転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第10話 貿易の街『カトミア』

第144話 探索と観光は紙一重

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「でも、なんで魔王の配下であるパルスが自分を討伐するようなクエストを出したんだ?」

 浮かび上がる素朴な疑問に小首を傾げていると、フーリが「うーん」と唸りながら仮説を立てた。

「……街に傭兵を雇う口実を作りたかった、とか」

「それはあり得るわね。魔王の配下から街を守るなんて一番の理由だもの。ギルドを通しているという事実もあるから、雇われるほうもはったりだなんて思わないものね」

「まさか市長が化けているなんて考えもつかないだろうしな。それに、市長なら業者が下水道に出入りするスケジュールだってわかっているはずだ」

 傍から聞いても彼の推理は筋が通っている気がした。

 ただし、フーリの言うそのスケジュールは業者がいつ下水道に出入りするかではない。いつまでリチャード市長の遺体を隠せるか、というものだった訳だ。遺体が発見されたということは、もうリチャード市長も用なしということなのだろう。

「よく考えれば魔王の配下の討伐に対しては内容が漠然としているし、依頼期間も異様に短いのよね。もっと怪しむべきだったわ」

 苦笑いを浮かべながら、アンジェはくしゃっと依頼書を潰す。あの化け猫眼鏡野郎、随分と用意周到な奴だ。眼鏡は伊達じゃないらしい。

 ここまで推理できても、わからないことはまだあった。奴の目的だ。

「どうしてそこまで街を守りに固める理由があったのかしらね」

 三人で腕を組んで考えてみるが、すっかり行き詰ってしまった。それに、リチャード市長が亡くなってしまってはいなくなった神官たちの情報源もない。

「……どちらにせよ、情報収集だな。」

 頭を掻きながらフーリはため息をつく。それは俺もアンジェも同感で、二人一緒に深く頷いた。俺は、俺たちは、この街のことを知らなさすぎる。

「そうとなれば、さっそく行動開始だ。おい、リオン。戻ってこい」

 フーリに手招きされたリオンは小首を傾げながらこちらへ戻ってくる。

「フーリ君、なあに?」

「お前、場所のピン留めできるよな? ちょっと手伝ってほしいんだ」

「ピン留め?」

 変わった表現につい突っかかると、隣でアンジェが「ああ、そうよ」と何か合点した。

「うっかりしてたわ。リオちゃんがいるんだからもうウィンド・コア・ピンいらないじゃない」

 ニコニコ笑うアンジェに「できるよ」と当然のごとく頷くリオン。周りで何か納得しているようだが、俺だけ着いていけてない。

「おい、解説しろよ案内人」

 小声でノアに言うと、ノアは面倒臭そうにしながらもポンッと俺の頭に乗った。

「風の魔法でワープできる場所を設定することをウィンド・コア・ピンにかけて『ピン留め』って呼んでいるのだ。フーリもリオンも魔法が風属性だからあいつらはウィンド・コア・ピンがなくても瞬間移動できるということだな」

「は~、便利なもんだ」

 ノアの解説に思わず感心する。その間にフーリとリオンはピン留めしているようで二人してくうに手をかざしていた。

「……よし。準備OKだ。二手に分かれて情報集めるぞ」

 一息つく間もなく、フーリは俺たちに指示をする。そんな気合い十分な彼の様子にアンジェは意外そうだった。

「もしかして、フーリってば手伝ってくれるの?」

「当たり前だろ。というか、このままじゃ俺も気になっておちおち『オルヴィルカ』に帰れねえ」

 ギルドの復興も終わったし、お使い自体は急ぎでもないという。だから一泊くらいは猶予があるらしい。それに、せっかく便利な風属性魔法を使える者が二人もいるのだ。ここで使わない手はないとフーリは言う。

「それに、俺とお前なら親父の伝手があるだろ?」

「まあ……あなたほどはないけれど、なくはないわよ」

 親父の伝手……そこで思い出したのはフーリの家が商人だということだ。

 商人だということはこの貿易の街では顔が広いはず。【農家ファーマー】のアンジェの親父さんだってそうだ。ひょっとしたら彼の野菜たちもこの街に出荷されていたかもしれない。直接的ではないとはいえ、この街に顔見知りがいるのは心強い。

 組み合わせは必然的にフーリと俺、アンジェとリオンになる。といっても、俺はこの街のことを何も知らないから今はフーリに甘えたほうが良さそうだ。
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