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第14章 旅立ちへ
第196話 ノアの正義
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しかし、私が貴様の世界に行った時、ライトと同じ遺伝子情報を持つのは貴様しかいなかった。
だから私は貴様をライトだと思ったのだ。この世にほぼ同じ遺伝子情報を持つ者はいない。そういう先入観があったからだ──先にセトがライトとの契約を済ませていたなんて気づかずにな。
貴様がライトじゃないと知った時、全て悟ったよ。私は、セトとの競争に負けたってな。
そして、蓋を開けてみればお前のクラスは【赤子の悪魔】だった。おそらくこれは、ライトも同じだろう。
赤子の悪魔は成長すれば悪魔になる。つまり、悪魔であるライトはこれ以上ないくらい魔王の適性がある輩だった。
全ては予想通り。それなのに、私は誤ってお前と契約してしまった。セトの言う通り、私は詰めが甘かったのだ。
ライトと間違って貴様と契約をしてしまった時点で、エスメラルダ様も察しがついたらしい。
しかし、契約をしてしまった以上、もう後には戻れない。
エスメラルダ様の選択は「時が来るまで勇者には魔王の正体を黙っておくこと」だった。それが、あの人なりのご慈悲だった。貴様からしてみれば、いい迷惑だっただろうがな。勇者と魔王との戦いは、簡単には避けられないというのに。
──以上が、私たちがライトが魔王だと知っていた理由だ。
そしてこれが、私が知っている限りの前任と宿敵の話。
退屈な話だっただろう? だから、もう二度と聞いてくるのではないぞ。
◆ ◆ ◆
「……まあ、一番の誤算が、貴様が意外とこの世界に馴染んでいるということだな。恨むなら、存分に恨むがいい」
そう言って長い話を終えたノアは、ぼんやりと赤い空を見つめながら嘆息を吐いた。多分俺が悪態をつくとでも思ったのだろう。
「恨むがいい……ね」
自分の太ももに肘を突きながら、小さくぼやく。
真相を聞いたとしても、ノアやエスメラルダさんを恨もうとは思わなかった。確かに俺は彼らの事情に巻き込まれた。だが、今のこいつの顔を見ていると何も出てこなかったのだ。
誰も悪くない。正義の重圧に耐えられなかったミナトも。自分の正義を押し付けてしまったマリアも。
自分の正義を貫いた結果、堕天使に堕ちてしまったセトも。みんなそれぞれ正義を持っていた。その正義が、少しだけ噛み合わなかっただけで。
そう考えた時、ふと疑問が浮かんだ。ノアの正義とは、なんなのだろうか。
ノアはマリアが消える時も、セト堕天使になった時も「ただ見ていることしかできなかった」と言っていた。
ただ成り行きを見ていたこいつが、「勇者の案内人」になったことも成り行きだったのだろうか。いや、そうは見えない。だって、こいつはマリアの意思を継ごうとしている。
「なあ、ノア。ひょっとしてお前──」
「あ?」
そう尋ねようとしたところで、ノアが口を割った。俺の問いを遮ろうとしたのではない。こいつは、何かの気配を感じたのだ。
「……誰か来るぞ」
むくっと起き上がったノアが、真面目な顔で後ろを向く。
俺も釣られて振り向くと、誰かがこちらに向かって歩いていた。フードがついたマントをしていて顔は見えないが、遠目でもシルエットで男だということがわかる。
「なんだあの輩は……どうしてここがわかったのだ?」
いつになく怖い顔でノアが神の使いから猫の姿に戻る。たとえ猫の姿であっても、少しでも俺に干渉できたほうがいいと判断したようだ。
怪しい雰囲気の男の登場に、俺も警戒せざるを得なかった。立ち上がり、攻撃されてもいいようにバトルフォークが入ったホルダーに手が伸びる。だが、俺たちを目の前にしたところで、男は「ククッ」と短く笑った。
「なんだ……悪魔の赤ん坊は一人で留守番か?」
その声とはらりと外したフードから露わになった顔を見て、俺は思わずぎょっとした。
「お前……どうしてここに」
愕然とする俺と、俺のリアクションを見てニヤリとほくそ笑むこいつ。そのやり取りに、ノアは不思議そうな顔を浮かべていた。
だから私は貴様をライトだと思ったのだ。この世にほぼ同じ遺伝子情報を持つ者はいない。そういう先入観があったからだ──先にセトがライトとの契約を済ませていたなんて気づかずにな。
貴様がライトじゃないと知った時、全て悟ったよ。私は、セトとの競争に負けたってな。
そして、蓋を開けてみればお前のクラスは【赤子の悪魔】だった。おそらくこれは、ライトも同じだろう。
赤子の悪魔は成長すれば悪魔になる。つまり、悪魔であるライトはこれ以上ないくらい魔王の適性がある輩だった。
全ては予想通り。それなのに、私は誤ってお前と契約してしまった。セトの言う通り、私は詰めが甘かったのだ。
ライトと間違って貴様と契約をしてしまった時点で、エスメラルダ様も察しがついたらしい。
しかし、契約をしてしまった以上、もう後には戻れない。
エスメラルダ様の選択は「時が来るまで勇者には魔王の正体を黙っておくこと」だった。それが、あの人なりのご慈悲だった。貴様からしてみれば、いい迷惑だっただろうがな。勇者と魔王との戦いは、簡単には避けられないというのに。
──以上が、私たちがライトが魔王だと知っていた理由だ。
そしてこれが、私が知っている限りの前任と宿敵の話。
退屈な話だっただろう? だから、もう二度と聞いてくるのではないぞ。
◆ ◆ ◆
「……まあ、一番の誤算が、貴様が意外とこの世界に馴染んでいるということだな。恨むなら、存分に恨むがいい」
そう言って長い話を終えたノアは、ぼんやりと赤い空を見つめながら嘆息を吐いた。多分俺が悪態をつくとでも思ったのだろう。
「恨むがいい……ね」
自分の太ももに肘を突きながら、小さくぼやく。
真相を聞いたとしても、ノアやエスメラルダさんを恨もうとは思わなかった。確かに俺は彼らの事情に巻き込まれた。だが、今のこいつの顔を見ていると何も出てこなかったのだ。
誰も悪くない。正義の重圧に耐えられなかったミナトも。自分の正義を押し付けてしまったマリアも。
自分の正義を貫いた結果、堕天使に堕ちてしまったセトも。みんなそれぞれ正義を持っていた。その正義が、少しだけ噛み合わなかっただけで。
そう考えた時、ふと疑問が浮かんだ。ノアの正義とは、なんなのだろうか。
ノアはマリアが消える時も、セト堕天使になった時も「ただ見ていることしかできなかった」と言っていた。
ただ成り行きを見ていたこいつが、「勇者の案内人」になったことも成り行きだったのだろうか。いや、そうは見えない。だって、こいつはマリアの意思を継ごうとしている。
「なあ、ノア。ひょっとしてお前──」
「あ?」
そう尋ねようとしたところで、ノアが口を割った。俺の問いを遮ろうとしたのではない。こいつは、何かの気配を感じたのだ。
「……誰か来るぞ」
むくっと起き上がったノアが、真面目な顔で後ろを向く。
俺も釣られて振り向くと、誰かがこちらに向かって歩いていた。フードがついたマントをしていて顔は見えないが、遠目でもシルエットで男だということがわかる。
「なんだあの輩は……どうしてここがわかったのだ?」
いつになく怖い顔でノアが神の使いから猫の姿に戻る。たとえ猫の姿であっても、少しでも俺に干渉できたほうがいいと判断したようだ。
怪しい雰囲気の男の登場に、俺も警戒せざるを得なかった。立ち上がり、攻撃されてもいいようにバトルフォークが入ったホルダーに手が伸びる。だが、俺たちを目の前にしたところで、男は「ククッ」と短く笑った。
「なんだ……悪魔の赤ん坊は一人で留守番か?」
その声とはらりと外したフードから露わになった顔を見て、俺は思わずぎょっとした。
「お前……どうしてここに」
愕然とする俺と、俺のリアクションを見てニヤリとほくそ笑むこいつ。そのやり取りに、ノアは不思議そうな顔を浮かべていた。
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