大精霊の導き

たかまちゆう

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29話 酒場の女ドネット

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「いらっしゃい。女連れは珍しいけど歓迎するわ。一緒に楽しいことをしましょう?」

 問題の店に入ると、主人らしき女に言われた。

 女の服は、本来であれば晒すべきでない部分が色々と露になっている、例の際どい格好だ。
 しかし、色気よりを感じるよりも、ふしだらな印象の方が強い。

 そんな女の様子を見て、リーザだけでなく、ラナも嫌悪感をあらわにする。
 レイリスがこの場にいなくて良かった。

「ドネットという人はいますか?」
「あら、ご指名?」
「実は、ガルシュという男を捜していまして……」
「逃げな!」

 僕が用件を言うと、女主人は店の中に向かって叫び、僕達の前に立ち塞がる。

「邪魔だ!」

 ラナが、精霊を呼び出して女性を押しのけた。


 僕達は店の中に突入する。
 すると、一人の黒髪の女性が、慌てて店の奥へと逃げていくのが見えた。
 そちらに裏口があることは、事前に調査済みだ。

 計画どおりである。
 あとは、裏口の外に待機しているレイリスが、女性の後を尾行すればガルシュの居場所が分かるだろう。

 念のため、店の中を捜索する。
 誰かが隠れている様子はない。

 だが、客も店員も疑わしい連中ばかりだ。
 盗賊団の仲間がいるなら、今のうちに捕らえねばならない。

 それに、この計画には穴がある。
 オクトがどこにいるか分からないことだ。

 抹消者であるオクトは、テッドが認めるほどの凄腕である。
 レイリスでも、まともに戦って勝てるとは思えない。
 精霊のランクで上回られたのであればなおさらだ。

 そのため、僕はレイリスをサポートすることにしていた。
 他の仲間を連れて行かないのは、追跡の際にメンバーが少ない方が楽だからである。

「ソリアーチェ!」

 僕は精霊を呼び出す。

「ルークさん、レイリスをお願いします」

 ソフィアさんが心配そうに言った。

「任せてください。ソフィアさん達も気を付けて。この店の中に、盗賊団の仲間がいるかもしれません」
「分かってるって。フェデル隊長だってすぐに来てくれるはずだ。任せとけ」

 ラナの言葉に僕は頷いて、補助魔法で加速し、ドネット達の後を追った。


 レイリスには、事前に魔法の「印」を付けておいた。
 そのため、魔法で姿を消していても、どこにいるかはすぐに分かる。
 レイリスはドネットを追っているので、僕はレイリスを追えば良かった。

 ちなみに、オクトが妨害してきた場合には、なるべく不自然に動き回るように伝えてある。
 ガルシュよりも、強敵であるオクトを捕らえることを優先すべきだからだ。


 レイリスと、その後を追う僕は、一度スラムの方に向かったが、遠回りして街の中心部の近くまで来ていた。

 やがて、レイリスが移動するのをやめた。
 僕は、少しの間様子を見てから、レイリスがいる場所に向かう。

 レイリスに近付くと、彼女は既に姿を現わしていた。

「あの家」

 レイリスが指差したのは、小綺麗な家だった。
 あれが、今のドネットの家なのだろう。

「こんな場所に住んでるなんて……あの家、安くないはずだ。きっと、盗んだ金を使って、ガルシュが買ったんだな」
「ドネットが入る前に、家の中から人の気配がしてた。多分、中にガルシュもいる」
「そうだね……相手が動くまで待とう」

 僕は、あの店の近くで待っているはずのソフィアさんに対して、念話を使った。

 これも支援者の魔法だ。
 とても便利だが、相手が会話をするために待ち構えている状態でなければ使えない。
 そして、距離が離れれば、成功率は下がる。

 相手の姿が見える程度の距離で試した時は成功したが、今回ほど距離が離れていると、さすがに成功するかは分からない。

『ソフィアさん、聞こえますか?』
『はい、大丈夫です』

 ソフィアさんの声が頭の中に響く。
 良かった、成功した!

『ドネットの家を発見しました。大まかな位置を伝えます』

 僕がソフィアさんにドネットの住所を伝えていると、レイリスが僕の袖を引っ張った。
 慌ててレイリスの方を見ると、彼女は家の方を指差していた。

「……動く」

 そう言って、レイリスは姿を消した。
 僕も、慌てて姿を隠す。

 ガルシュらしき男は、周囲の様子を窺いながら、一人で家から出てきた。
 おそらく、レイリスはガルシュに接近して、不意打ちで倒すつもりのはずだ。
 ガルシュの実力がどの程度かは知らないが、盗賊団のリーダーならば、それなりの実力者である可能性が高い。
 ここは、反撃する機会を与えず、レイリスが一撃で相手を倒すのがベストだ。

 僕は探知魔法を発動させた。
 ガルシュに近い位置まで効果範囲を広げると、レイリスがガルシュに近づいていることが分かった。

 ガルシュを魔法の効果範囲に入れてしまうと、僕の存在に気付かれてしまうので、範囲を広げるのはこれが限界である。

 僕に分かる範囲では、オクトはこの場にいないようだった。
 無論、ガルシュの傍にいる可能性は否定できないが、それならばレイリスが気付くだろう。
 精霊の性能で多少上回られても、同じ抹消者イレイザー相手ならば、接近すれば存在に気付けるはずだからだ。

 ガルシュは、僕とは反対の方向に逃げようとしていた。
 脇に剣を差しているが、それを抜こうとしている様子はない。
 抹消者イレイザーの接近を警戒してはいないようだ。

 倒せる……!

 そう思った瞬間、レイリスが姿を現わした。
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