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制裁3
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「お待たせして申し訳ありません」
「いや、気にするな」
青柳が義総の元へ報告に訪れたのは既に日が昇りきった頃だった。幸嗣が沙耶を連れ出してから目が冴えてしまい、それから青柳が報告に来るのをずっと待っていたのだ。
「先ずはこちらをご覧ください」
青柳はタブレット端末で渡部と彼の秘書が写っている画面を見せながら昨夜と同じ内容を彼にも説明する。義総はその間、表情を変えずずっとその説明に耳を傾けていた。
「動機は不明ですが、今の所犯人は渡部部長が濃厚です。今朝届いた情報によりますと、後任への引継ぎが滞っている他、秘書は親族の1人と接触している事が判明しました」
タブレットに映し出されたのは親族の動向を窺っていた調査員が撮った写真だった。どこかのカフェで渡部の秘書が良く知る親族と同席し、何やら深刻そうな話をしている。幸嗣に最も辛く当たってきた1人で、先日幸嗣によって不正が暴かれ、手痛いしっぺ返しを食らった1人だ。この様子だと、それでも懲りずにまた何かを企んでいるのだろう。
「接触したのは1人だけか?」
「今、判明しているのは1人です。幸嗣様は他の親族の動向も探らせておられましたが、他は先日、幸嗣様に暴露された不正の後始末で身動きが出来ない状態です」
青柳は今朝の時点で入手できた報告をタブレットに映す。どの親族も告訴を免れようと躍起になっているのが分かる。ただ1人、幸嗣に辛く当たった親族は伝手を使ってどうにかそれを免れている様だ。
「こいつにそこまで頼れる伝手は有ったか?」
「無かった筈です」
青柳は即答する。久子が存命であれば、それ相応の見返りと引き換えに不正を揉み消す事は可能だったが、彼1人では無理だろう。その違和感に2人は直感で悟る。
「まだ黒幕がいるな」
「私もその様に感じます」
幸嗣もその違和感を察したのだろう。しかし自信は無かったらしく、それらの情報を青柳に手渡しながら言葉を濁していた。
「先ずは重点的に渡部の動向を探れ。動機云々は身柄を確保してから聞き出せばいい。あの親族だけでなく他の連中にも余罪があったな?」
「はい」
「それを使え。親族共が身動き取れなくなれば、黒幕も動かざるを得ないだろう」
「では、そのように手配いたします」
沙耶を別荘へ送り届ける役目を引き受けた幸嗣は、今日一杯は身動きが取れなくなるので実際には1人で動かなければならなくなる。それでも青柳は事も無げに頭を下げた。
青柳が退出した後、美弥子から沙耶が無事に高嶺家を発ったと連絡があった。沙耶は少し寂しそうにしていたが、幸嗣から説明を受けて納得した様子だったと言う。
「聞いたと思うけど、あんたは容体が悪化した事になってるから、出しゃばらないで治療に専念してなさい」
「する事ないなら、私も沙耶と一緒に行けばよかった」
「1人で動けもしないのにバカ言ってんじゃないの。ちゃんとリハビリ受けて、動ける様にならないと退院させないわよ」
「暇だ……」
「ともかく、早く沙耶ちゃんとイチャイチャしたかったら、大人しく晃の言う事聞くのよ」
最後にそう釘を刺されて通話は終わった。
たった数日寝込んでいただけでもまともに立って歩くことが出来ないのが現状である。沙耶にあまり無様な姿は見せたくないのも確かなので、義総はため息をつくと手にしたスマホを傍らのテーブルに置いた。そして、早く治して沙耶に会いに行くんだと自分に言い聞かせてベッドに体を横たえた。
渡部は秘書からの報告に顔を綻ばせた。
「間違いないか?」
「はい。学校も休んでおりますし、病院や会長の御自宅を探っても、あれからあの娘の姿を確認出来ておりません。間違いなく会長の元から去ったようです。代わりに、御婚約者と見られる女性が毎日会長の元を訪れております」
これらの事をこの秘書が1人で調べ上げたわけでは無い。自分が調べた情報とエトワールの将来を憂いた協力者から得た情報を照らし合わせ、それを分析した結果だった。ただ、残念なのは渡した番号に連絡をくれなかったので、娘の行き先が把握できていない。今後の展開にもよるが、その居場所ぐらいは把握しておきたいところだった。
「会長にお会いできれば、すぐにこの成果をご報告出来るのだが……」
義総の容体が良くないと言う噂は彼の耳にも届いていた。残念ながら今すぐ面会できるような状況では無い。ならば、誰か近しい人物に言付けを頼みたいのだが、これはこれで渡部の頭を悩ませていた。
「一番いいのは青柳君だろうが、彼はなかなか捕まらないからな……」
実の所、渡部は青柳が苦手だった。仕事の鬼とも揶揄される彼は、仕事とは関係ない成果には関心を示さない可能性もある。
「御婚約者様では仕事の事は分からないだろうし……」
会社の事が分からなければうまく伝えて貰えない可能性がある。と、なると残る心当たりは1人だけだった。
「どうにか幸嗣様に会えないだろうか?」
「幸嗣様ですか? ですが、彼はまだわが社の関係者ではありません」
協力者の影響もあり、秘書は幸嗣に対してあまりいい心象を持っていない。まだ学生でありながら、手伝いと称してエトワールに出入りしているのも気に入らないし、苦労してエトワールに入った秘書は未来が全て約束されているような彼を妬んでもいたのだ。
「それでもだ。手筈を整えろ。私が左遷されたらお前だって降格されるんだぞ。それが嫌なら命令に従え」
「……かしこまりました」
苛立った渡部が声を荒げると、秘書は不承不承頭を下げた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
特大の雷が落ちるとはつゆ知らず、期待に胸を膨らませる渡部。
ちなみに12月中旬頃の設定。
「いや、気にするな」
青柳が義総の元へ報告に訪れたのは既に日が昇りきった頃だった。幸嗣が沙耶を連れ出してから目が冴えてしまい、それから青柳が報告に来るのをずっと待っていたのだ。
「先ずはこちらをご覧ください」
青柳はタブレット端末で渡部と彼の秘書が写っている画面を見せながら昨夜と同じ内容を彼にも説明する。義総はその間、表情を変えずずっとその説明に耳を傾けていた。
「動機は不明ですが、今の所犯人は渡部部長が濃厚です。今朝届いた情報によりますと、後任への引継ぎが滞っている他、秘書は親族の1人と接触している事が判明しました」
タブレットに映し出されたのは親族の動向を窺っていた調査員が撮った写真だった。どこかのカフェで渡部の秘書が良く知る親族と同席し、何やら深刻そうな話をしている。幸嗣に最も辛く当たってきた1人で、先日幸嗣によって不正が暴かれ、手痛いしっぺ返しを食らった1人だ。この様子だと、それでも懲りずにまた何かを企んでいるのだろう。
「接触したのは1人だけか?」
「今、判明しているのは1人です。幸嗣様は他の親族の動向も探らせておられましたが、他は先日、幸嗣様に暴露された不正の後始末で身動きが出来ない状態です」
青柳は今朝の時点で入手できた報告をタブレットに映す。どの親族も告訴を免れようと躍起になっているのが分かる。ただ1人、幸嗣に辛く当たった親族は伝手を使ってどうにかそれを免れている様だ。
「こいつにそこまで頼れる伝手は有ったか?」
「無かった筈です」
青柳は即答する。久子が存命であれば、それ相応の見返りと引き換えに不正を揉み消す事は可能だったが、彼1人では無理だろう。その違和感に2人は直感で悟る。
「まだ黒幕がいるな」
「私もその様に感じます」
幸嗣もその違和感を察したのだろう。しかし自信は無かったらしく、それらの情報を青柳に手渡しながら言葉を濁していた。
「先ずは重点的に渡部の動向を探れ。動機云々は身柄を確保してから聞き出せばいい。あの親族だけでなく他の連中にも余罪があったな?」
「はい」
「それを使え。親族共が身動き取れなくなれば、黒幕も動かざるを得ないだろう」
「では、そのように手配いたします」
沙耶を別荘へ送り届ける役目を引き受けた幸嗣は、今日一杯は身動きが取れなくなるので実際には1人で動かなければならなくなる。それでも青柳は事も無げに頭を下げた。
青柳が退出した後、美弥子から沙耶が無事に高嶺家を発ったと連絡があった。沙耶は少し寂しそうにしていたが、幸嗣から説明を受けて納得した様子だったと言う。
「聞いたと思うけど、あんたは容体が悪化した事になってるから、出しゃばらないで治療に専念してなさい」
「する事ないなら、私も沙耶と一緒に行けばよかった」
「1人で動けもしないのにバカ言ってんじゃないの。ちゃんとリハビリ受けて、動ける様にならないと退院させないわよ」
「暇だ……」
「ともかく、早く沙耶ちゃんとイチャイチャしたかったら、大人しく晃の言う事聞くのよ」
最後にそう釘を刺されて通話は終わった。
たった数日寝込んでいただけでもまともに立って歩くことが出来ないのが現状である。沙耶にあまり無様な姿は見せたくないのも確かなので、義総はため息をつくと手にしたスマホを傍らのテーブルに置いた。そして、早く治して沙耶に会いに行くんだと自分に言い聞かせてベッドに体を横たえた。
渡部は秘書からの報告に顔を綻ばせた。
「間違いないか?」
「はい。学校も休んでおりますし、病院や会長の御自宅を探っても、あれからあの娘の姿を確認出来ておりません。間違いなく会長の元から去ったようです。代わりに、御婚約者と見られる女性が毎日会長の元を訪れております」
これらの事をこの秘書が1人で調べ上げたわけでは無い。自分が調べた情報とエトワールの将来を憂いた協力者から得た情報を照らし合わせ、それを分析した結果だった。ただ、残念なのは渡した番号に連絡をくれなかったので、娘の行き先が把握できていない。今後の展開にもよるが、その居場所ぐらいは把握しておきたいところだった。
「会長にお会いできれば、すぐにこの成果をご報告出来るのだが……」
義総の容体が良くないと言う噂は彼の耳にも届いていた。残念ながら今すぐ面会できるような状況では無い。ならば、誰か近しい人物に言付けを頼みたいのだが、これはこれで渡部の頭を悩ませていた。
「一番いいのは青柳君だろうが、彼はなかなか捕まらないからな……」
実の所、渡部は青柳が苦手だった。仕事の鬼とも揶揄される彼は、仕事とは関係ない成果には関心を示さない可能性もある。
「御婚約者様では仕事の事は分からないだろうし……」
会社の事が分からなければうまく伝えて貰えない可能性がある。と、なると残る心当たりは1人だけだった。
「どうにか幸嗣様に会えないだろうか?」
「幸嗣様ですか? ですが、彼はまだわが社の関係者ではありません」
協力者の影響もあり、秘書は幸嗣に対してあまりいい心象を持っていない。まだ学生でありながら、手伝いと称してエトワールに出入りしているのも気に入らないし、苦労してエトワールに入った秘書は未来が全て約束されているような彼を妬んでもいたのだ。
「それでもだ。手筈を整えろ。私が左遷されたらお前だって降格されるんだぞ。それが嫌なら命令に従え」
「……かしこまりました」
苛立った渡部が声を荒げると、秘書は不承不承頭を下げた。
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特大の雷が落ちるとはつゆ知らず、期待に胸を膨らませる渡部。
ちなみに12月中旬頃の設定。
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