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第10話 貿易の街『カトミア』
第151話 灯台モトグラシー
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「……誰か来るな」
「こんな時間に?」
ノアが灯台の方向を見つめながらスッと姿勢を正す。
彼の言う通り、向こう側から黒くて小さな人影が見えた。
その影はランプを持っており、遠くからでもゆらゆらと火が揺れているのがわかった。
人影がどんどん近づく。あの腰が曲がった小柄なシルエットは――アイーダのばあさんだ。
「おや、起きていたのかい?」
アイーダのばあさんは俺を見て一瞬意外そうな顔をしたが、名前が出てこないのか首を傾げた。
「ムギトだ。ついでにこっちはノア」
「そうそう、ムギト君だ。それで、こんなところでどうしたんだい?」
「眠れなくて夜風に当たりに来た。ばあさんこそどうしたんだ?」
「わしは息子たちに夜食を届けてたんだ」
「こんな時間に夜食……大変だな」
そういえば、灯台守は住み込みで働いているのだった。
こんな時間まで働いているなら腹も空くだろう。差し入れするほうもご苦労なことだ。
だが、アイーダのばあさんは「そんなことないよ」と目を細めて首を振った。
「前と比べたら今なんてとても楽さ。住み込みとはいえ、うちからも近いし、何よりあの灯台も新しくて綺麗だしねえ」
「あー、そういえば灯台が新しくなったって言っていたな」
「そうなのよ。前なんて向こうの岬のほうにあったから通うのが大変でね。でも、こんな老いぼれでも通えるようにってリチャード様がうちの近くに建ててくださったんだ。おかげですぐに息子や孫の手伝いをできるようになったんだよ」
しみじみとしながらアイーダのばあさんは灯台の光を見つめる。
きっと亡くなったリチャード市長のことを思い出しているのだろう。一市民でも暮らしやすいように気をまわす辺り人望は厚かったのかもしれない。
アイーダのばあさんと一緒に灯台の光を見つめていると、岬のほうにある高い塔が光に照らされた。
あれがばあさんの言う昔の灯台か。あんな街から離れたところまで通うには確かに骨が折れる。
「あんなところ、どうやって行ってたんだ?」
「晴れた時は小舟で近くまで行っていたけど、嵐の時は地下水路を通って行くか、街を出てぐるっと回って行っていたねえ」
「風の魔法が使えたら楽だったんじゃが」と彼女は続ける。想像するだけで面倒臭そうだ。
それに比べて今は街の中に灯台がある。リチャード市長に感謝する訳だ。
「本当、二ヶ月前のことが嘘のことのようだよ」
「あ、意外とそんな最近の話なんだな」
それでもあの新しい灯台は【大工】の人たちが一週間もしないうちに建てたらしい。魔法の力ってすげー。
……あ?
暗闇に佇む旧灯台に目を向ける。
街の郊外にある灯台。下水道に捨てられたうえに腐敗したリチャード市長の遺体。街に集まる冒険者たち。それと、二ヶ月前に新築された灯台――……。バラバラだったピースが脳内でパズルのように組み立てられていくのを感じた。
わかった――いや、気づいてしまった。パルスの意図と、ついでに奴の在り処も。
「……サンキュー、ばあさん。おかげでわかったぜ」
突然礼を言う俺に話の脈絡が読めないアイーダのばあさんはぽかんとしていた。
ノアも理解していないようで訝しい顔をしている。
二人がそんなリアクションになるのも無理はない。いや、おそらくフーリやアンジェでもわからなかったかもしれない。
といっても、これは俺の直感で、まだ確証はない。ただの推測……だが、行くだけの価値はあるはずだ。
「……明日が楽しみだな、ノア」
にやりと口角を上げながらノアに顔を向ける。
しかし、不敵な笑みを浮かべる俺とは裏腹に、ノアは顔をしかめたまま首を捻った。
「こんな時間に?」
ノアが灯台の方向を見つめながらスッと姿勢を正す。
彼の言う通り、向こう側から黒くて小さな人影が見えた。
その影はランプを持っており、遠くからでもゆらゆらと火が揺れているのがわかった。
人影がどんどん近づく。あの腰が曲がった小柄なシルエットは――アイーダのばあさんだ。
「おや、起きていたのかい?」
アイーダのばあさんは俺を見て一瞬意外そうな顔をしたが、名前が出てこないのか首を傾げた。
「ムギトだ。ついでにこっちはノア」
「そうそう、ムギト君だ。それで、こんなところでどうしたんだい?」
「眠れなくて夜風に当たりに来た。ばあさんこそどうしたんだ?」
「わしは息子たちに夜食を届けてたんだ」
「こんな時間に夜食……大変だな」
そういえば、灯台守は住み込みで働いているのだった。
こんな時間まで働いているなら腹も空くだろう。差し入れするほうもご苦労なことだ。
だが、アイーダのばあさんは「そんなことないよ」と目を細めて首を振った。
「前と比べたら今なんてとても楽さ。住み込みとはいえ、うちからも近いし、何よりあの灯台も新しくて綺麗だしねえ」
「あー、そういえば灯台が新しくなったって言っていたな」
「そうなのよ。前なんて向こうの岬のほうにあったから通うのが大変でね。でも、こんな老いぼれでも通えるようにってリチャード様がうちの近くに建ててくださったんだ。おかげですぐに息子や孫の手伝いをできるようになったんだよ」
しみじみとしながらアイーダのばあさんは灯台の光を見つめる。
きっと亡くなったリチャード市長のことを思い出しているのだろう。一市民でも暮らしやすいように気をまわす辺り人望は厚かったのかもしれない。
アイーダのばあさんと一緒に灯台の光を見つめていると、岬のほうにある高い塔が光に照らされた。
あれがばあさんの言う昔の灯台か。あんな街から離れたところまで通うには確かに骨が折れる。
「あんなところ、どうやって行ってたんだ?」
「晴れた時は小舟で近くまで行っていたけど、嵐の時は地下水路を通って行くか、街を出てぐるっと回って行っていたねえ」
「風の魔法が使えたら楽だったんじゃが」と彼女は続ける。想像するだけで面倒臭そうだ。
それに比べて今は街の中に灯台がある。リチャード市長に感謝する訳だ。
「本当、二ヶ月前のことが嘘のことのようだよ」
「あ、意外とそんな最近の話なんだな」
それでもあの新しい灯台は【大工】の人たちが一週間もしないうちに建てたらしい。魔法の力ってすげー。
……あ?
暗闇に佇む旧灯台に目を向ける。
街の郊外にある灯台。下水道に捨てられたうえに腐敗したリチャード市長の遺体。街に集まる冒険者たち。それと、二ヶ月前に新築された灯台――……。バラバラだったピースが脳内でパズルのように組み立てられていくのを感じた。
わかった――いや、気づいてしまった。パルスの意図と、ついでに奴の在り処も。
「……サンキュー、ばあさん。おかげでわかったぜ」
突然礼を言う俺に話の脈絡が読めないアイーダのばあさんはぽかんとしていた。
ノアも理解していないようで訝しい顔をしている。
二人がそんなリアクションになるのも無理はない。いや、おそらくフーリやアンジェでもわからなかったかもしれない。
といっても、これは俺の直感で、まだ確証はない。ただの推測……だが、行くだけの価値はあるはずだ。
「……明日が楽しみだな、ノア」
にやりと口角を上げながらノアに顔を向ける。
しかし、不敵な笑みを浮かべる俺とは裏腹に、ノアは顔をしかめたまま首を捻った。
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