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第4章 ギルド、崩壊
第65話 足癖が悪いのは初戦から
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だが、どんなに走っても奴との数十メートルの距離が埋められなかった。
このままでは奴を取り逃がしてしまう――
どうにかして逆転しないと。
走りながら必死に距離を詰める方法はないか考える。しかし、ショートカットできるような場所もないし、スピードもこれ以上あげられない。
何か、何かないか。
そう思ったその時、俺の目の前にあるものが飛び込んできた。
「悪い! これ借りる!」
言葉にする前から体は動いていた。
俺が見つけたのは子供たちが蹴って遊んでいたボールだった。革で作られているのか茶色くて現実世界のボールより硬い。それでもあいつの足を止めるにはこれがちょうどいい。
「あ!」
子供たちが驚いた声をあげた時にはボールはもう俺の足元にあった。
軽くボールを蹴り、駆ける男に狙いを定める。
外したら終わりだとか、ブランクがどうとか考える暇はなかった。一瞬の迷いもなく、俺はボールを思い切り蹴り上げた。
蹴った途端、足の甲に痛みが走る。力の加減もなく、硬いものを蹴ったからだ。しかし、ボールは俺の狙い通り男のほうまで一直線に飛んでいく。
俺の足音が遠くなったことに気づいた男がハッと振り返ると、ボールは奴の目の前に来ていた。このスピードと間合いでは男も避けることができず、そのまま脳天に当たり地面に転がる。作戦通りだ。しかし、ここで安堵するのはまだ早い。
頭を抱えてうずくまる男のところまで走り、逃げ出さないように馬乗りになる。だが、その時は俺も肩で息をしており、奴の体を押さえて動きを止めるので精いっぱいだった。
「はぁ……はぁ……手間かけさせるんじゃねえぞ……」
男を見下ろして睨みつけるが、優位体制なのに息が絶え絶えのせいでまったく威厳はなかった。一方、男は圧倒的に不利であるのに、息を乱すことなく、体を揺らして笑っている。
「いやー、ビビった。まさかあんなものが飛んでくるとは思わんかったわ」
にやりと男が笑う。ブランクがあるとはいえ、身体能力が上がっている状態で蹴ったボールが頭に直撃したのだ。脳震盪を起こしてもいいくらいのはずなのに、こいつはケロッとしている。先ほど転んだのもボールのダメージではなく、バランスを崩して転んだだけというのか。
「お前……なんのためにこんなことを……」
男の余裕の表情にイラつき、無意識に腕に力が籠る。それでも男は顔色一つ変えることなく、鼻で笑った。
「なんのためって……あの人の命令だよ」
そう言って男は俺に首元が見えるようにひょいっと頭部を傾げる。すると、フードに隠れた男の鎖骨が露わになった。
わざとらしく見せてきたそれに、俺は言葉を失った。
それは男の鎖骨から肩にかけて刺青のように刻まれていた――真っ赤に咲いた花のような、魔王の紋章が。
「お前が、魔王の配下だって言うのか?」
ギリッと歯を食いしばるが、男は相変わらず飄々としていた。
「そういうこと」
からかうように「べー」と舌を出す男が憎い。しかし、これ以上手が出なかった。確かに先ほどまで「ぶっ飛ばしてやりたい」と思っていた。しかしその一手がなかなか出せない。
ためらうには理由があった。魔王の配下は全員魔物だと思っていたからだ。だが、こいつはどう見ても普通の人間だ。意味がわからない。人間も魔王の配下になれるのというのか?
ならば、俺たちの敵って――……
その気持ちの迷いは不覚にも男にも伝わっていた。
「あーあ……お前、とんだ甘ちゃんだな」
男は二の足を踏んでいる俺に「ククッ」と肩を揺らして笑う。
「敵だと判断したらすぐに殺せよ。でないと――お前が死ぬぜ」
一瞬、男の声色が変わった。男の眼差しが鋭くなり、眼光が消える。その時、背中からぞくりと悪寒が走った。それこそが、男の殺意だった。
このままでは奴を取り逃がしてしまう――
どうにかして逆転しないと。
走りながら必死に距離を詰める方法はないか考える。しかし、ショートカットできるような場所もないし、スピードもこれ以上あげられない。
何か、何かないか。
そう思ったその時、俺の目の前にあるものが飛び込んできた。
「悪い! これ借りる!」
言葉にする前から体は動いていた。
俺が見つけたのは子供たちが蹴って遊んでいたボールだった。革で作られているのか茶色くて現実世界のボールより硬い。それでもあいつの足を止めるにはこれがちょうどいい。
「あ!」
子供たちが驚いた声をあげた時にはボールはもう俺の足元にあった。
軽くボールを蹴り、駆ける男に狙いを定める。
外したら終わりだとか、ブランクがどうとか考える暇はなかった。一瞬の迷いもなく、俺はボールを思い切り蹴り上げた。
蹴った途端、足の甲に痛みが走る。力の加減もなく、硬いものを蹴ったからだ。しかし、ボールは俺の狙い通り男のほうまで一直線に飛んでいく。
俺の足音が遠くなったことに気づいた男がハッと振り返ると、ボールは奴の目の前に来ていた。このスピードと間合いでは男も避けることができず、そのまま脳天に当たり地面に転がる。作戦通りだ。しかし、ここで安堵するのはまだ早い。
頭を抱えてうずくまる男のところまで走り、逃げ出さないように馬乗りになる。だが、その時は俺も肩で息をしており、奴の体を押さえて動きを止めるので精いっぱいだった。
「はぁ……はぁ……手間かけさせるんじゃねえぞ……」
男を見下ろして睨みつけるが、優位体制なのに息が絶え絶えのせいでまったく威厳はなかった。一方、男は圧倒的に不利であるのに、息を乱すことなく、体を揺らして笑っている。
「いやー、ビビった。まさかあんなものが飛んでくるとは思わんかったわ」
にやりと男が笑う。ブランクがあるとはいえ、身体能力が上がっている状態で蹴ったボールが頭に直撃したのだ。脳震盪を起こしてもいいくらいのはずなのに、こいつはケロッとしている。先ほど転んだのもボールのダメージではなく、バランスを崩して転んだだけというのか。
「お前……なんのためにこんなことを……」
男の余裕の表情にイラつき、無意識に腕に力が籠る。それでも男は顔色一つ変えることなく、鼻で笑った。
「なんのためって……あの人の命令だよ」
そう言って男は俺に首元が見えるようにひょいっと頭部を傾げる。すると、フードに隠れた男の鎖骨が露わになった。
わざとらしく見せてきたそれに、俺は言葉を失った。
それは男の鎖骨から肩にかけて刺青のように刻まれていた――真っ赤に咲いた花のような、魔王の紋章が。
「お前が、魔王の配下だって言うのか?」
ギリッと歯を食いしばるが、男は相変わらず飄々としていた。
「そういうこと」
からかうように「べー」と舌を出す男が憎い。しかし、これ以上手が出なかった。確かに先ほどまで「ぶっ飛ばしてやりたい」と思っていた。しかしその一手がなかなか出せない。
ためらうには理由があった。魔王の配下は全員魔物だと思っていたからだ。だが、こいつはどう見ても普通の人間だ。意味がわからない。人間も魔王の配下になれるのというのか?
ならば、俺たちの敵って――……
その気持ちの迷いは不覚にも男にも伝わっていた。
「あーあ……お前、とんだ甘ちゃんだな」
男は二の足を踏んでいる俺に「ククッ」と肩を揺らして笑う。
「敵だと判断したらすぐに殺せよ。でないと――お前が死ぬぜ」
一瞬、男の声色が変わった。男の眼差しが鋭くなり、眼光が消える。その時、背中からぞくりと悪寒が走った。それこそが、男の殺意だった。
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