転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第13章 神と魔王が動き出す

第178話 最後の晩餐

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 ふと、顔を上げると絶句したアンジェと目が合った。

 その隣のフーリも顔を青白くしたまま固まって動かない。

 この決断にみんなが呆然とする中、セリナは両手で顔を覆って俯いていた。セリナの細くて小さい肩が震えているから泣いてくれているのだろう。こんな。俺のために。

「……恩に着る」

 一言呟いたオズモンドさんは、そっと俺に背中を向けた。

「必要な紙幣と物資はこちらで用意する。旅立ちは明日の明朝。それまで旅立つ準備をするが良い」

「はい……ありがとうございます」

 お辞儀をすると、オズモンドさんは片手を挙げて静かにその場を去った。

 街の人の視線が痛い。けれども、同情の視線はなかった。みんな俺のことをバケモノでも見るような目で見つめていた。当然だ。俺は、オズモンドさんに慈悲をかけられただけで、平和を脅かす【赤子の悪魔ベビー・サタン】。殺されないだけまだマシだ。

 うなだれていると、誰かが俺に手を差し伸べた。アンジェだ。

「……戻りましょう」

 アンジェの微笑みに悲しみが帯びている。彼にそんな顔をされると、申し訳ない気持ちで堪らなかった。

 ごめんな、アンジェ。巻き込んでしまって、本当にごめん。けれども、上手く言葉にできなくて、俺は無言で彼の手を取った。そして、後ろ指差されながらも、俺たちはアンジェの自宅へと向かうのであった。


 ◆ ◆ ◆


 騒動があってからわずか二時間。アンジェの家に物資が届いた。水と保存食。それと紙幣と小銭合わせてざっと二十万ヴァル。これだけでどんなに贅沢しても二か月は余裕で暮らせるだろう。追放される身にしては随分と手厚い供給だ。

 アンジェは夕食の準備をしている。部屋には腹の音が鳴ってしまいそうなほどの良いにおいが充満しているが、俺もアンジェも無言だった。俺にとっては最後の晩餐は、通夜と同じような空気が流れていた。

 リオンが目覚めたのはそこからまた一時間経った頃だった。ちょうど夕食の準備が整った頃に起きてきたものだから、アンジェは「起こす手間が省けたわ」と笑っていた。けれどもその笑顔もぎこちなく、彼が無理していることが嫌でもわかった。

 リオンが起きてきたのにも関わらず、俺は食卓テーブルに突っ伏したまま顔を上げることができないでいた。

 リオンの可愛らしい足音が聞こえる。突っ伏したまま視線だけ向けると、リオンがその濁りない純粋な目で俺のことを見つめていた。

「──ムギト君、大丈夫?」

 そのあどけない顔を見ると目頭が一気に熱くなった。

 失敗したら俺が死ぬ重圧の中、俺を生き返してくれて。丸々三時間も昏々と眠り続けた状態になるまで魔力を使って。それでもまだ、彼は俺のことを心配してくれた。その無垢な優しさが、今の俺には胸をナイフで突き刺されるくらい痛かった。

「ごめんなリオン……本当に、悪かった」

 謝った声が情けないほど震える。そんな情けない俺を見ても、アンジェも何も言わないし、リオンもキョトンとしたままだ。ああ、どうして俺の周りはこうもお人好しなのだろうか。

「アンジェ──俺、ちょっと部屋にいるわ」

「ご飯は?」

「悪い……あとでもらう」

「そう。んじゃ、残しておくわ」

 俺が部屋に籠る理由なんて、アンジェも聞くまでもなかったのだろう。席を立つ俺を止めすらしなかった。俺は逃げたのだ。この不甲斐ない自分と、いたたまれない空間から。

 部屋に戻った俺は倒れるようにベッドに横たわった。

 街を出る準備はとっくの前にできている。それなのにこの家から出ないのは、俺の甘えだ。魔王が復活した今、魔物も活発になっているに違いない。そんな中で野宿する度胸は今の俺になかった。俺はつくづく弱い男なのだ。

 こんな事態になっても、ノアは姿を現さなかった。あいつのことだから、どこかフラフラ出歩いているのだろう。あいつがどこにいようが、俺たちは契約している。俺もノアも、互いから逃げることができないのだ。

 脱力しながらぼうっとしていると、部屋のドアがノックされた。しかし、返事をする前にドアは開かれた。そこにいたのは、夕食を乗せたトレイを持ったリオンだった。
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