大精霊の導き

たかまちゆう

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44話 新たな目標

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「えっ……?」

 理由が全く分からなかった。
 彼らは、どうしてこちらと戦おうとしているのか?

「お久し振りですね、ソフィアさん」

 シルヴィアという名前の魔導師の女性が、ソフィアさんを睨み付けて言った。

「お久し振りです、シルヴィア。皆さんも、お元気そうで何よりです」
「白々しいことを……! そのルークという男を仲間にして、一体何を企んでいるのですか?」
「まあ! 企むだなんて。私とルークさんが仲間になったのは偶然ですよ?」
「そんなはずがないでしょう!? 貴方は、大精霊の保有者を敵視していたはずですよね? そんな貴方が、何の目的もなく、大精霊の保有者の仲間になるはずがありません!」

 何だって……?

 思わずソフィアさんの方を見る。
 彼女が、大精霊の保有者を敵視している……?

「それは誤解ですよ。私は精霊のことが今でも好きですし、ヨネスティアラ様のことを恨んでもいません」
「貴方は、2年前に自分が何と言ったか忘れたんですか!?」
「もうやめてください。シルヴィアも皆さんも」

 聖女様が、仲間を窘める。

「ヨネスティアラ様、ですが……!」

 魔導師の女性の言葉に、聖女様は首を振った。

「ソフィアさんに敵意が無いなら、我々は争うべきではありません」
「ヨネスティアラ様……お会いしたかったです、ずっと……」

 ソフィアさんが、感極まった様子で言った。

 既に、シルヴィアさん達のことも僕のことも、意識の外に追いやってしまったかのようだ。

「私もですよ、ソフィアさん」

 聖女様がそう言って微笑みかけると、ソフィアさんは、感激した様子で聖女様に駆け寄り、抱き付いた。

「そのおねーさん、結局、おねーちゃんの友達なの? それとも敵なの?」

 戸惑った様子で成り行きを見守っていた抹消者の少年が、訳が分からない、といった様子で言った。

「……決して、心を許してはならない相手ですよ」

 シルヴィアさんは、苦々しげに言った。


 ソフィアさんが、かつての仲間からここまで敵視されているなんて……。
 どうやら、聖女様とソフィアさんは、単に仲違いしたわけではなさそうだった。


 シルヴィアさんは、突然、僕のことを睨み付けてきた。

「……まさか、貴方がソフィアさんの仲間になるとは。これは、ヨネスティアラ様への反逆行為ですよ?」
「そんな! 僕がソフィアさんとパーティーを組んだ時には、二人が喧嘩別れしたなんて知らなかったんですよ!」
「とても信じられませんね。どうせ、色香で取り込まれたのでしょう?」
「どうして魔導師の人は、皆が同じようなことを言うんですか……」

 僕はうんざりしてしまった。


「先ほどは失礼しました。驚いたでしょう?」

 あの後。

 聖女様は、僕と二人で話がしたいと言い出した。
 シルヴィアさんは嫌そうな顔をしたが、聖女様の意向には逆らえないようだった。

「……一体、ソフィアさんと聖女様の間には、何があったんですか?」
「精霊の位置付けに関して、私達の間に見解の相違が生じまして……」
「それは、神授説と共生説に関してですか? それとも……」
「申し訳ありません。詳しいことは話せないんです」
「……」

 やはり、二人の間には重大な出来事があったようだ。
 僕は、これ以上は追及しないことにした。

「では、話が変わりますが……実は、聖女様にお伝えしなければならないことがあります。聖女様から受けた依頼と……『闇夜の灯火亭』についてです」
「……ひょっとして、上手くいっていないのですか?」

 聖女様が意外そうな顔をした。
 そのことがショックだった。


 僕は、聖女様と出会った後の話を、なるべく詳しく伝えた。
 聖女様は、それをずっと黙って聞いていた。

「僕は、聖女様とお会いした後、あの宿の評価を上げるために努力しました。しかし、残念ながら力及ばず、全く役に立っていない状態です……申し訳ありません」
「謝る必要はありません。無茶な依頼をしてしまったことを、私は悔やんでいます。こんなタイミングで魔生物が現れるなんて計算外でしたし、あの宿にソフィアさんがいたことも想定外でした。私はただ、ルークに、他人から頼られることに慣れていただきたかったのです」
「頼られることに……慣れる?」
「大精霊を保有すれば、多くの人々に頼られます。私はそれを良しとしておりますが、見ず知らずの他人に頼られることを、煩わしいと感じる人も多いようです。私はルークに、誰かの役に立つことの喜びを知ってほしかった……。そのためなら、ソリアーチェの力を積極的に使っていただいても構わなかったのですが……」
「……」

 どうやら、僕もソフィアさんも、聖女様の意向を勘違いしていたようだ。
 彼女としては、僕にソリアーチェの力をフル活用してほしかったらしい。

「ルーク、貴方のやり方を認めましょう。貴方には、もうしばらくの猶予を差し上げます。それまでに、貴方の仲間だけでも、きちんと依頼を達成できる状態にしてください」
「……それは、ソフィアさんがいれば大丈夫な気もしますけど」
「いいえ、ソフィアさんは無理が出来ない身体ですから。他のメンバーだけでも、依頼を達成できなくてはなりません」
「……」

 それは、当初の目標と比べれば、かなり楽な条件だ。
 しかし、それですら簡単な事ではない。

 レイリスはともかくとして、リーザは魔導師に転向したばかりだし、ラナは戦士として腕がいいとは言えないからだ。
 だが、彼女達を成長させることすら出来ないまま、聖女様のパーティーに加えてもらうのは気が引ける。

「分かりました。やってみます」
「期待していますよ?」
「はい!」


「あの、聖女様……」

 話が終わって、僕は、先ほどから気になっていたことを尋ねた。

「どうなさいましたか?」
「聖女様のパーティーの、支援者の女の子はどうしたんですか?」
「ああ、あの子でしたら、病気になってしまって……」
「えっ!?」

 聖女様の言葉を聞いて、全身から血の気が引くのを感じた。

 あの少女は、合算すればAAAランク以上になる精霊を使っていたのだ。
 彼女まで身体を患ったとすれば、首領の言葉はいよいよ真実味を帯びてくる。

「ひょっとして、重い病気なんですか!?」
「そんなに心配しないでください。ただの軽い風邪ですよ? 魔生物と戦う場に病人を連れて来るわけにはいかなかったので、途中の宿で休んでいます」
「そうですか……」

 良かった。
 重い病にかかったわけではなかったのか……。

 今度あの少女と会う機会があれば、決して無理をしないように、と伝えようと思った。
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