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第73話 意見の対立
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私は、セーラを連れて馬車に戻りました。
そこには、少女達と一緒に、ルナさんがいます。
「随分と遅かったな?」
ルナさんがそう言いました。
彼女は、何故か険しい顔をしています。
「子供の親に会ってきました」
「何だと? それはやめておけと、何度も言っただろう?」
「どうしてですか?」
「良い結果にならない可能性が高いからだ。私達には、他所の家庭の問題に関わっている時間などない」
「ですが、マニだけを駆除しても、子供が精神的に弱っている原因を解消しなければ、問題を解決したことにはなりません。今日助けた子は、家庭の経済状態に問題がありそうでしたので、その子の母親に、金貨を3枚ほど差し上げました」
「……お前は、思っていたよりも短絡的な人間だな」
「私だって、お金だけで助けられるとは思っていませんよ。ですが、何もしないよりはマシでしょう?」
「本当にそうか? すぐに旅立つ私達には、責任など取れないはずだ」
「少女の母親は、明らかに、お金に困っていました。なので、お金さえあれば、少しは問題を解決できるはずです」
「安易に大金を渡したりすれば、今よりも状況が悪化するとは考えないのか?」
「悪化……?」
「ねえ、そろそろ日が暮れるよ? 早く出発しようよ? それとも、今日はこの町に泊まっていくの?」
突然、ナナが、私達の会話に割り込んできました。
こちらを見上げる顔は笑っていますが、一瞬だけ、ルナさんの方を睨んだことを、私は見逃しませんでした。
ナナには、私を助ける意図もあったようですが、空では、日が傾いてきていることも確かです。
私達は、町の宿に泊まることにしました。
私達は、町で一番安い宿に泊まることにしました。
私はミーシャ・ナナ・セーラと、ルナさんはマリーと同じ部屋にして、ダンは1人部屋、残る3人を1部屋としました。
私とルナさんは、子供達を先に寝かせました。
ナナやマリーは、先に寝るのを嫌がりましたが、私達は、半ば強制的に、少女達に寝るように言い付けました。
子供達を寝かせた後で、私とルナさんは私宿のロビーに行きました。
「スピーシャ。助けた子供の家族に関わるのはやめるんだ」
向き合った私に、ルナさんはそう言いました。
「嫌です。ルナさんは、苦しんでいる子供を助けることに、反対するのですか?」
「私だって、可能であれば助けたいと思っている。だが、マニを駆除していくためには、余計な時間を使うことはできない」
「だからといって、命の危険に晒されている子供を、あえて見捨てることはないでしょう? もちろん、私達が先を急がなければならないことは承知しています。ですが、お金を渡すだけで助けられる場合には、それほど時間が必要なわけでもないと思います」
「だが、お前が所持している金は、あの男から奪い取った物だ」
「……一部については、元々は私とミーシャの物でした」
「全てではないだろう? しかも、あの男の金は、誰かから奪い取った物かもしれないんだぞ?」
「……そうであれば、尚更、有意義に使うべきではありませんか?」
「そういう考え方もあるだろう。だが、我々には稼ぎがない。所持金がなくなったら、お前には、金を手に入れるアテでもあるのか?」
「それは……」
アテなどありません。
せっかく旅をしているのですから、何かを仕入れて、商売でも始めようかと思ったこともあるのですが……素人が、そんな方法で簡単に稼げるとは思えなかったので、実行できなかったのです。
ルナさんは、さらに言い募りました。
「第一、金を渡された方は、それで幸せになると思うのか?」
「当然ではないですか。あの親子は、お金がなくて困っているのですから」
「……」
ルナさんは、ため息を吐きました。
呆れているような反応ですが、理由が分かりません。
少しだけ不快な気分になりました。
「貧しい人間が、一方的に金を与えられて、計画的に使えるとでも思っているのか?」
「……貧乏な人は頭が悪い、とでも仰りたいのですか? とても失礼だと思います」
「誰もそんなことは言っていない。経験則としては、そういう傾向がある、とは言えると思うが……」
「それはルナさんの偏見です」
「大金を計画的に使った経験のない人間に、それができないのは仕方のないことだ。丁寧に教えてやることもせず、金だけ渡せば、無駄遣いしてしまうのは当然だろう?」
「仮にそうなったとしても、元の状態に戻るだけですから、相手に損害を与えたわけではないはずです」
「いいや。分不相応な贅沢を経験させることは、相手の精神に影響を与えかねない。金を使い切った者が、引き続き、良い生活をしようと考えて盗みを働いたら、お前は責任が取れるのか?」
「そんなこと……」
「あり得ないとは言い切れないだろう?」
「……」
「他の可能性も考えられる。金を受け取った人物が、急に金回りが良くなったことに、周囲にいる誰かが気付いたらどうなる? その金を狙って、盗もうとするかもしれない。それが原因で、子供にだって被害が及ぶかもしれないだろう?」
「……」
「そもそも、お前は、金を渡した相手が、どんな人物か見定めたのか? タチの悪い男に惚れて、金を貢ごうとする女は珍しくないんだぞ?」
「ルナさんは考えすぎだと思います。全ての可能性を考慮していたら、誰かを助けることなど出来ません。貴方は、他人を助けず、見捨てるべきだと仰るのですか?」
「そうではない。誰かを助けるなら、長い時間をかけて、丁寧に助けるべきだ。だが、我々には、同じ場所に何年も留まって、人々を助けるような金も時間もない。幸いなことに、各地に救貧院があって、教会が貧しい人々を助けている。事態を悪化させるようなことはせず、その役割を持っている者に任せるべきだろう」
「……」
「我々は、マニを駆除することだけに注力すればいい。それでも、旅を続けるためには、金が必要だが……まだ金が残っているうちに、商品になる物を仕入れて、商売でもすればいいだろう」
ルナさんは、そう言って、自分の部屋に戻って行きました。
ルナさんがいなくなった後も、私は、しばらくその場に留まりました。
強い敗北感のようなものを、噛みしめていたのです。
ルナさんは、警備隊に所属して、キャリアを積んだ人です。
その経験があるから、私などよりも、悪い人のことも、男の人のことも、貧しい人のことも分かっているのでしょう。
父やミーシャが死ぬまで、何不自由なく暮らしてきた私とは違うのです。
ルナさんの言っていることが正しい、ということは分かっています。
全てに納得したわけではありませんが……私達にお金がないことは、紛れもない事実なのです。
今日のようなことを繰り返せば、私達が有している資金など、たちまち枯渇してしまうでしょう。
それでも……子供達を救うことができたなら、と思ってしまうのです。
私は、気持ちを完全に整理することができないまま、部屋に帰りました。
そこには、少女達と一緒に、ルナさんがいます。
「随分と遅かったな?」
ルナさんがそう言いました。
彼女は、何故か険しい顔をしています。
「子供の親に会ってきました」
「何だと? それはやめておけと、何度も言っただろう?」
「どうしてですか?」
「良い結果にならない可能性が高いからだ。私達には、他所の家庭の問題に関わっている時間などない」
「ですが、マニだけを駆除しても、子供が精神的に弱っている原因を解消しなければ、問題を解決したことにはなりません。今日助けた子は、家庭の経済状態に問題がありそうでしたので、その子の母親に、金貨を3枚ほど差し上げました」
「……お前は、思っていたよりも短絡的な人間だな」
「私だって、お金だけで助けられるとは思っていませんよ。ですが、何もしないよりはマシでしょう?」
「本当にそうか? すぐに旅立つ私達には、責任など取れないはずだ」
「少女の母親は、明らかに、お金に困っていました。なので、お金さえあれば、少しは問題を解決できるはずです」
「安易に大金を渡したりすれば、今よりも状況が悪化するとは考えないのか?」
「悪化……?」
「ねえ、そろそろ日が暮れるよ? 早く出発しようよ? それとも、今日はこの町に泊まっていくの?」
突然、ナナが、私達の会話に割り込んできました。
こちらを見上げる顔は笑っていますが、一瞬だけ、ルナさんの方を睨んだことを、私は見逃しませんでした。
ナナには、私を助ける意図もあったようですが、空では、日が傾いてきていることも確かです。
私達は、町の宿に泊まることにしました。
私達は、町で一番安い宿に泊まることにしました。
私はミーシャ・ナナ・セーラと、ルナさんはマリーと同じ部屋にして、ダンは1人部屋、残る3人を1部屋としました。
私とルナさんは、子供達を先に寝かせました。
ナナやマリーは、先に寝るのを嫌がりましたが、私達は、半ば強制的に、少女達に寝るように言い付けました。
子供達を寝かせた後で、私とルナさんは私宿のロビーに行きました。
「スピーシャ。助けた子供の家族に関わるのはやめるんだ」
向き合った私に、ルナさんはそう言いました。
「嫌です。ルナさんは、苦しんでいる子供を助けることに、反対するのですか?」
「私だって、可能であれば助けたいと思っている。だが、マニを駆除していくためには、余計な時間を使うことはできない」
「だからといって、命の危険に晒されている子供を、あえて見捨てることはないでしょう? もちろん、私達が先を急がなければならないことは承知しています。ですが、お金を渡すだけで助けられる場合には、それほど時間が必要なわけでもないと思います」
「だが、お前が所持している金は、あの男から奪い取った物だ」
「……一部については、元々は私とミーシャの物でした」
「全てではないだろう? しかも、あの男の金は、誰かから奪い取った物かもしれないんだぞ?」
「……そうであれば、尚更、有意義に使うべきではありませんか?」
「そういう考え方もあるだろう。だが、我々には稼ぎがない。所持金がなくなったら、お前には、金を手に入れるアテでもあるのか?」
「それは……」
アテなどありません。
せっかく旅をしているのですから、何かを仕入れて、商売でも始めようかと思ったこともあるのですが……素人が、そんな方法で簡単に稼げるとは思えなかったので、実行できなかったのです。
ルナさんは、さらに言い募りました。
「第一、金を渡された方は、それで幸せになると思うのか?」
「当然ではないですか。あの親子は、お金がなくて困っているのですから」
「……」
ルナさんは、ため息を吐きました。
呆れているような反応ですが、理由が分かりません。
少しだけ不快な気分になりました。
「貧しい人間が、一方的に金を与えられて、計画的に使えるとでも思っているのか?」
「……貧乏な人は頭が悪い、とでも仰りたいのですか? とても失礼だと思います」
「誰もそんなことは言っていない。経験則としては、そういう傾向がある、とは言えると思うが……」
「それはルナさんの偏見です」
「大金を計画的に使った経験のない人間に、それができないのは仕方のないことだ。丁寧に教えてやることもせず、金だけ渡せば、無駄遣いしてしまうのは当然だろう?」
「仮にそうなったとしても、元の状態に戻るだけですから、相手に損害を与えたわけではないはずです」
「いいや。分不相応な贅沢を経験させることは、相手の精神に影響を与えかねない。金を使い切った者が、引き続き、良い生活をしようと考えて盗みを働いたら、お前は責任が取れるのか?」
「そんなこと……」
「あり得ないとは言い切れないだろう?」
「……」
「他の可能性も考えられる。金を受け取った人物が、急に金回りが良くなったことに、周囲にいる誰かが気付いたらどうなる? その金を狙って、盗もうとするかもしれない。それが原因で、子供にだって被害が及ぶかもしれないだろう?」
「……」
「そもそも、お前は、金を渡した相手が、どんな人物か見定めたのか? タチの悪い男に惚れて、金を貢ごうとする女は珍しくないんだぞ?」
「ルナさんは考えすぎだと思います。全ての可能性を考慮していたら、誰かを助けることなど出来ません。貴方は、他人を助けず、見捨てるべきだと仰るのですか?」
「そうではない。誰かを助けるなら、長い時間をかけて、丁寧に助けるべきだ。だが、我々には、同じ場所に何年も留まって、人々を助けるような金も時間もない。幸いなことに、各地に救貧院があって、教会が貧しい人々を助けている。事態を悪化させるようなことはせず、その役割を持っている者に任せるべきだろう」
「……」
「我々は、マニを駆除することだけに注力すればいい。それでも、旅を続けるためには、金が必要だが……まだ金が残っているうちに、商品になる物を仕入れて、商売でもすればいいだろう」
ルナさんは、そう言って、自分の部屋に戻って行きました。
ルナさんがいなくなった後も、私は、しばらくその場に留まりました。
強い敗北感のようなものを、噛みしめていたのです。
ルナさんは、警備隊に所属して、キャリアを積んだ人です。
その経験があるから、私などよりも、悪い人のことも、男の人のことも、貧しい人のことも分かっているのでしょう。
父やミーシャが死ぬまで、何不自由なく暮らしてきた私とは違うのです。
ルナさんの言っていることが正しい、ということは分かっています。
全てに納得したわけではありませんが……私達にお金がないことは、紛れもない事実なのです。
今日のようなことを繰り返せば、私達が有している資金など、たちまち枯渇してしまうでしょう。
それでも……子供達を救うことができたなら、と思ってしまうのです。
私は、気持ちを完全に整理することができないまま、部屋に帰りました。
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