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38話 精霊ファレプシラ
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「なあルーク、その精霊は一体……?」
クラフトさんが、状況を理解できない様子で言った。
ステラもポールも、僕の後ろに大精霊が浮いている理由が分からない様子である。
コーディマリーは、しばらく僕の回りを飛び回ったが、ソリアーチェにじっと見られていることに気付いたのか、慌てたようにステラの後ろに隠れてしまった。
「そいつがソリアーチェか。まさか、本当にお前に適合したとはな」
首領が、何度も僕とソリアーチェを見比べながら言った。
「首領は、ソリアーチェのことをご存知なんですか?」
「当然だろ? 聖女の嬢ちゃんが、俺のコミュニティの冒険者に適合しないか、10人以上で試したんだからな。結局、俺も含めて、可能性のありそうな奴は全員駄目だったが……まさか、それがお前に適合しちまうなんて。聖女ちゃんから聞いた時には驚いたぜ」
どうやら、聖女様は、ソリアーチェが僕に適合したことを、首領に伝えたらしい。
「ちょっと待ってくれ……これ、ルークの精霊なのか!?」
「そんな馬鹿な!」
「ルーク、凄いじゃない!」
「いや、これは、偶然っていうか……」
「偶然で大精霊が適合するのか!?」
クラフトさん達は、一様に驚いた様子だった。
「コーディマリーがお前に纏わり付いたと聞いた時から、お前には何かあるんじゃないかと思っていたが、その答えがこれとはな。おまけに、今組んでる相手がソフィア嬢ちゃんとは……」
首領が、ソフィアさんに目を向ける。
「お久しぶりです、ディーンさん」
ソフィアさんは、いつもの笑顔で、首領に頭を下げた。
「5年ぶりくらいか? 元々可愛い子だったが、こんな美人になるとはなあ……」
「首領とソフィアさんは、お知り合いなんですか?」
「ああ。天才少女だって話題になっていたソフィア嬢ちゃんを、コミュニティに勧誘しに行ったんだ。きっぱりと断られたけどな」
「あの時の判断は正しかったと思います。そのおかげで、私はヨネスティアラ様のパーティーに入れたのですから」
「だが、聖女ちゃんとは喧嘩別れしたって聞いたぜ? だから、今はルークと組んでるんだろ?」
「それも含めて、運が良かったと思いますよ」
意外だった。
首領とソフィアさんに、面識があったなんて……。
「あの……どうして首領がここにいるんですか? それに、クラフトさん達まで……」
「おいおい、俺だってAAAランクの精霊の保有者だぜ? 忘れたのか?」
「あっ……」
そうだった。
首領の精霊はAAAランクだと聞いたことがある。
今まで一度も見たことがないので忘れていた。
首領は、一流の冒険者として活躍していたが、若くして重い病気を患い引退したらしい。
それでも、歴史上最強の調整者と言われたこの人は、現在でも多くの人々に尊敬されている。
首領の方が、大精霊の保有者よりも強かったのではないか、と言われることもあるくらいだ。
だからこそ、多くの冒険者が付いて行こうと思うのである。
首領は、抹消者以外の役割は、一人で全てこなしたらしい。
全ての役割を兼務する完全な調整者に、最も近付いた人物だと言われている。
半端な能力しか持たない調整者である僕にとっては、尊敬すべき人なのだ。
「今回は、回復者が必要だからステラにも来てもらった。相手が、爆裂魔法を使う化け物だからな。俺が戦いに専念したら、どうしても負傷者を治す人間が必要になる。……結局、病気が原因で、待機するように言われちまったけどな」
「俺達は、ステラを守るために付いて来たってわけだ」
クラフトさんがそう言ったので、僕は慌てた。
「守るって……相手は、AAランクの精霊を保有していた冒険者すら倒しています。危険ですよ!」
「危険だってことも、俺達じゃ魔生物に敵わないことも承知の上さ。だが、負傷者を見殺しには出来ないだろ?」
「それはそうですけど……」
「立派な心がけだと思いますが、決して無理はなさらないでくださいね? ステラさんの能力は、これからも多くの人に必要とされるはずですから」
ソフィアさんが心配そうに言った。
「はい。心配してくださって、ありがとうございます」
ステラは素直に応じたが、彼女は時々無茶をするので心配だった。
「……ところで、門番が他所者を警戒していましたが、魔生物は人の姿をしているのでしょうか?」
ソフィアさんが、首領にそう尋ねたので思い出す。
そういえば、魔生物は人の姿をしている場合があるのだ。
エントワリエの門番が警戒していたのは、魔生物の進入だったのか?
「その可能性もあるってことだ。今まで、10箇所以上の町や村が破壊されたが……どの場所でも、ある程度の生き残りが確認されている。それなのに、魔生物らしき姿を生存者が誰も見てないってのは、おかしな話だからな」
「人の姿をしていて、爆裂魔法を使う魔生物、ですか……!」
僕は、思わず叫んでしまった。
考えられる限り、最悪の敵だ。
それは、あまりにも厄介な相手である。
人が大勢いる場所に、疑われないまま紛れ込み、そこで大爆発を起こす……そんな攻撃を防ぐ術など思い付かない。
「救いがあるとすれば、相手の魔力には、確実に上限があるってことだ。爆裂魔法を使うのは、何日かに1回だからな。毎日1回使われたら、何倍の人間が死んだか……」
「ですが、相手は爆裂魔法と、それを防ぐ障壁を同時に使っているはずです。しかも、高速移動の魔法や瞬間移動の魔法を使って動き回っているとすれば、想定可能な魔力量は何倍にも膨らみますよ?」
ソフィアさんの指摘に、首領は頷いた。
「確かにな……。だが、魔生物の移動距離や、爆裂魔法の使用頻度を考えると、相手の思考パターンが読めてくる。おそらく、奴は魔力が回復するまで動き回り、回復してから発見した、人が多くいる場所を爆破している」
「あの……今、魔生物がどこにいるか分かりませんか?」
「ある程度は分かっている。だから、出現する可能性が高そうな場所に、正規軍の連中や精霊の保有者が討伐に向かってるんだ。俺も、充分な戦力を整えることさえできれば、魔生物を狩りに行ってるんだがな……」
「ルークさん、私達も出現予測地点へ向かいましょう」
ソフィアさんに促され、僕は頷いた。
ただでさえ、僕達は出遅れている。
深刻な状況だと分かったからには、すぐにでも出発すべきだろう。
「あの、私達も連れて行ってください!」
突然、ステラがそんなことを言い出した。
「駄目だよ! ステラは、怪我をした人を治すためにここに来たんだろう?」
「でも、ここにいても、治せる人は、エントワリエまで来られる人に限られるわ。近くまで行けば、もっと多くの人を治せるはずなのに!」
「ステラさん、貴方はここにいてください。決して無理をしてはいけません」
「でも……!」
なおも言い募ろうとするステラの肩に、首領が手を置いた。
「そうだ。前線には、俺が行く」
「首領……!?」
「ソフィア嬢ちゃんに加えて、大精霊の保有者までいるんだ。これでも病人扱いされるなら、何のために来たのか分からないからな」
「でも、首領に何かあったら、コミュニティが……!」
「あいつらは、もう俺がいなくても大丈夫さ。それに、招集されたのは俺なんだから、リスクを負うのは俺であるべきだろ?」
「そうですね。ではディーンさん、お願いします」
ソフィアさんは、今度は止めなかった。
「おい、俺には冷たいんじゃないか?」
「貴方の命なら、惜しくありませんから」
その言葉は、冗談ではなさそうだった。
ステラ達が唖然としている。
首領は苦笑した。
「昔と比べて、雰囲気が柔らかくなったと思ったが……変わらないな、嬢ちゃん」
「変わる必要がありませんから」
ソフィアさんは笑顔で応じた。
「いや、ソフィアさんもここに残るべきでしょう! 僕の身元を説明する必要は、もうなくなったわけですから」
「あら、そういえば、ルークさんにはまだ説明していませんでしたね」
「説明って……何をですか?」
「ファレプシラ!」
「!?」
ソフィアさんが呼び出した精霊は、アヴェーラではなかった。
彼女の後ろに、AAランクの精霊が現われる。
「何だ、ルークは、ソフィア嬢ちゃんがAAランクの精霊を保有してるってことを知らなかったのか?」
「ええ、教えていませんから」
「ちょっと待ってください! どうして、そんな大事なことを黙っていたんですか!?」
「……この子は、ヨネスティアラ様と別れた原因の一つなので」
「……」
一体、二人の間には何があったのだろう?
ソフィアさんは、嬉しそうにファレプシラを抱きしめた。
ファレプシラは、ソフィアさんに身体を預けるようにしていた。
クラフトさんが、状況を理解できない様子で言った。
ステラもポールも、僕の後ろに大精霊が浮いている理由が分からない様子である。
コーディマリーは、しばらく僕の回りを飛び回ったが、ソリアーチェにじっと見られていることに気付いたのか、慌てたようにステラの後ろに隠れてしまった。
「そいつがソリアーチェか。まさか、本当にお前に適合したとはな」
首領が、何度も僕とソリアーチェを見比べながら言った。
「首領は、ソリアーチェのことをご存知なんですか?」
「当然だろ? 聖女の嬢ちゃんが、俺のコミュニティの冒険者に適合しないか、10人以上で試したんだからな。結局、俺も含めて、可能性のありそうな奴は全員駄目だったが……まさか、それがお前に適合しちまうなんて。聖女ちゃんから聞いた時には驚いたぜ」
どうやら、聖女様は、ソリアーチェが僕に適合したことを、首領に伝えたらしい。
「ちょっと待ってくれ……これ、ルークの精霊なのか!?」
「そんな馬鹿な!」
「ルーク、凄いじゃない!」
「いや、これは、偶然っていうか……」
「偶然で大精霊が適合するのか!?」
クラフトさん達は、一様に驚いた様子だった。
「コーディマリーがお前に纏わり付いたと聞いた時から、お前には何かあるんじゃないかと思っていたが、その答えがこれとはな。おまけに、今組んでる相手がソフィア嬢ちゃんとは……」
首領が、ソフィアさんに目を向ける。
「お久しぶりです、ディーンさん」
ソフィアさんは、いつもの笑顔で、首領に頭を下げた。
「5年ぶりくらいか? 元々可愛い子だったが、こんな美人になるとはなあ……」
「首領とソフィアさんは、お知り合いなんですか?」
「ああ。天才少女だって話題になっていたソフィア嬢ちゃんを、コミュニティに勧誘しに行ったんだ。きっぱりと断られたけどな」
「あの時の判断は正しかったと思います。そのおかげで、私はヨネスティアラ様のパーティーに入れたのですから」
「だが、聖女ちゃんとは喧嘩別れしたって聞いたぜ? だから、今はルークと組んでるんだろ?」
「それも含めて、運が良かったと思いますよ」
意外だった。
首領とソフィアさんに、面識があったなんて……。
「あの……どうして首領がここにいるんですか? それに、クラフトさん達まで……」
「おいおい、俺だってAAAランクの精霊の保有者だぜ? 忘れたのか?」
「あっ……」
そうだった。
首領の精霊はAAAランクだと聞いたことがある。
今まで一度も見たことがないので忘れていた。
首領は、一流の冒険者として活躍していたが、若くして重い病気を患い引退したらしい。
それでも、歴史上最強の調整者と言われたこの人は、現在でも多くの人々に尊敬されている。
首領の方が、大精霊の保有者よりも強かったのではないか、と言われることもあるくらいだ。
だからこそ、多くの冒険者が付いて行こうと思うのである。
首領は、抹消者以外の役割は、一人で全てこなしたらしい。
全ての役割を兼務する完全な調整者に、最も近付いた人物だと言われている。
半端な能力しか持たない調整者である僕にとっては、尊敬すべき人なのだ。
「今回は、回復者が必要だからステラにも来てもらった。相手が、爆裂魔法を使う化け物だからな。俺が戦いに専念したら、どうしても負傷者を治す人間が必要になる。……結局、病気が原因で、待機するように言われちまったけどな」
「俺達は、ステラを守るために付いて来たってわけだ」
クラフトさんがそう言ったので、僕は慌てた。
「守るって……相手は、AAランクの精霊を保有していた冒険者すら倒しています。危険ですよ!」
「危険だってことも、俺達じゃ魔生物に敵わないことも承知の上さ。だが、負傷者を見殺しには出来ないだろ?」
「それはそうですけど……」
「立派な心がけだと思いますが、決して無理はなさらないでくださいね? ステラさんの能力は、これからも多くの人に必要とされるはずですから」
ソフィアさんが心配そうに言った。
「はい。心配してくださって、ありがとうございます」
ステラは素直に応じたが、彼女は時々無茶をするので心配だった。
「……ところで、門番が他所者を警戒していましたが、魔生物は人の姿をしているのでしょうか?」
ソフィアさんが、首領にそう尋ねたので思い出す。
そういえば、魔生物は人の姿をしている場合があるのだ。
エントワリエの門番が警戒していたのは、魔生物の進入だったのか?
「その可能性もあるってことだ。今まで、10箇所以上の町や村が破壊されたが……どの場所でも、ある程度の生き残りが確認されている。それなのに、魔生物らしき姿を生存者が誰も見てないってのは、おかしな話だからな」
「人の姿をしていて、爆裂魔法を使う魔生物、ですか……!」
僕は、思わず叫んでしまった。
考えられる限り、最悪の敵だ。
それは、あまりにも厄介な相手である。
人が大勢いる場所に、疑われないまま紛れ込み、そこで大爆発を起こす……そんな攻撃を防ぐ術など思い付かない。
「救いがあるとすれば、相手の魔力には、確実に上限があるってことだ。爆裂魔法を使うのは、何日かに1回だからな。毎日1回使われたら、何倍の人間が死んだか……」
「ですが、相手は爆裂魔法と、それを防ぐ障壁を同時に使っているはずです。しかも、高速移動の魔法や瞬間移動の魔法を使って動き回っているとすれば、想定可能な魔力量は何倍にも膨らみますよ?」
ソフィアさんの指摘に、首領は頷いた。
「確かにな……。だが、魔生物の移動距離や、爆裂魔法の使用頻度を考えると、相手の思考パターンが読めてくる。おそらく、奴は魔力が回復するまで動き回り、回復してから発見した、人が多くいる場所を爆破している」
「あの……今、魔生物がどこにいるか分かりませんか?」
「ある程度は分かっている。だから、出現する可能性が高そうな場所に、正規軍の連中や精霊の保有者が討伐に向かってるんだ。俺も、充分な戦力を整えることさえできれば、魔生物を狩りに行ってるんだがな……」
「ルークさん、私達も出現予測地点へ向かいましょう」
ソフィアさんに促され、僕は頷いた。
ただでさえ、僕達は出遅れている。
深刻な状況だと分かったからには、すぐにでも出発すべきだろう。
「あの、私達も連れて行ってください!」
突然、ステラがそんなことを言い出した。
「駄目だよ! ステラは、怪我をした人を治すためにここに来たんだろう?」
「でも、ここにいても、治せる人は、エントワリエまで来られる人に限られるわ。近くまで行けば、もっと多くの人を治せるはずなのに!」
「ステラさん、貴方はここにいてください。決して無理をしてはいけません」
「でも……!」
なおも言い募ろうとするステラの肩に、首領が手を置いた。
「そうだ。前線には、俺が行く」
「首領……!?」
「ソフィア嬢ちゃんに加えて、大精霊の保有者までいるんだ。これでも病人扱いされるなら、何のために来たのか分からないからな」
「でも、首領に何かあったら、コミュニティが……!」
「あいつらは、もう俺がいなくても大丈夫さ。それに、招集されたのは俺なんだから、リスクを負うのは俺であるべきだろ?」
「そうですね。ではディーンさん、お願いします」
ソフィアさんは、今度は止めなかった。
「おい、俺には冷たいんじゃないか?」
「貴方の命なら、惜しくありませんから」
その言葉は、冗談ではなさそうだった。
ステラ達が唖然としている。
首領は苦笑した。
「昔と比べて、雰囲気が柔らかくなったと思ったが……変わらないな、嬢ちゃん」
「変わる必要がありませんから」
ソフィアさんは笑顔で応じた。
「いや、ソフィアさんもここに残るべきでしょう! 僕の身元を説明する必要は、もうなくなったわけですから」
「あら、そういえば、ルークさんにはまだ説明していませんでしたね」
「説明って……何をですか?」
「ファレプシラ!」
「!?」
ソフィアさんが呼び出した精霊は、アヴェーラではなかった。
彼女の後ろに、AAランクの精霊が現われる。
「何だ、ルークは、ソフィア嬢ちゃんがAAランクの精霊を保有してるってことを知らなかったのか?」
「ええ、教えていませんから」
「ちょっと待ってください! どうして、そんな大事なことを黙っていたんですか!?」
「……この子は、ヨネスティアラ様と別れた原因の一つなので」
「……」
一体、二人の間には何があったのだろう?
ソフィアさんは、嬉しそうにファレプシラを抱きしめた。
ファレプシラは、ソフィアさんに身体を預けるようにしていた。
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