229 / 242
第16章 魔王は4人で倒すもの
第229話 神に選ばれた勇者の武器
しおりを挟む
魔王の正体も判明した。理《ことわり》もわかった。あとは、元凶であるあのクリスタルを壊すだけ。
「でも、これって確か、『オルヴィルカ』に現れた時はびくともしなかったって……」
アンジェの言う通り、ライトが魔界から地界に出てきた時、『オルヴィルカ』に避難していたオズモンドさん率いる神官たちがこのクリスタルを壊そうとしていた。そして、どんなに強力なアイテムや魔法を使ってもびくともしなかったとも言っている。
「そりゃ、稲妻をぶっ放してしまうくらいの勢いで魔界から地界に出るのだ。簡単には壊せないだろう。だが──」
ノアが話している間でも、俺はすでにクリスタルのほうへ足を向けていた。
「ちょっと、ムギちゃん!?」
「あの大きい石って、危ないんじゃないの?」
「近づかないほうがいいですよ!」
仲間たちの心配そうな声が聞こえてくるが、俺は歩みを止めなかった。
一歩踏み出す。心臓が高鳴る。一歩踏み出す。体に戦慄が走る。一歩踏み出す。握った拳に力が入る。また一歩踏み出す。頭の中で知らない誰かの声がする。
『壊せ』
『壊せ』
主語はない。ただひたすらに、同じ言葉をくり返す。それが他人なのか。自分なのか。世界なのか。受け取る者によって、このシグナルは変わっていくのだろう。
「……ムギちゃん?」
アンジェの心配そうな声がする。おそらくみんな、振り向きもせずにただ黙りこくる俺のことを心配している。それでも俺は、歩みを止めない。
ああ、きっと。俺の破壊衝動は、このクリスタルを壊すためにあるのかもしれない。
一呼吸置き、クリスタルの前に立つ。俺の身長ほども高さのある、大きな鉱石。どんなに強力なアイテムや魔法でも壊れなかったクリスタル。話には聞いている。だが、話を聞いただけだ。
無言のままクリスタルにバトルフォークの切っ先を向け、そのままスッと切っ先を突き刺す。その光景に、後ろにいた仲間たちが息を呑んだ。
「……え?」
「どうして?」
バトルフォークの切っ先は、何も力を入れなくてもずぶずぶとクリスタルの中へ入っていった。
傍から見れば異様な光景だったはずだ。予め「壊れない」と言われていたこのコアが、「バトルフォーク」と呼んでいるだけのただの大きなフォークでいとも簡単に突き刺せるなんて。
「どんな強力なアイテムや魔法でも壊せなかった……ねえ」
ノアがわざと大袈裟な口調で呟く。その口元は、核心突いたようににんまりとしていることだろう。
「試してなかっただけだろ。神に選ばれた、勇者様の武器を」
「……ああ、その通りだ」
ノアの声に答えながらバトルフォークを振り払うと、クリスタルはパリンッと真っ二つに割れた。
俺は先程、ライトの体に埋め込まれたコアを壊したから知っているのだ──このクリスタルが、とても柔らかくて脆いことに。
割れたクリスタルは、ガシャンと音を立ててその場に崩れ落ちた。
その崩れたクリスタルを俺は何度も突き刺した。何度も。何度も。何度も。もうあんなコアができあがらないように。もうこのコアの適性者が現れないように。もう、魔王なんか生まれないように。
崩している間、この世界での出来事が頭の中を駆け巡っていた。
初めて見た『エムメルク』の青い空。初めて戦ったスライム。初めて死にかけた魔王の配下・ルソード。助けてくれたアンジェを初めとした、仲間たちとの出会い。魔王の配下との戦い。そして、ライトとの異世界での再会──その出会いと出来事一つ一つが、まるで昨日のように蘇る。
美しい世界があった。素敵な人がいた。温かい優しさに出会えた。その一方で、純粋な悪意にも触れた。その悪意から、人を、世界を、護りたいと思った。その元凶が実弟だとわかった時も、俺は実弟を救いたかった。自分のためだった「世界の救済」が、いつのまにか「誰かの救済」にすり替わっていた。変わったのは目的か。それとも俺自身か。その答えを求めるように、何度もクリスタルを砕いていく。
心の中が無になるくらい、ただひたすらにバトルフォークを突き刺していると、やがて誰かが俺の手を掴んだ。振り向くと、いつになく澄ました顔のノアが立っていた。
「──もういい。十分だ」
その声で、ふっと我に返った。気がつくと、目の前にあったクリスタルは跡形もなく消えてなくなり、足元には細かく砕かれた無数の紫色の小さなかけらがバラバラに散らばっていた。
「そっか」
終わったか。
そう思った時、電源が切れたように全身の力が抜けて、一瞬にして意識が遠退いた。
意識がなくなった時、ノアの腕に受け止められたような感覚があった。
「……ご苦労」
薄れゆく意識の中、そんなノアの声が聞こえた。これまで聞いた中で一番切なく、優しい声だった。
「でも、これって確か、『オルヴィルカ』に現れた時はびくともしなかったって……」
アンジェの言う通り、ライトが魔界から地界に出てきた時、『オルヴィルカ』に避難していたオズモンドさん率いる神官たちがこのクリスタルを壊そうとしていた。そして、どんなに強力なアイテムや魔法を使ってもびくともしなかったとも言っている。
「そりゃ、稲妻をぶっ放してしまうくらいの勢いで魔界から地界に出るのだ。簡単には壊せないだろう。だが──」
ノアが話している間でも、俺はすでにクリスタルのほうへ足を向けていた。
「ちょっと、ムギちゃん!?」
「あの大きい石って、危ないんじゃないの?」
「近づかないほうがいいですよ!」
仲間たちの心配そうな声が聞こえてくるが、俺は歩みを止めなかった。
一歩踏み出す。心臓が高鳴る。一歩踏み出す。体に戦慄が走る。一歩踏み出す。握った拳に力が入る。また一歩踏み出す。頭の中で知らない誰かの声がする。
『壊せ』
『壊せ』
主語はない。ただひたすらに、同じ言葉をくり返す。それが他人なのか。自分なのか。世界なのか。受け取る者によって、このシグナルは変わっていくのだろう。
「……ムギちゃん?」
アンジェの心配そうな声がする。おそらくみんな、振り向きもせずにただ黙りこくる俺のことを心配している。それでも俺は、歩みを止めない。
ああ、きっと。俺の破壊衝動は、このクリスタルを壊すためにあるのかもしれない。
一呼吸置き、クリスタルの前に立つ。俺の身長ほども高さのある、大きな鉱石。どんなに強力なアイテムや魔法でも壊れなかったクリスタル。話には聞いている。だが、話を聞いただけだ。
無言のままクリスタルにバトルフォークの切っ先を向け、そのままスッと切っ先を突き刺す。その光景に、後ろにいた仲間たちが息を呑んだ。
「……え?」
「どうして?」
バトルフォークの切っ先は、何も力を入れなくてもずぶずぶとクリスタルの中へ入っていった。
傍から見れば異様な光景だったはずだ。予め「壊れない」と言われていたこのコアが、「バトルフォーク」と呼んでいるだけのただの大きなフォークでいとも簡単に突き刺せるなんて。
「どんな強力なアイテムや魔法でも壊せなかった……ねえ」
ノアがわざと大袈裟な口調で呟く。その口元は、核心突いたようににんまりとしていることだろう。
「試してなかっただけだろ。神に選ばれた、勇者様の武器を」
「……ああ、その通りだ」
ノアの声に答えながらバトルフォークを振り払うと、クリスタルはパリンッと真っ二つに割れた。
俺は先程、ライトの体に埋め込まれたコアを壊したから知っているのだ──このクリスタルが、とても柔らかくて脆いことに。
割れたクリスタルは、ガシャンと音を立ててその場に崩れ落ちた。
その崩れたクリスタルを俺は何度も突き刺した。何度も。何度も。何度も。もうあんなコアができあがらないように。もうこのコアの適性者が現れないように。もう、魔王なんか生まれないように。
崩している間、この世界での出来事が頭の中を駆け巡っていた。
初めて見た『エムメルク』の青い空。初めて戦ったスライム。初めて死にかけた魔王の配下・ルソード。助けてくれたアンジェを初めとした、仲間たちとの出会い。魔王の配下との戦い。そして、ライトとの異世界での再会──その出会いと出来事一つ一つが、まるで昨日のように蘇る。
美しい世界があった。素敵な人がいた。温かい優しさに出会えた。その一方で、純粋な悪意にも触れた。その悪意から、人を、世界を、護りたいと思った。その元凶が実弟だとわかった時も、俺は実弟を救いたかった。自分のためだった「世界の救済」が、いつのまにか「誰かの救済」にすり替わっていた。変わったのは目的か。それとも俺自身か。その答えを求めるように、何度もクリスタルを砕いていく。
心の中が無になるくらい、ただひたすらにバトルフォークを突き刺していると、やがて誰かが俺の手を掴んだ。振り向くと、いつになく澄ました顔のノアが立っていた。
「──もういい。十分だ」
その声で、ふっと我に返った。気がつくと、目の前にあったクリスタルは跡形もなく消えてなくなり、足元には細かく砕かれた無数の紫色の小さなかけらがバラバラに散らばっていた。
「そっか」
終わったか。
そう思った時、電源が切れたように全身の力が抜けて、一瞬にして意識が遠退いた。
意識がなくなった時、ノアの腕に受け止められたような感覚があった。
「……ご苦労」
薄れゆく意識の中、そんなノアの声が聞こえた。これまで聞いた中で一番切なく、優しい声だった。
0
あなたにおすすめの小説
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる