことを警戒しているのでしょう。他の少女達が、ナナの動きに注目していることが伝わってきます。
しかし、ナナは私に触れませんでした。
私の反対側に回って、ルナさんに手をかざします。
「駄目!」
危険を感じて叫びましたが、ナナがルナさんに何らかの魔法をかけると、止まっていたルナさんの呼吸が回復しました。
私が驚いてナナを見ると、彼女は顔を背けました。
「……助けたいんでしょ、この人?」
「ありがとう、ナナ……!」
私の目から、涙が流れ落ちました。
ナナが回復魔法を使えるなんて、知りませんでした。
それにしても、まさかこの子が、私のために誰かを助けようとするなんて……。
それからすぐに、ルナさんは血を吐き出しました。
これは、喉に詰まりかけていたものでしょう。
しばらくすると、ルナさんの状態は落ち着きました。
呼吸が安定していますし、顔に触れると、温もりを感じます。
私は、ホッとして息を吐きました。
それに合わせて、少女達からも安堵の声が漏れました。
「ありがとう、ナナ。貴方のおかげよ」
「別に、貴方のためにやったわけじゃないわ……」
そんなことを言ったナナを、私は抱きしめました。
ナナはびっくりした様子でしたが、逃げようとはしませんでした。
ルナさんが助かったのは、奇跡だと思います。
マリーの攻撃魔法は、ルナさんに当たりませんでした。
ミーシャが振るったナイフは、ルナさんを即死させませんでした。
そして、私にとって最も距離のある存在だったナナが、頼んでもいないのに、私に協力してくれました。
旅に出てから、ずっと苦しめられて。
良いことなど、ほとんどなくて。
何度も死にたいと思いましたが、今、ようやく報われた気持ちになりました。
「……それで? お前達は、その女を助けて、どうするつもりだ?」
沈黙を守っていた彼が、こちらを馬鹿にするような口調で言いました。
先ほどの狼狽えた様子と違って、落ち着きを取り戻しています。
「それは……とにかく、どこかで休ませないと……」
私がそう言うと、彼はため息を吐きました。
「そうではない。その女は、警備隊の人間なのだろう? ならば、生かしておくと厄介なことになるぞ?」
「……」
私は、彼の言葉を否定できず、黙り込んでしまいました。
ルナさんが生き延びれば、ミーシャ達がカイザードとその仲間を殺したという事実を暴露されてしまうでしょう。
そうなれば、私達は全員処刑されてしまいます。
少女達の力は強大ですが、あまり連戦することができないという最大の弱点を抱えています。
警備隊を相手にして、戦い続けることは不可能でしょう。
「ですが……ルナさんだって、マリーが処刑される事態は避けたいはずです!」
「そうだろうな。だが、その女が、マリーを助けるために、全てを黙っていると思うか?」
「……いいえ」
ルナさんは、この国の治安を守る警備隊の人間です。
自分の手でマリーを殺せなかったとしても、カイザード達を殺した少女達を、野放しにするとは思えません。
間違いなく、警備隊に報告するでしょう。
仮に、全ての痕跡をドロシーの魔法で消し去っても、何人もの隊員がいなくなれば、警備隊の幹部だってルナさんの言葉を信じるはずです。
「その女は、この場で殺してしまう以外にない。そんなことは、お前にだって分かるはずだ」
「……」
「せっかく助けたというのに、残念だったな」
「駄目です! この人は……殺させません!」
「だったら、どうやってこの女を黙らせる?」
彼は、ニヤニヤと笑っています。
私には、解決策などないことが分かっているのでしょう。
私は唇を噛みました。
しかし、それに気付いても、私は魔法を中断しませんでした。
今のルナさんの状態では、回復魔法を中断することは死に直結するからです。
ナナは……この状況で、彼の命令に従い、私の腕や脚を折るつもりでしょうか?
そのことを警戒しているのでしょう。他の少女達が、ナナの動きに注目していることが伝わってきます。
しかし、ナナは私に触れませんでした。
私の反対側に回って、ルナさんに手をかざします。
「駄目!」
危険を感じて叫びましたが、ナナがルナさんに何らかの魔法をかけると、止まっていたルナさんの呼吸が回復しました。
私が驚いてナナを見ると、彼女は顔を背けました。
「……助けたいんでしょ、この人?」
「ありがとう、ナナ……!」
私の目から、涙が流れ落ちました。
ナナが回復魔法を使えるなんて、知りませんでした。
それにしても、まさかこの子が、私のために誰かを助けようとするなんて……。
それからすぐに、ルナさんは血を吐き出しました。
これは、喉に詰まりかけていたものでしょう。
しばらくすると、ルナさんの状態は落ち着きました。
呼吸が安定していますし、顔に触れると、温もりを感じます。
私は、ホッとして息を吐きました。
それに合わせて、少女達からも安堵の声が漏れました。
「ありがとう、ナナ。貴方のおかげよ」
「別に、貴方のためにやったわけじゃないわ……」
そんなことを言ったナナを、私は抱きしめました。
ナナはびっくりした様子でしたが、逃げようとはしませんでした。
ルナさんが助かったのは、奇跡だと思います。
マリーの攻撃魔法は、ルナさんに当たりませんでした。
ミーシャが振るったナイフは、ルナさんを即死させませんでした。
そして、私にとって最も距離のある存在だったナナが、頼んでもいないのに、私に協力してくれました。
旅に出てから、ずっと苦しめられて。
良いことなど、ほとんどなくて。
何度も死にたいと思いましたが、今、ようやく報われた気持ちになりました。
「……それで? お前達は、その女を助けて、どうするつもりだ?」
沈黙を守っていた彼が、こちらを馬鹿にするような口調で言いました。
先ほどの狼狽えた様子と違って、落ち着きを取り戻しています。
「それは……とにかく、どこかで休ませないと……」
私がそう言うと、彼はため息を吐きました。
「そうではない。その女は、警備隊の人間なのだろう? ならば、生かしておくと厄介なことになるぞ?」
「……」
私は、彼の言葉を否定できず、黙り込んでしまいました。
ルナさんが生き延びれば、ミーシャ達がカイザードとその仲間を殺したという事実を暴露されてしまうでしょう。
そうなれば、私達は全員処刑されてしまいます。
少女達の力は強大ですが、あまり連戦することができないという最大の弱点を抱えています。
警備隊を相手にして、戦い続けることは不可能でしょう。
「ですが……ルナさんだって、マリーが処刑される事態は避けたいはずです!」
「そうだろうな。だが、その女が、マリーを助けるために、全てを黙っていると思うか?」
「……いいえ」
ルナさんは、この国の治安を守る警備隊の人間です。
自分の手でマリーを殺せなかったとしても、カイザード達を殺した少女達を、野放しにするとは思えません。
間違いなく、警備隊に報告するでしょう。
仮に、全ての痕跡をドロシーの魔法で消し去っても、何人もの隊員がいなくなれば、警備隊の幹部だってルナさんの言葉を信じるはずです。
「その女は、この場で殺してしまう以外にない。そんなことは、お前にだって分かるはずだ」
「……」
「せっかく助けたというのに、残念だったな」
「駄目です! この人は……殺させません!」
「だったら、どうやってこの女を黙らせる?」
彼は、ニヤニヤと笑っています。
私には、解決策などないことが分かっているのでしょう。
私は唇を噛みました。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる