転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

文字の大きさ
77 / 242
第5章 『死の森』へ

第77話 到着、『ザラクの森』

しおりを挟む
「お、終わった……」

 この辛勝に俺は崩れるようにひざまずいた。その隣でアンジェも剣を支えに座り込む。

「大丈夫かお前ら」

 フーリが心配そうに見つめるが、疲れただけで怪我はしていない。あれだけ矢を打たれて一本も当たらなかったのは奇跡と言えよう。

「お疲れ、アンジェ……」

「ムギちゃんもナイスファイト。でも、思ったより手こずっちゃったわね……」

 額の汗を手で拭いながら、アンジェは苦笑する。怪我はしなかったとはいえ、この苦戦具合は情けない。まだ『ザラクの森』にもたどり着いていないのに、こんな調子では先が思いやられる。

 けれども、この戦いも何も悪いことばかりではなかった。

 ふと先を見ると、馬車の進行方向から生い茂った針葉樹が覗いていた。

「今のでめちゃくちゃスピードを上げたからな……予定よりだいぶ早まってるぜ」

 低いトーンでフーリが呟く。

 こんなに爽やかで過ごしやすい気候なのに、あの森の辺りだけ霧がかり、不吉な雰囲気を放っている。説明がなくてもわかる。あれが『ザラクの森』だろう。

 いざダンジョンを目の当たりにすると、途端に緊張してきた。それはアンジェも同じ気持ちのようで彼の表情も強張っている。

 それでもセントリーヌの歩みは止まらない。そこから二十分くらい馬車を走らせると、ついに森の入り口までたどり着いた。

 昼間なのに霧のせいでこの森の中だけ数十メートル先も見えないくらい薄暗かった。遠くでも感じていた奇怪な空気感だったが、ここまで近づくと別世界のようだ。「死霊の森」と呼ばれるだけはある。

 あまりの禍々しさに絶句していると、先にアンジェが馬車から飛び降りた。

「ありがとフーリ。ちゃんと戻れそう?」

「まあな。けど多分移動魔法使ったらそれで魔力切れるだろうよ。帰ったら集会所の復興作業をしようかと思ったけど……それは他の連中に任せることにするわ」

 二人がそんな会話をしている間に、俺も意を決して馬車から降りる。

「フーリのおかげで助かったよ。セントリーヌもありがとな」

 礼を言いながらセントリーヌの額を撫でると、彼女も嬉しそうに「ブルッ……」と喉を震わせた。

 そんな俺たちを見て、フーリがふうっと息をつく。

「あとはお前らがセリナを助けてくれれば万事解決だな」

「フフッ……上手く行くことを祈ってて」

「ああ……でも、俺は信じてる。頼んだぜ、勇者さんたち」

 そう言ってフーリはニッと口角を上げる。だが、その表情からは疲労が見えており、彼の体力に限界が近づいていることが伝わってしまった。

「……無理しないで。あなたも戻ったらゆっくり休んでちょうだい」

 優しいアンジェの言葉に、フーリは「そうするわ」と力なく笑う。

「じゃーなお前ら。死ぬんじゃねえぞ」

 最後にそう言葉を残したフーリは、残された魔力で風の渦を出し、そのまま馬車諸共消えた。

 フーリが残した風が俺とアンジェの髪を静かに靡かせる。

 その後ろでは鳥の魔物が鳴き声をあげてバサバサと森から羽ばたいていた。

 恐る恐る振り返った先の看板にはしっかりと『ザラクの森』と書かれている。しかし、その看板もボロボロで、余計に不気味さを引き立ていた。だが、もう後には退けない。

「大丈夫? 足震えてるわよ?」

「む、武者震いだよ……」

 強がってみるが、この震えが武者震いではないことは自分が一番よくわかっていた。

 そんな俺を見て、アンジェは「そう」と言いながらもおかしそうに笑う。だが、その笑みも彼が森に顔を向けた時には消えていた。

「……行きましょう。セリちゃんが待ってるわ」

「ああ……」

 己を奮い立てながら、俺とアンジェはついに森の中へと足を踏み入れる。

 そんな俺たちの背中を押すように、冷たい風はそっと森の奥へと流れて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...