大精霊の導き

たかまちゆう

文字の大きさ
上 下
45 / 76

44話 新たな目標

しおりを挟む
「えっ……?」

 理由が全く分からなかった。
 彼らは、どうしてこちらと戦おうとしているのか?

「お久し振りですね、ソフィアさん」

 シルヴィアという名前の魔導師の女性が、ソフィアさんを睨み付けて言った。

「お久し振りです、シルヴィア。皆さんも、お元気そうで何よりです」
「白々しいことを……! そのルークという男を仲間にして、一体何を企んでいるのですか?」
「まあ! 企むだなんて。私とルークさんが仲間になったのは偶然ですよ?」
「そんなはずがないでしょう!? 貴方は、大精霊の保有者を敵視していたはずですよね? そんな貴方が、何の目的もなく、大精霊の保有者の仲間になるはずがありません!」

 何だって……?

 思わずソフィアさんの方を見る。
 彼女が、大精霊の保有者を敵視している……?

「それは誤解ですよ。私は精霊のことが今でも好きですし、ヨネスティアラ様のことを恨んでもいません」
「貴方は、2年前に自分が何と言ったか忘れたんですか!?」
「もうやめてください。シルヴィアも皆さんも」

 聖女様が、仲間を窘める。

「ヨネスティアラ様、ですが……!」

 魔導師の女性の言葉に、聖女様は首を振った。

「ソフィアさんに敵意が無いなら、我々は争うべきではありません」
「ヨネスティアラ様……お会いしたかったです、ずっと……」

 ソフィアさんが、感極まった様子で言った。

 既に、シルヴィアさん達のことも僕のことも、意識の外に追いやってしまったかのようだ。

「私もですよ、ソフィアさん」

 聖女様がそう言って微笑みかけると、ソフィアさんは、感激した様子で聖女様に駆け寄り、抱き付いた。

「そのおねーさん、結局、おねーちゃんの友達なの? それとも敵なの?」

 戸惑った様子で成り行きを見守っていた抹消者の少年が、訳が分からない、といった様子で言った。

「……決して、心を許してはならない相手ですよ」

 シルヴィアさんは、苦々しげに言った。


 ソフィアさんが、かつての仲間からここまで敵視されているなんて……。
 どうやら、聖女様とソフィアさんは、単に仲違いしたわけではなさそうだった。


 シルヴィアさんは、突然、僕のことを睨み付けてきた。

「……まさか、貴方がソフィアさんの仲間になるとは。これは、ヨネスティアラ様への反逆行為ですよ?」
「そんな! 僕がソフィアさんとパーティーを組んだ時には、二人が喧嘩別れしたなんて知らなかったんですよ!」
「とても信じられませんね。どうせ、色香で取り込まれたのでしょう?」
「どうして魔導師の人は、皆が同じようなことを言うんですか……」

 僕はうんざりしてしまった。


「先ほどは失礼しました。驚いたでしょう?」

 あの後。

 聖女様は、僕と二人で話がしたいと言い出した。
 シルヴィアさんは嫌そうな顔をしたが、聖女様の意向には逆らえないようだった。

「……一体、ソフィアさんと聖女様の間には、何があったんですか?」
「精霊の位置付けに関して、私達の間に見解の相違が生じまして……」
「それは、神授説と共生説に関してですか? それとも……」
「申し訳ありません。詳しいことは話せないんです」
「……」

 やはり、二人の間には重大な出来事があったようだ。
 僕は、これ以上は追及しないことにした。

「では、話が変わりますが……実は、聖女様にお伝えしなければならないことがあります。聖女様から受けた依頼と……『闇夜の灯火亭』についてです」
「……ひょっとして、上手くいっていないのですか?」

 聖女様が意外そうな顔をした。
 そのことがショックだった。


 僕は、聖女様と出会った後の話を、なるべく詳しく伝えた。
 聖女様は、それをずっと黙って聞いていた。

「僕は、聖女様とお会いした後、あの宿の評価を上げるために努力しました。しかし、残念ながら力及ばず、全く役に立っていない状態です……申し訳ありません」
「謝る必要はありません。無茶な依頼をしてしまったことを、私は悔やんでいます。こんなタイミングで魔生物が現れるなんて計算外でしたし、あの宿にソフィアさんがいたことも想定外でした。私はただ、ルークに、他人から頼られることに慣れていただきたかったのです」
「頼られることに……慣れる?」
「大精霊を保有すれば、多くの人々に頼られます。私はそれを良しとしておりますが、見ず知らずの他人に頼られることを、煩わしいと感じる人も多いようです。私はルークに、誰かの役に立つことの喜びを知ってほしかった……。そのためなら、ソリアーチェの力を積極的に使っていただいても構わなかったのですが……」
「……」

 どうやら、僕もソフィアさんも、聖女様の意向を勘違いしていたようだ。
 彼女としては、僕にソリアーチェの力をフル活用してほしかったらしい。

「ルーク、貴方のやり方を認めましょう。貴方には、もうしばらくの猶予を差し上げます。それまでに、貴方の仲間だけでも、きちんと依頼を達成できる状態にしてください」
「……それは、ソフィアさんがいれば大丈夫な気もしますけど」
「いいえ、ソフィアさんは無理が出来ない身体ですから。他のメンバーだけでも、依頼を達成できなくてはなりません」
「……」

 それは、当初の目標と比べれば、かなり楽な条件だ。
 しかし、それですら簡単な事ではない。

 レイリスはともかくとして、リーザは魔導師に転向したばかりだし、ラナは戦士として腕がいいとは言えないからだ。
 だが、彼女達を成長させることすら出来ないまま、聖女様のパーティーに加えてもらうのは気が引ける。

「分かりました。やってみます」
「期待していますよ?」
「はい!」


「あの、聖女様……」

 話が終わって、僕は、先ほどから気になっていたことを尋ねた。

「どうなさいましたか?」
「聖女様のパーティーの、支援者の女の子はどうしたんですか?」
「ああ、あの子でしたら、病気になってしまって……」
「えっ!?」

 聖女様の言葉を聞いて、全身から血の気が引くのを感じた。

 あの少女は、合算すればAAAランク以上になる精霊を使っていたのだ。
 彼女まで身体を患ったとすれば、首領の言葉はいよいよ真実味を帯びてくる。

「ひょっとして、重い病気なんですか!?」
「そんなに心配しないでください。ただの軽い風邪ですよ? 魔生物と戦う場に病人を連れて来るわけにはいかなかったので、途中の宿で休んでいます」
「そうですか……」

 良かった。
 重い病にかかったわけではなかったのか……。

 今度あの少女と会う機会があれば、決して無理をしないように、と伝えようと思った。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王への道は険しくて

N
恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

無愛想な君から笑顔が消えた

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

ドラッグストア「スミヨシ」

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

白紙映画

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

咎姫~人罪己償~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...