転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~

葛来奈都

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第16章 魔王は4人で倒すもの

第220話 無理ゲーの勝ち筋

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「リオン君!」

 最悪な事態を悟ったセリナが慌てて自分のショルダーバッグに手を突っ込んだ。何か道具を出すつもりだ。しかし、それを察したセトが冷淡な表情で彼女の腹部を蹴り飛ばした。

 蹴られたセリナが地面に転がる。当たり所が悪いのか、セリナはうずくまったまま動かない。

「セリナ!」

「セリちゃん!」

 慌ててセリナの名を呼ぶが、そうこうしている間にもリオンの魔力がセトに吸われていく。しかし、半ばリオンを人質に取られたようなものなので、迂闊にセトに攻撃ができない。

 歯を食いしばりながらも事の様子を見ていると、やがて魔力がなくなったのかセトはリオンの頭部を掴んだままポイッと投げた。

「くっそ!」

 投げ捨てられたリオンを滑り込んで受け止める。怪我はしていないようだが、リオンは目をつぶったまま苦しそうに荒い呼吸をしていた。リオンの魔力が枯渇しているのだ。この様子だと、自分で立ち上がることもできないだろう。

 まずい。非常にまずい。これ以上リオンの攻撃も補助も回復も見込めない。それどころか、ここからはダメージを負わされたリオンとセリナを護りながら戦わないとならないだろう。

 一方、セトはライトが食らった肉体的なダメージは残っているものの、リオンから魔力を奪ったから力が有り余っているはずだ。これから雨あられと攻撃魔法が飛んでくることだろう。

 考えろ。考えろ。

 セトが使う攻撃魔法は遠距離攻撃。かといって近づくと三叉槍の電流を食らってしまう。しかし、今動けるのは俺とアンジェだけ。それに加え、今はリオンとセリナを護りながら戦わないといけない。

 無理だ。いや、違う。考えろ。考えろ。何か利用できるものはないか。

 俺の魔法──は、戦力ならない。霰を飛ばしたところでどうにもならないし、辺りを凍らせるような水もない。アンジェの火炎放射は使えるかもしれないが、ダメージは入らないだろうし、さっきみたいに避けられてしまうだろう。

 セリナの魔法道具は? でも、肝心のセリナが使える状況でもないし、誰かが使うにしろ、彼女に使い方を聞ける暇はない。

「いやあ、人の無駄な努力を見るのは楽しいもんだな」

 セトの嫌みが胸に突き刺さる。こいつからしてみれば勝ち目のない相手を前にして必死に戦略を練る俺が滑稽で仕方がないのだろう。けれども、俺は諦める訳にはいかないのだ。ここで退いたら、仲間も、弟も、世界も、全てが死ぬ。

 だが、セトの言う通り、この考えも無駄な努力なのかもしれない。どんなに考えても、勝ち筋がまったく見えてこない。見えるのは、セトの雷魔法で昇天するビジョンだけ。

 文字通り手も足も出ないでいると、猫の姿のノアが俺の頭部に乗った。

 急な衝撃にバランスを崩し、前屈みになる。すると、顔をあげたところで青い画面が現れた。俺のステータスボードである。

「貴様の情報だ。あやつには見えねえ。これで何か捻り出せ」

 そう言うと、俺のステータスボードが少しずつスクロールしていった。

 レベル。魔力。力。知力。全てのステータスが最初に見た時よりずっと数値が上がっていた。だが、どれだけ上がった数値を見せられても、セトへの勝ち筋は見えてこなかった。

 だが、ある画面を目の前にした時、俺は思わず息を呑んだ。あったのだ。まだ使っていない、俺の切り札が。しかし、これを使ったところでどうなるかは俺自身も想像がつかない。それくらい、博打の技だ。

 浮かぶ策が一つ。彼らには防御に徹してもらうということだ。

「セリナ……あの風の盾ってまだ使えるのか?」

 未だ起き上がれないセリナに尋ねると、彼女は息絶え絶えながらもコクリと頷いた。

「アンジェ、その盾で二人を護ってくれ」

「『護ってくれ』って……それ、どういうことよ」

 いきなり俺に請われ、アンジェが目を瞠る。当然だ。未だ勝ち筋が見えない状況で敢えて魔王と一対一サシ勝負をしようとしているのだから愕然とするに決まっている。けれども、考えつく手立てはこれしかないのだ。
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