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第13章 神と魔王が動き出す
第176話 緑風の重圧
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◆ ◆ ◆
「──さん」
誰かが俺を呼んでいる。この声は、セリナか?
「ムギト!」
今度ははっきりと聞こえた。これは、フーリだ。
「ムギちゃん!」
アンジェの焦り声も聞こえる。ああ、起きないと。起きないと。
「ん……」
重たいまぶたをゆっくりと開ける。数人が俺の顔を覗き込んでいることはぼんやりした視界でもわかった。
「おお、起きたか!」
ミドリーさんが安堵したように笑う。見回してみると、セリナやフーリも俺のことを見守ってくれていた。本当に、俺は生き返ったらしい。
体を起こしあがると、いきなりリオンが俺に飛びついた。
「う、うわあああん!」
リオンが俺の胸の中で大号泣している。こんなに声をあげてまで泣くリオンを見たことがあるだろうか。
「リ、リオン……?」
「ムギト君……よかった……本当によかった……」
嗚咽をもたらすほど泣いていたリオンだったが、そうしているうちに糸が切れたように眠りについた。しかし、リオンは寝てもなお俺から手を離さなかった。
ふと顔を上げたところで、今度は「バチンッ!」と痛々しい音が辺りに響き渡った。アンジェの平手打ちが俺の頬に飛んだのだ。
「あなた……自分が何をしたのかわかってる?」
アンジェの声がいつにも増して刺々しい。その様子に周りすら戸惑っていることが痛いくらい伝わる。だが、彼の言うことに間違いはない。飛び込んできた光景を見て、そう思わざるを得なかった。
「……なんだこれ」
『オルヴィルカ』の広場が氷漬けになっている。中央にあった噴水も、商人たちのテントも、氷柱ができているくらい凍っている。しかし、凍っているのは広場だけでない。市民を襲おうとしていた魔物たちも氷漬けにされていた。
「ま、街の人は!?」
「安心しなさい。みんな無事だ。その魔法は、人間には効かないみたいだよ」
ミドリーさんの言葉にホッと胸を撫で下ろす。けれども、アンジェの怒りはまだ治まっていなかった。
「あなた……リオちゃんの蘇生魔法に甘えて、全部あの子に丸投げしたでしょう」
心臓がドキッと高鳴った。その通りだ。確かに俺はこの魔法にかけた。いや、かけたのはリオンだ。こいつなら、俺が死んでもすぐに蘇生してもらえると思ったから。けれどもそれは間違いだった。
「ムギト……あなた、リオちゃんのプレッシャーについて考えた? 万が一蘇生できなかった時のあの子の気持ちをわかっていた? あなたの無謀な行動が、あの子に一生物の傷をつけるところだったのよ!」
アンジェの声が震えている。しかし、正論すぎて何も言えない。俺が起きなかったら、責任はリオンにも降りかかる。こんな俺の胸の中で眠るリオンに。そんなの、泣くに決まっているのだ。
「ごめん……アンジェ……」
「謝るなら、リオちゃんに謝りなさい」
ピシャリと言い放ったアンジェは、俺に背を向けて深く息を吐いた。そんな怒る彼ですら服の袖で涙を拭いたので、俺は何も言えなくなった。
重苦しい沈黙が流れる。しかし、その沈黙をやぶったのは、意外にもオズモンドさんだった。
「……話がついたのなら、こちらの話も聞いてもらおうか」
オズモンドさんが神妙な顔で俺を見下ろしている。この緊迫した空気に、その場にいた誰もが息を呑んだ。
「話って、なんすか?」
おそるおそる聞くと、オズモンドさんは深く息を吐いた。
「単刀直入に聞く。ムギト、お主は何者だ?」
「何者と……言われましても」
口ごもる俺にオズモンドさんの目が鋭くなる。
「お主のクラスは?」
「わ、わかんないっす」
「わからない?」
オズモンドさんが顔をしかめる。それを見たアンジェは慌てた様子で俺のフォローに回ってくれた。
「オズモンド様、ムギちゃんは記憶喪失なんです」
「ほう……その割には、先ほどの青年をすぐに『弟』だと言っておったが?」
「そ、それは……きっと記憶も断片的なんだと……」
痛いところを突かれ、アンジェの声量がなくなっていく。それを見てオズモンドさんも「もう良い」と小さく首を振った。
「答えられぬなら、お主自身に答えてもらうだけだ」
オズモンドさんがゆっくりとした足取りで近づいてくる。ぞわっと胸騒ぎがしたから逃げようかと思ったが、それは眠りながら抱き着いているリオンに拒まれた。
俺の正面に立ったオズモンドさんは、その大きな手でグッと俺の頭を掴んだ。これは以前にもやられたことがある。マジックパワーを探られているのだ。
「──さん」
誰かが俺を呼んでいる。この声は、セリナか?
「ムギト!」
今度ははっきりと聞こえた。これは、フーリだ。
「ムギちゃん!」
アンジェの焦り声も聞こえる。ああ、起きないと。起きないと。
「ん……」
重たいまぶたをゆっくりと開ける。数人が俺の顔を覗き込んでいることはぼんやりした視界でもわかった。
「おお、起きたか!」
ミドリーさんが安堵したように笑う。見回してみると、セリナやフーリも俺のことを見守ってくれていた。本当に、俺は生き返ったらしい。
体を起こしあがると、いきなりリオンが俺に飛びついた。
「う、うわあああん!」
リオンが俺の胸の中で大号泣している。こんなに声をあげてまで泣くリオンを見たことがあるだろうか。
「リ、リオン……?」
「ムギト君……よかった……本当によかった……」
嗚咽をもたらすほど泣いていたリオンだったが、そうしているうちに糸が切れたように眠りについた。しかし、リオンは寝てもなお俺から手を離さなかった。
ふと顔を上げたところで、今度は「バチンッ!」と痛々しい音が辺りに響き渡った。アンジェの平手打ちが俺の頬に飛んだのだ。
「あなた……自分が何をしたのかわかってる?」
アンジェの声がいつにも増して刺々しい。その様子に周りすら戸惑っていることが痛いくらい伝わる。だが、彼の言うことに間違いはない。飛び込んできた光景を見て、そう思わざるを得なかった。
「……なんだこれ」
『オルヴィルカ』の広場が氷漬けになっている。中央にあった噴水も、商人たちのテントも、氷柱ができているくらい凍っている。しかし、凍っているのは広場だけでない。市民を襲おうとしていた魔物たちも氷漬けにされていた。
「ま、街の人は!?」
「安心しなさい。みんな無事だ。その魔法は、人間には効かないみたいだよ」
ミドリーさんの言葉にホッと胸を撫で下ろす。けれども、アンジェの怒りはまだ治まっていなかった。
「あなた……リオちゃんの蘇生魔法に甘えて、全部あの子に丸投げしたでしょう」
心臓がドキッと高鳴った。その通りだ。確かに俺はこの魔法にかけた。いや、かけたのはリオンだ。こいつなら、俺が死んでもすぐに蘇生してもらえると思ったから。けれどもそれは間違いだった。
「ムギト……あなた、リオちゃんのプレッシャーについて考えた? 万が一蘇生できなかった時のあの子の気持ちをわかっていた? あなたの無謀な行動が、あの子に一生物の傷をつけるところだったのよ!」
アンジェの声が震えている。しかし、正論すぎて何も言えない。俺が起きなかったら、責任はリオンにも降りかかる。こんな俺の胸の中で眠るリオンに。そんなの、泣くに決まっているのだ。
「ごめん……アンジェ……」
「謝るなら、リオちゃんに謝りなさい」
ピシャリと言い放ったアンジェは、俺に背を向けて深く息を吐いた。そんな怒る彼ですら服の袖で涙を拭いたので、俺は何も言えなくなった。
重苦しい沈黙が流れる。しかし、その沈黙をやぶったのは、意外にもオズモンドさんだった。
「……話がついたのなら、こちらの話も聞いてもらおうか」
オズモンドさんが神妙な顔で俺を見下ろしている。この緊迫した空気に、その場にいた誰もが息を呑んだ。
「話って、なんすか?」
おそるおそる聞くと、オズモンドさんは深く息を吐いた。
「単刀直入に聞く。ムギト、お主は何者だ?」
「何者と……言われましても」
口ごもる俺にオズモンドさんの目が鋭くなる。
「お主のクラスは?」
「わ、わかんないっす」
「わからない?」
オズモンドさんが顔をしかめる。それを見たアンジェは慌てた様子で俺のフォローに回ってくれた。
「オズモンド様、ムギちゃんは記憶喪失なんです」
「ほう……その割には、先ほどの青年をすぐに『弟』だと言っておったが?」
「そ、それは……きっと記憶も断片的なんだと……」
痛いところを突かれ、アンジェの声量がなくなっていく。それを見てオズモンドさんも「もう良い」と小さく首を振った。
「答えられぬなら、お主自身に答えてもらうだけだ」
オズモンドさんがゆっくりとした足取りで近づいてくる。ぞわっと胸騒ぎがしたから逃げようかと思ったが、それは眠りながら抱き着いているリオンに拒まれた。
俺の正面に立ったオズモンドさんは、その大きな手でグッと俺の頭を掴んだ。これは以前にもやられたことがある。マジックパワーを探られているのだ。
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