転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

文字の大きさ
1 / 242
序章:よくある展開とよくある勘違い

第1話 底辺大学生と喋る猫

しおりを挟む
「あー、あちぃ……」


 カンカンに日が照っている空を見上げていると、無意識にそんな言葉が出てきた。


 スーツのジャケットを脱いでも、ネクタイを緩めても、こんな日照りの中では何も意味を成していない。この北の大地・北海道ですら三十度以上の気温になるのに、スーツを着なければいけないなんてどんな地獄だ。


 いや、俺のような底辺大学四回生の地獄はこれからか。


 前期の上限までびっしり講義を履修して、先日十科目以上のテストとレポートの山が無事に終わったと思ったら、今度は就職活動だ。三年間勉学をサボって、この時点で卒業単位を取りきれていない自分を恨んでも恨みきれん。


 それにしてもどうしてこんなに就職活動は面倒臭いのだ。せっかく茶色に染めていた髪を黒に戻して髪を短く切り、興味もないのにセミナー行って、働きたくもないのに、履歴書を書いて、初めて会う奴らと集団討論して、特に話すことがないのにお偉いさんと面接して……考えるだけで頭が痛くなる。


 しかし、後期も講義を履修している俺にとって、しっかりと就職活動ができるのは夏休みの今だけだ。今も市内のイベントホールで行われた合同説明会の帰りである。


 リクルート鞄を持ったまま、ぐっと背伸びをする。


 会場は冷房が効いていたけれども、駅からずっと歩いていたから、背中は汗ばんでいた。今はとにかく早くシャワーを浴びたい。あとは気分転換にゲームでもしよう。エントリーシートはそれからだ。


 そんなことを考えながら、のろのろと人気のない帰路を歩く。そんな時だ。


「にゃー」


 どこからか気の抜けるような猫の声がした。


 思わず立ち止まって辺りを見回す。しかし、俺が一人で住んでいるような古いアパートが立ち並んでいるだけで、猫の姿はない。


 気のせいか、と再び歩き出す。だが、ふと前を見ると、いつの間にか猫が俺の進行方向に座っていた。


 変わった猫だった。紺色の瞳だし、毛が長いから一瞬ペルシャ猫かと思ったが、毛の色が水色だ。元々猫は詳しくないとはいえ、こんな毛色見たことがない。首輪はしていないが体は汚れていないし、毛並みもいい。猫のくせにどこか品の良さを感じるから、野良猫にも見えない。誰かの家から逃げたのだろうか。


 猫はというと、長い尻尾をゆっくりと揺らしながら俺の顔を見つめている。


 不思議な気分だった。こいつの紺色の瞳に見つめられると全てを見透かされているように思えて、なぜか緊張した。


 沈黙する空気に耐えられず、思わずごくりと唾を飲む。すると、猫がクスリと笑ったような気がした。


「貴様――世界を変えたいか?」


「……は?」


 喋った。 


 ということよりも、奴の問いのほうが意味がわからなかった。


「どういうことだよ。世界を変えたいって」


「そのままの意味だよ。貴様、どうせここじゃ退屈なのだろう?」 


 世界を変える……これを「現実逃避」と捉えていいのだろうか。


 それなら、いつでもしたい。こんなFランクの大学で内定どころか卒業できるかもわからない状態で。いざ就職しても社会にこき使われるだけで。彼女もいない。金もない。未来もない。こんなお先真っ暗な世界なんて生きにくいに決まっている。


「変えられるものなら……変えたいけど」


 と言いながらもどうせこれが俺の身の丈にあった人生であろうから、奴の言葉には何一つ期待していなかった。


 そう思っていたのに、猫はニヤリと悪っぽく笑った。


「……決まりだな」


 そのほくそ笑んだ表情を見た途端、ぞくっと悪寒が走り、胸に激痛を感じた。


「な、なんだ……これ」


 胸が痛すぎて呼吸ができない。苦しくて立ってもいられず、だが、ひざまずく力もない。頭が重たく感じて、体を起こすこともできず、気づけば俺はコンクリートの上に倒れこんでいた。


 胸の痛みは、一向に治らない。


 頭の中が、真っ白になっていく。


 そんな中、猫は横たわる俺に近づいて、俺のことを見下ろした。


「――ようこそ、こちらの世界へ」


 その言葉を最後に、俺の意識はそこで途切れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...