転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第15章 絶望の街『イルニス』

第210話 俺にしかないもの

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「なんだ……そっちにも凄い奴がいるんじゃねえか」
 
 リオンの魔法を見て、ケインは感心したように呟いた。同じ風属性だからこそ、リオンの凄みが嫌という程わかるみたいだった。そもそも、この魔法が使えていたら、こいつはとっくの前にこの液状化した地盤から抜け出せている。

 ケインの頭上にたどり着いたところで、セリナが膝から崩れ落ちるように倒れ込んだ。

 慌ててアンジェが彼女の元に駆け寄ったが、セリナはアンジェの肩を借りても自力で立っていられないくらい体力が消耗していた。彼女の魔力が枯渇したのだ。あれだけゴーレムや、魔法で道具を作って戦ったのだ。枯渇するのも無理はない。

「あーあ……俺もあと少しだったじゃないか」

 動けなくなっているセリナを見て、ケインはふてくされたように口を尖らせた。セリナの魔力がもう少し早く枯渇していたら、勝っていたのはケインだった。勝負は、それくらい紙一重の差だったのだ。

「お前はあれだけ爆発させても元気そうだな」

「まあな。魔力の質は悪くても、量だけはあるんでね。でも、所詮俺は爆発しか取り柄のないまがい物よ」

 そう言ってケインは力なく笑い、深いため息をついた。

 ここまで近くで奴の顔を見て、ようやく俺も気がついた。ケインの耳輪の上が、ほんの少し尖っていることに。

「……お前、ハーフエルフだったのか」

 納得するように呟くと、ケインは「そういうこと」と肯定した。あれだけ爆発させてもぴんぴんしていたのは、そもそもの魔力のタンクが違っていたということだった。それでもケインが勝てなかったのは、勝利の女神が彼女に微笑んだだけということ。 

 話しているうちに、とうとうケインの体は頭部だけとなった。このまま沈んでも、死ねないこいつは暗い泥沼に落ちていくだけ。だが、約束したのだ。とどめは、俺が刺すと。

 徐にバトルフォークを構えると、全てを察したケインがククッと笑った。

「いいとこ取りかい、お兄さん。でも、もし戦う相手があんただったら、果たして俺に勝てていたかな?」

 ケインは冷ややかで侮辱した眼差しで見つめていた。答えは考えなくてもわかる。だからこそ、俺は奴に答えた。

「ああ……勝てなかったろうよ」

 それだけ言い捨て、俺は首元だけ出たケインに向かって、バトルフォークを振り払った。

 力任せに振り払ったバトルフォークは、見事にケインの喉元を掻き切った。

 液状化した地盤に沈む前に、ケインは紫色の靄を出して消えていた。ころりと転がった紫色のコアが、彼の代わりに沈んでいく。俺に残されたのは虚無感と、あいつの喉元を描き切った感触だけだった。

「……ありがとう、リオン。もういいよ」

 そう言うと、リオンはみんながいるほうへと戻してくれた。そこでようやく俺は、息が切れ切れになっているセリナのところへ向かうことができた。

「セリナ、大丈夫か?」

 しゃがんでそっと肩に触れると、彼女の細くて小さな肩が震えていた。

「ムギトさん……私、頑張りました」

 顔を上げた彼女は、俺に笑って見せた。その笑顔は疲れ切っており、いつものにこやかさはない。


 ──果たして俺に勝てたのかな?


 不意にケインの言葉が頭に過る。わかっている。彼女だからケインに勝てたということ。そして、こいつごときに勝てないなら、魔王ライトには足元にも及ばないということ。

 そう思った時、いきなり頭がずしんと重くなった。猫の姿になったノアが、俺の頭の上に乗ってきたのだ。

「まあ、確かに……前任の勇者だったらケインにも魔王にも一人で勝てたかもしれないな」

 ノアの忖度ない言葉が俺の胸に突き刺さる。わかっていることとはいえ、いざストレートに言われると心に来るものがあった。

 そんなうなだれる俺を見て、ノアは軽々しく笑いながら言葉を紡いだ。

「それでも──貴様は前任には持っていないモノがあるではないか」

 そう言われて、俺はハッと顔を上げた。アンジェ。リオン。セリナ。目の前には、今も変わらず俺の仲間がそこにいた。

 ああ、そうか。そうだった。こちらの世界に居すぎたせいで、すっかり忘れていた。俺の世界では、魔王は四人で倒すもの。そう相場が決まっているのだった。

「……ありがとう」

 ポンッとセリナの両肩を叩いて激励すると、セリナはくしゃっと屈託のない笑みを浮かべた。その笑顔に釣られるように、アンジェもリオンも「よくやった」「頑張った」と彼女を賞賛した。

 戦いが一つ終わった。次は魔王だ。

 俺は徐に立ち上がり、紫色の霧が濃くなっている山頂部のほうをねめつくように見上げた。

「行こうか。ライトが待ってる」

 そう言うと、仲間たちも力強く頷いてくれた。
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