39 / 242
第3章 青年剣士の過日
第39話 妖しいにおいがするらしい
しおりを挟む
洗ってすすいでを繰り返し、洗濯ロープを設置して洗った衣類を干していく。
これだけでなんだかんだお昼近くまで戦っていたが、これでやっと洗濯は終わった。
部屋に戻り、昼食にアンジェが用意してくれたパンを頬張る。
次は床の掃き掃除といったところか。勿論、掃除機なんてないから、用意してくれた箒で床を掃くことになる。
ふとノアを見ると、彼は床に置かれた深皿をじっと見つめていた。こいつも腹が減ったのだろうか。
「ノア、お前も飯食うか?」
声をかけるが、反応はない。ただ、じっと深皿を見つめている。
「……何してるんだ?」
ノアの前にしゃがみ込んでみると、彼女と目が合った。
「なんでもない。ちょっと気になっただけだ」
「深皿が?」
「深皿じゃない……まあ、それも今はどうでもいいがな」
そう言ってノアはふらりと歩き出し、陽の当たっている窓の縁で縦長になって寝転がった。
「……なんだ? あいつ」
ノアの意味深な発言に首を傾げる。そんなノアの抱いた疑念だったが、俺も気づいたのは床掃除に入ってからだった。
アンジェの家は一階にリビング・ダイニング・キッチン、洗面所に浴室とトイレ、それと俺が借りている親父さんの部屋。二階に行くとアンジェと彼の妹らしき部屋がある。
そんな家の部屋中の埃を掃いて感じたのだが、この家の作りは確かに古かった。
場所によっては床が軋んだり、レンガの隙間から風が入るほどだ。家の古さはアンジェ自身も言っていたとはいえ、家に入った時はそんな古さは感じなかった。理由は、リビングの床だけ傷一つないほど真新しいからだ。
ただし、奥のキッチンまでいくと年季の入った木製の床になる。なお、他の部屋も似たような感じだ。床を張り替えるならキッチンまで伸びてもいいと思うのに――なぜリビングだけなのだろう。
一端な疑問を抱いたが、ノアに言われないと正直気づかなかった。
借りている親父さんの部屋がベッドとクローゼットくらいしか置けないほどの狭さで床の面積が小さかったことと、これまでキッチンに立つ機会がなかったからだ。
一方、ノアがいち早く違和感を抱いたのは彼女が猫だからだろう。俺たちより視界が低いから床の違いが一目でわかったのだ。
あの時、ノアが見ていたのは床に置かれていた深皿でない。床自体を見ていたのだ。
……と、探偵のように推測してみたが、どうせ真実は「これから張り替える」とか「ここだけ床が穴空いた」とか現実味溢れるパターンな気がする。
そして柄にないような思考を巡らしながら行った掃除もひと通り終わった。
「あー、疲れた」
箒を持ちながら、うんと背伸びをする。
あとは取ったゴミを捨て、裏口に箒と塵取りを置けば次のステップ・買い物に行ける。
本当はここら辺でひと休みしたいところだが、街の市場がいつまでやっているかもわからないのでさっさと買い出しをするとしよう。
アンジェが用意してくれた買い物籠に借りた財布を入れる。中には予めいただいていた金と買い物リストが書かれたメモが入っている。
「ノア~、出かけるぞー」
彼女が日向ぼっこしているはずの窓の縁に顔を向ける。
だが、先程までそこで寝ていたのに、ノアの姿がなかった。
ノアを探すように部屋を見回してみると、彼女は出入り口の前にちょこんと座って扉と床を凝視していた。
「そこがどうかしたか?」
声をかけると、ノアの耳がピクリと反応する。しかし視線は下がったままでそこから動こうとしない。
「まあ、確かにリビングだけ床が新しいのは不思議だけどよ……そこまでのことか?」
ノアと同じ視線になるように彼の後ろでしゃがんでみる。
すると、床だけでなく扉の縁も新しくなっていることに気づいた。そして扉の近くのレンガがごく一部だが黒くなっている。煤だろうか。
この光景に小首を傾げると、隣でノアがニヤリと笑った。
「この家、なんか臭わないか?」
「臭うって……なんの臭いだ?」
「さあ? 血か、御霊か……それとも両方か」
「何っ⁉︎」
意味深な発言に思わず退いた。
「血」か「御霊か」とは、詰まるところ霊的な何かと言いたいのだろうか。
「そ、それはつまり……そこに何かいるってことか?」
平常心を保っているつもりが無意識に声が上擦った。
これだけでなんだかんだお昼近くまで戦っていたが、これでやっと洗濯は終わった。
部屋に戻り、昼食にアンジェが用意してくれたパンを頬張る。
次は床の掃き掃除といったところか。勿論、掃除機なんてないから、用意してくれた箒で床を掃くことになる。
ふとノアを見ると、彼は床に置かれた深皿をじっと見つめていた。こいつも腹が減ったのだろうか。
「ノア、お前も飯食うか?」
声をかけるが、反応はない。ただ、じっと深皿を見つめている。
「……何してるんだ?」
ノアの前にしゃがみ込んでみると、彼女と目が合った。
「なんでもない。ちょっと気になっただけだ」
「深皿が?」
「深皿じゃない……まあ、それも今はどうでもいいがな」
そう言ってノアはふらりと歩き出し、陽の当たっている窓の縁で縦長になって寝転がった。
「……なんだ? あいつ」
ノアの意味深な発言に首を傾げる。そんなノアの抱いた疑念だったが、俺も気づいたのは床掃除に入ってからだった。
アンジェの家は一階にリビング・ダイニング・キッチン、洗面所に浴室とトイレ、それと俺が借りている親父さんの部屋。二階に行くとアンジェと彼の妹らしき部屋がある。
そんな家の部屋中の埃を掃いて感じたのだが、この家の作りは確かに古かった。
場所によっては床が軋んだり、レンガの隙間から風が入るほどだ。家の古さはアンジェ自身も言っていたとはいえ、家に入った時はそんな古さは感じなかった。理由は、リビングの床だけ傷一つないほど真新しいからだ。
ただし、奥のキッチンまでいくと年季の入った木製の床になる。なお、他の部屋も似たような感じだ。床を張り替えるならキッチンまで伸びてもいいと思うのに――なぜリビングだけなのだろう。
一端な疑問を抱いたが、ノアに言われないと正直気づかなかった。
借りている親父さんの部屋がベッドとクローゼットくらいしか置けないほどの狭さで床の面積が小さかったことと、これまでキッチンに立つ機会がなかったからだ。
一方、ノアがいち早く違和感を抱いたのは彼女が猫だからだろう。俺たちより視界が低いから床の違いが一目でわかったのだ。
あの時、ノアが見ていたのは床に置かれていた深皿でない。床自体を見ていたのだ。
……と、探偵のように推測してみたが、どうせ真実は「これから張り替える」とか「ここだけ床が穴空いた」とか現実味溢れるパターンな気がする。
そして柄にないような思考を巡らしながら行った掃除もひと通り終わった。
「あー、疲れた」
箒を持ちながら、うんと背伸びをする。
あとは取ったゴミを捨て、裏口に箒と塵取りを置けば次のステップ・買い物に行ける。
本当はここら辺でひと休みしたいところだが、街の市場がいつまでやっているかもわからないのでさっさと買い出しをするとしよう。
アンジェが用意してくれた買い物籠に借りた財布を入れる。中には予めいただいていた金と買い物リストが書かれたメモが入っている。
「ノア~、出かけるぞー」
彼女が日向ぼっこしているはずの窓の縁に顔を向ける。
だが、先程までそこで寝ていたのに、ノアの姿がなかった。
ノアを探すように部屋を見回してみると、彼女は出入り口の前にちょこんと座って扉と床を凝視していた。
「そこがどうかしたか?」
声をかけると、ノアの耳がピクリと反応する。しかし視線は下がったままでそこから動こうとしない。
「まあ、確かにリビングだけ床が新しいのは不思議だけどよ……そこまでのことか?」
ノアと同じ視線になるように彼の後ろでしゃがんでみる。
すると、床だけでなく扉の縁も新しくなっていることに気づいた。そして扉の近くのレンガがごく一部だが黒くなっている。煤だろうか。
この光景に小首を傾げると、隣でノアがニヤリと笑った。
「この家、なんか臭わないか?」
「臭うって……なんの臭いだ?」
「さあ? 血か、御霊か……それとも両方か」
「何っ⁉︎」
意味深な発言に思わず退いた。
「血」か「御霊か」とは、詰まるところ霊的な何かと言いたいのだろうか。
「そ、それはつまり……そこに何かいるってことか?」
平常心を保っているつもりが無意識に声が上擦った。
10
あなたにおすすめの小説
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる