転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第16章 魔王は4人で倒すもの

第215話 舐めプなんてするから

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 短い断末魔をあげたライトが、バトルフォークが刺さったまま真っ逆さまに落ちる。しかし、奴を受け止めるものは何もなく、ライトは無残に頭から地面に叩きつけられた。だが、ダメージが入ったところで油断はできない。なんせ、俺も現在進行形で落下中だ。先にこっちをなんとかしないといけない。

 ライトと時間差で地面に叩きつけられると思ったが、一緒に飛んでいたノアが背中で俺をキャッチしてくれた。

「やるではないか、勇者様」

 珍しくノアが褒めてくれたが、敢えて鵜呑みはしなかった。相手は魔王だ。これくらいで戦闘不能になるとは思えない。

 おそるおそる下を見下ろすと、ライトが落ちた衝撃で地面が割れていた。

 こんなにも多大な衝撃を諸に食らっても、ライトは生きていた。ただし、立ち上がった彼の姿は満身創痍と言っても差し支えがない。突き刺さったバトルフォークは俺の手元に戻っていたとはいえ、奴の肩元からだらだらと血が流れている。ダメージはそれだけではない。落下した衝撃で頭を打ったらしく、頭部からも目元が赤く覆われるくらい流血していた。

「本当……とことんムカつくな……」

 傷が痛むのか、ライトは顔を歪めながら力強く肩を押さえていた。バトルフォークは銀製。悪魔サタンであるライトには効果が抜群のはず。

 苦しむライトを目の前に、俺は無言で右腕を伸ばした。

 ライトの肩に刺さったバトルフォークが一瞬で俺の手元に戻る。だが、バトルフォークが抜かれた瞬間に苦しそうな唸り声をあげたライトの姿を見ていると、胸がチクリと痛んだ。

「くっそ……こんなたったの一撃で……」

 これだけダメージが入ることはお互い予想外だったのだろう。確かにスペックは比べるまでもなくライトのほうが高い。しかし、一つだけ俺に劣っているものがあった。

「……その一撃を食らわないために、俺たちがどれだけ神経をすり減らしていると思ってるんだ」

 ライトが俺より劣っているもの。それは、戦いの経験だった。あれだけ自分の配下もいるのだから、頭が良いこいつはこれまでも自分の手を汚さずに動いてきたはずだ。『オルヴィルカ』のギルド襲撃も、『カトミア』での市長暗殺も、きっとこいつの手立てに違いない。

 絶対的な力を手にしているのだ。そんな自分から戦うような非効率的なことはこいつならしないだろう。だからこいつは知らなかったのだ。弱者の一撃が、こんなにも重たいことを。

「お前の敗因は、俺を見くびっていた。それだけのことだよ」

 長期戦になればなるほど、スペックの差が顕著に表れる。けれども、スペックの差が如実だからこそ、こいつは絶対に俺を舐めてかかってくる。だから舐めた戦闘プレイをされているうちに全てを叩き込んだのだ。他の奴が魔王だったら通用しない、相手がライトだからこそできた戦略だ。

 敗北を感じ取ったライトは、俺を睨みつけたまま悔しそうに歯を食いしばった。

 こんなにボロボロになっても、闘志を消さないのはライトのプライドなのだろう。三叉槍を杖にしながらも、ライトは徐に立ち上がった。だが、足はガクガクと震えており、立っているだけで精一杯のように思える。魔王がゆえの生命力だからこそ、気絶もできずにいるのかもしれない。なんて哀れな姿なのだろう。

 そんな痛手を負ったライトを見て、セトは幻滅したような大袈裟なため息をついた。

「がっがりだぜ、ライト。こんな奴ら相手にあっさりやられるなんてな」

 先ほどまでにやつきながら傍観していたセトだったのに、彼からは笑みが消え、興ざめしたような冷たい顔つきになっていた。セトのこんな表情はライトですら見たことがなかったのだろう。これまでとは別人のような彼にこの場にいた誰もが唖然とした──旧友である、ノアを除いて。

「やめろ、セト!」

 いきなり声を荒らげたノアが、聖獣の姿のままセトに突っ込んでいった。しかし、ノアがセトに牙を向ける前にセトの体が紫色に光った。

 その瞬いた一瞬で、セトは人間から大きな鳥へと変化した。高さだけでも三メートルはあるだろう。鷲のような形をしているが、体毛は彼の髪色と同じ金色だ。一見神々しく見えるが、大きな両翼からは禍々しい黒い靄が出ており、聖獣とは言い難かった。魔鳥。そう呼ぶのが相応しいように思えた。
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