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42話 魔生物
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僕は、混乱しながら尋ねた。
「どういうことですか? 戦いって……」
「ソフィア嬢ちゃんが、あのベスっていうガキに触れて拒まれただろ? あの時の二人の様子を、きちんと見れば分かったはずだ。この二人は、もう戦うことを決めたってな」
「じゃあ、あの子が……魔生物なんですか!?」
「いや、片方だけが魔生物ってことはない。あの2人は、どちらも魔生物なんだろう」
魔生物が……2体!
1体だけでも世界を危機に陥れるような魔物が、同時に複数現われるなんて!
しかし、それならば、爆裂魔法と防御魔法を同時に使えたことも説明できる。
片方が障壁を展開し、片方が爆裂魔法を放ったのだ。
障壁を展開するタイミングを間違えたら自爆しかねない行為だが、兄弟を演じるような関係ならば、そういった連携は得意なのかもしれない。
「詳しいことは、エクセスさん達を追いながら説明します」
「そうだ! 今の話が本当なら、エクセスさん達が危険ですよ!」
「慌てる必要はありません。エクセスさんには印を付けてあります。今から追えば、すぐに追い付けますよ」
どうやら、ソフィアさんが寝る前にエクセスさんと話をしていたのは、魔生物を倒すための算段を立てるためだったらしい。
僕達は、ソフィアさんの魔法で加速して走り、エクセスさん達を追った。
僕達がエクセスさん達に追い付いた時、既に集落からは充分に離れていた。
ここであれば、たとえ魔生物が爆裂魔法を使ったとしても、無関係な人間を巻き込むリスクは低いだろう。
「皆さん……どうなさったんですか?」
僕達が追ってきた理由が分からない様子で、回復者のセレーナさんが尋ねる。
「茶番は終わりだ、ガキども。そろそろ本性を現わしたらどうだ?」
「おじさん、何言ってるの?」
ディックが、意味が分からない、とでも言いたげに首を捻る。
すると、ソフィアさんが進み出て言った。
「ベス、貴方の身体は良くできていると思います。肌の弾力も、体温も、人のそれにかなり近い……。ですが、貴方の身体からは脈拍も呼吸も感じられませんでした。それが、貴方が人間でない証拠です」
ソフィアさんの指摘を受けて、ベスは鼻を鳴らした。
「ならば、あの場ですぐに我らを殺せば良かっただろう。魔力を回復する猶予を我らに与えるなど、愚かにも程がある」
ベスは、もはや正体を隠すつもりはなさそうだった。
口調も表情も変わっている。
もう片方のディックの表情も、先ほどまでの子供のものとは異なっていた。
「我らの偽りの人格に、素直に騙されていれば良かったものを! そんなに死にたいのであれば、その望み、今すぐ叶えてやろう!」
ディックは、手を一振りした。
それと共に、光が糸のように空間を切り裂いた。
その光の糸を、ディックと同時に動いていたエクセスさんが切り払う。
それを見て、光の糸の正体が、攻撃魔法だということに気付いた。
「お前らは離れろ! 俺が片方の相手をする! 皆は、もう片方を仕留めてくれ!」
そう叫んで、エクセスさんはディックに向かって走り、一気に距離を詰めた。
ディックが、更に数条の攻撃魔法を放つ。
複雑な軌道を描くそれを、エクセスさんは全て回避し、あるいは切り払った。
「くっ!」
予想外の速度で接近されたことに驚いたのか、ディックが後ろに飛び退き障壁を展開する。
だが、エクセスさんの剣は、障壁を紙のように切り裂いた。
彼は破壊者の能力を使えるようだ。
ディックは再び攻撃魔法を放つが、エクセスさんはそれを全てかいくぐった。
エクセスさんは、魔生物の少年に接近したまま、離れずに剣を振るい続けた。
それは、相手の爆裂魔法を警戒しているからなのだろう。
障壁を破る能力のある者に接近された状態では、自爆する恐れがあり、爆裂魔法は使えない。
それを狙っているのだ。
作戦としては単純だが、複雑な弧を描く攻撃魔法を全て回避しながら敵に接近し続けるなど、よほどの実力がなければ不可能な芸当だ。
剣聖と呼ばれるのは伊達ではない。
そして、二人が接近した状態で目まぐるしく動き回っているため、どちらに対しても援護は不可能に近いだろう。
それは、残るメンバーは二人のことを気にする必要がない、ということだ。
つまり、エクセスさんを除く全員で、ベスを倒せば良いのである。
首領と魔導師のアイラさんが、ベスを狙って攻撃魔法を放つ。
ほぼ反対方向から放たれた魔法を、障壁で両方防ぐことは難しいはずだ。
首領の精霊はAAAランクなのでなおさらである。
しかし、ベスはそれぞれに対して障壁を展開した。
すると、二人の魔法は軌道を変え、首領の魔法はアイラさんに、アイラさんの魔法は首領に向かった!
「きゃあ!」
アイラさんは、魔法で腕を貫かれて悲鳴を上げる。
一方、アイラさんの魔法は、ソフィアさんが展開した障壁で遮られた。
攻撃魔法を屈曲させる障壁……!
こんなもの、見たことも聞いたこともない。
こいつを相手に、迂闊に攻撃魔法を放つのは危険だ。
もし僕が全力で魔法を放ち、それが曲げられたら大惨事になりかねない。
そう判断して、僕は剣を抜き、ベスに接近した。
しかし、ベスもディックと同じ、糸のような攻撃魔法を放つ。
不規則にうねる光が、僕の進路を邪魔する。
やむを得ず、僕は障壁でその魔法を防いだ。
全方向から僕を狙う魔法を防ぐために、全面に障壁を展開する。
この状態では、僕は動くことが出来ない。
障壁を解除して突っ込むのは難しい。
専門の戦士ではない僕では、この魔法を全て回避するのは困難である。
すると、格闘家であるスコールさんが、ベスとの距離を詰めた。
当然、ベスはスコールさんに対しても魔法を放つ。
しかし、スコールさんはそれを全て躱した。
ベスは、焦った様子でスコールさんを狙う魔法の本数を増やす。
それでも、スコールさんは無駄のない動きでそれを回避し続けた。
ベスは、人間には使えない魔法を放っているが、この世に誕生してからの経験が乏しいからなのか、戦い方には素人臭さが感じられる。
おそらくディックもそうなのだろう。
だから、エクセスさんやスコールさんは相手の狙いを読み、魔法を回避出来るのだ。
ベスがスコールさんに注意を向けたために、僕に向かって放たれる光の本数が減る。
その隙を突いて、僕は障壁を解除してベスに接近した。
すると、ベスは手の中に光の束を集め、魔法を棒状に凝縮して僕に向かってきた。
僕が振り下ろした剣と、ベスの魔法の剣が交錯する。
剣が、強く押し戻された。
「……!」
僕は慌てて飛び退いた。
大精霊の支援を受けている僕より、ベスの魔力の方が上だというのか!
それでも、僕とは反対側から、スコールさんがベスに接近戦を挑む。
やはり、ベスの動きは洗練されているわけではなかった。
魔法の剣を、闇雲に振り回している。
スコールさんはベスの剣を躱し、魔力が込められた拳をベスの腹部に叩き込んだ。
魔生物の腹部が、陶器か何かのように砕け散る。
アイラさんに回復魔法をかけていたセレーナさんが、悲鳴のような声を上げた。
ベスは、ふらふらとよろめきながらも、スコールさんに向かって大量の光の糸を放った。
そのほとんどをスコールさんは躱したが、避けきれなかったものが脚を切り裂く。
僕は、瞬間移動でベスの後ろに転移し、剣を振り下ろして頭を叩き割る。
少女の姿をしているからといって、躊躇している場合ではなかった。
ベスと名乗っていた魔生物は、頭から砂のように崩れ落ちた。
これで、あと一体……!
エクセスさんは、相変わらずディックに接近した状態を維持していた。
しかし、いかにエクセスさんでも、一人でディックを仕留めることは難しいようだ。
これ以上接近すれば、攻撃魔法の束を一瞬で捌かねばならない。
それは極めてリスクが高い。
現状では、ディックが無駄にエクセスさんの後ろを狙うなどして、むしろ彼に時間的猶予を与えているように思える。
出来ることなら、今のうちに何らかの方法でディックを攻撃して、エクセスさんを援護したいところだ。
しかし、僕の腕でそれは困難である。
下手に攻撃魔法を放てば、エクセスさんの邪魔をする危険があるし、最悪の場合は彼に当ててしまうかもしれない。
戦士の魔法で接近を試みるのは論外である。
エクセスさんの動きを邪魔せずに、戦えるはずがない。
瞬間移動して接近するのも、タイミングがシビアで困難だ。
「私に任せてください」
僕が悩んでいると、ソフィアさんが僕の前に出た。
そして、ディックに向けて杖を突き出し構える。
相変わらず、二人は高速で動き回っていた。
立ち位置が、繰り返し反対になる。
僅かでもタイミングを外すことは許されない……!
「……!」
ソフィアさんが攻撃魔法を放った。
完璧なタイミングだった。
ディックの右手が砕け、操っていた攻撃魔法が霧散する。
その隙を逃さず、エクセスさんはディックの首を刎ね飛ばした!
「……終わったな」
エクセスさんが、大きく息を吐いて言った。
恐るべき魔生物だった。
エクセスさん抜きでは、とても倒せなかっただろう。
「……いえ、まだです!」
ソフィアさんが焦った声で叫んだ。
「そのとおりだ、人間よ。我と共に、我らの肥やしとなれ!」
ディックは、頭だけになっても声を発した。
その瞬間、ソリアーチェが警告を発する!
エクセスさんは、反射的にディックの頭を叩き割ろうと動いた。
しかし、それでは間に合わない!
咄嗟に僕も飛び出しそうになったが、ソフィアさんが僕に抱き付いてくる。
僕とソフィアさんは、その状態のままエクセスさんの近くに移動していた。
僕は、事前の計画どおり、障壁を全面に展開する。
その瞬間、ディックの頭を中心に、爆裂魔法が炸裂した。
大地が、揺れた。
「どういうことですか? 戦いって……」
「ソフィア嬢ちゃんが、あのベスっていうガキに触れて拒まれただろ? あの時の二人の様子を、きちんと見れば分かったはずだ。この二人は、もう戦うことを決めたってな」
「じゃあ、あの子が……魔生物なんですか!?」
「いや、片方だけが魔生物ってことはない。あの2人は、どちらも魔生物なんだろう」
魔生物が……2体!
1体だけでも世界を危機に陥れるような魔物が、同時に複数現われるなんて!
しかし、それならば、爆裂魔法と防御魔法を同時に使えたことも説明できる。
片方が障壁を展開し、片方が爆裂魔法を放ったのだ。
障壁を展開するタイミングを間違えたら自爆しかねない行為だが、兄弟を演じるような関係ならば、そういった連携は得意なのかもしれない。
「詳しいことは、エクセスさん達を追いながら説明します」
「そうだ! 今の話が本当なら、エクセスさん達が危険ですよ!」
「慌てる必要はありません。エクセスさんには印を付けてあります。今から追えば、すぐに追い付けますよ」
どうやら、ソフィアさんが寝る前にエクセスさんと話をしていたのは、魔生物を倒すための算段を立てるためだったらしい。
僕達は、ソフィアさんの魔法で加速して走り、エクセスさん達を追った。
僕達がエクセスさん達に追い付いた時、既に集落からは充分に離れていた。
ここであれば、たとえ魔生物が爆裂魔法を使ったとしても、無関係な人間を巻き込むリスクは低いだろう。
「皆さん……どうなさったんですか?」
僕達が追ってきた理由が分からない様子で、回復者のセレーナさんが尋ねる。
「茶番は終わりだ、ガキども。そろそろ本性を現わしたらどうだ?」
「おじさん、何言ってるの?」
ディックが、意味が分からない、とでも言いたげに首を捻る。
すると、ソフィアさんが進み出て言った。
「ベス、貴方の身体は良くできていると思います。肌の弾力も、体温も、人のそれにかなり近い……。ですが、貴方の身体からは脈拍も呼吸も感じられませんでした。それが、貴方が人間でない証拠です」
ソフィアさんの指摘を受けて、ベスは鼻を鳴らした。
「ならば、あの場ですぐに我らを殺せば良かっただろう。魔力を回復する猶予を我らに与えるなど、愚かにも程がある」
ベスは、もはや正体を隠すつもりはなさそうだった。
口調も表情も変わっている。
もう片方のディックの表情も、先ほどまでの子供のものとは異なっていた。
「我らの偽りの人格に、素直に騙されていれば良かったものを! そんなに死にたいのであれば、その望み、今すぐ叶えてやろう!」
ディックは、手を一振りした。
それと共に、光が糸のように空間を切り裂いた。
その光の糸を、ディックと同時に動いていたエクセスさんが切り払う。
それを見て、光の糸の正体が、攻撃魔法だということに気付いた。
「お前らは離れろ! 俺が片方の相手をする! 皆は、もう片方を仕留めてくれ!」
そう叫んで、エクセスさんはディックに向かって走り、一気に距離を詰めた。
ディックが、更に数条の攻撃魔法を放つ。
複雑な軌道を描くそれを、エクセスさんは全て回避し、あるいは切り払った。
「くっ!」
予想外の速度で接近されたことに驚いたのか、ディックが後ろに飛び退き障壁を展開する。
だが、エクセスさんの剣は、障壁を紙のように切り裂いた。
彼は破壊者の能力を使えるようだ。
ディックは再び攻撃魔法を放つが、エクセスさんはそれを全てかいくぐった。
エクセスさんは、魔生物の少年に接近したまま、離れずに剣を振るい続けた。
それは、相手の爆裂魔法を警戒しているからなのだろう。
障壁を破る能力のある者に接近された状態では、自爆する恐れがあり、爆裂魔法は使えない。
それを狙っているのだ。
作戦としては単純だが、複雑な弧を描く攻撃魔法を全て回避しながら敵に接近し続けるなど、よほどの実力がなければ不可能な芸当だ。
剣聖と呼ばれるのは伊達ではない。
そして、二人が接近した状態で目まぐるしく動き回っているため、どちらに対しても援護は不可能に近いだろう。
それは、残るメンバーは二人のことを気にする必要がない、ということだ。
つまり、エクセスさんを除く全員で、ベスを倒せば良いのである。
首領と魔導師のアイラさんが、ベスを狙って攻撃魔法を放つ。
ほぼ反対方向から放たれた魔法を、障壁で両方防ぐことは難しいはずだ。
首領の精霊はAAAランクなのでなおさらである。
しかし、ベスはそれぞれに対して障壁を展開した。
すると、二人の魔法は軌道を変え、首領の魔法はアイラさんに、アイラさんの魔法は首領に向かった!
「きゃあ!」
アイラさんは、魔法で腕を貫かれて悲鳴を上げる。
一方、アイラさんの魔法は、ソフィアさんが展開した障壁で遮られた。
攻撃魔法を屈曲させる障壁……!
こんなもの、見たことも聞いたこともない。
こいつを相手に、迂闊に攻撃魔法を放つのは危険だ。
もし僕が全力で魔法を放ち、それが曲げられたら大惨事になりかねない。
そう判断して、僕は剣を抜き、ベスに接近した。
しかし、ベスもディックと同じ、糸のような攻撃魔法を放つ。
不規則にうねる光が、僕の進路を邪魔する。
やむを得ず、僕は障壁でその魔法を防いだ。
全方向から僕を狙う魔法を防ぐために、全面に障壁を展開する。
この状態では、僕は動くことが出来ない。
障壁を解除して突っ込むのは難しい。
専門の戦士ではない僕では、この魔法を全て回避するのは困難である。
すると、格闘家であるスコールさんが、ベスとの距離を詰めた。
当然、ベスはスコールさんに対しても魔法を放つ。
しかし、スコールさんはそれを全て躱した。
ベスは、焦った様子でスコールさんを狙う魔法の本数を増やす。
それでも、スコールさんは無駄のない動きでそれを回避し続けた。
ベスは、人間には使えない魔法を放っているが、この世に誕生してからの経験が乏しいからなのか、戦い方には素人臭さが感じられる。
おそらくディックもそうなのだろう。
だから、エクセスさんやスコールさんは相手の狙いを読み、魔法を回避出来るのだ。
ベスがスコールさんに注意を向けたために、僕に向かって放たれる光の本数が減る。
その隙を突いて、僕は障壁を解除してベスに接近した。
すると、ベスは手の中に光の束を集め、魔法を棒状に凝縮して僕に向かってきた。
僕が振り下ろした剣と、ベスの魔法の剣が交錯する。
剣が、強く押し戻された。
「……!」
僕は慌てて飛び退いた。
大精霊の支援を受けている僕より、ベスの魔力の方が上だというのか!
それでも、僕とは反対側から、スコールさんがベスに接近戦を挑む。
やはり、ベスの動きは洗練されているわけではなかった。
魔法の剣を、闇雲に振り回している。
スコールさんはベスの剣を躱し、魔力が込められた拳をベスの腹部に叩き込んだ。
魔生物の腹部が、陶器か何かのように砕け散る。
アイラさんに回復魔法をかけていたセレーナさんが、悲鳴のような声を上げた。
ベスは、ふらふらとよろめきながらも、スコールさんに向かって大量の光の糸を放った。
そのほとんどをスコールさんは躱したが、避けきれなかったものが脚を切り裂く。
僕は、瞬間移動でベスの後ろに転移し、剣を振り下ろして頭を叩き割る。
少女の姿をしているからといって、躊躇している場合ではなかった。
ベスと名乗っていた魔生物は、頭から砂のように崩れ落ちた。
これで、あと一体……!
エクセスさんは、相変わらずディックに接近した状態を維持していた。
しかし、いかにエクセスさんでも、一人でディックを仕留めることは難しいようだ。
これ以上接近すれば、攻撃魔法の束を一瞬で捌かねばならない。
それは極めてリスクが高い。
現状では、ディックが無駄にエクセスさんの後ろを狙うなどして、むしろ彼に時間的猶予を与えているように思える。
出来ることなら、今のうちに何らかの方法でディックを攻撃して、エクセスさんを援護したいところだ。
しかし、僕の腕でそれは困難である。
下手に攻撃魔法を放てば、エクセスさんの邪魔をする危険があるし、最悪の場合は彼に当ててしまうかもしれない。
戦士の魔法で接近を試みるのは論外である。
エクセスさんの動きを邪魔せずに、戦えるはずがない。
瞬間移動して接近するのも、タイミングがシビアで困難だ。
「私に任せてください」
僕が悩んでいると、ソフィアさんが僕の前に出た。
そして、ディックに向けて杖を突き出し構える。
相変わらず、二人は高速で動き回っていた。
立ち位置が、繰り返し反対になる。
僅かでもタイミングを外すことは許されない……!
「……!」
ソフィアさんが攻撃魔法を放った。
完璧なタイミングだった。
ディックの右手が砕け、操っていた攻撃魔法が霧散する。
その隙を逃さず、エクセスさんはディックの首を刎ね飛ばした!
「……終わったな」
エクセスさんが、大きく息を吐いて言った。
恐るべき魔生物だった。
エクセスさん抜きでは、とても倒せなかっただろう。
「……いえ、まだです!」
ソフィアさんが焦った声で叫んだ。
「そのとおりだ、人間よ。我と共に、我らの肥やしとなれ!」
ディックは、頭だけになっても声を発した。
その瞬間、ソリアーチェが警告を発する!
エクセスさんは、反射的にディックの頭を叩き割ろうと動いた。
しかし、それでは間に合わない!
咄嗟に僕も飛び出しそうになったが、ソフィアさんが僕に抱き付いてくる。
僕とソフィアさんは、その状態のままエクセスさんの近くに移動していた。
僕は、事前の計画どおり、障壁を全面に展開する。
その瞬間、ディックの頭を中心に、爆裂魔法が炸裂した。
大地が、揺れた。
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