蒼穹の竜王

【第六章 昼の光の下で】

1．公演の朝

翌朝。
グロリアの町は、昨夜に続く厳重な警備体制のまま、新たな一日を迎えようとしていた。街頭には鎧を着た兵士の姿が増え、行き交う人々もやや落ち着かない様子だ。
一方で、宿「グリーンライト」に滞在するアルカディア座の面々は、予定通り“日中のショー”を実施する準備を進めていた。夜の公演は危険が多いと判断したため、昼間に街中の広場や通りで大道芸を披露し、人々を楽しませる方針だ。

「ケイン、準備は完了よ。大道具も楽器も、午前中は南の広場で公演ができそう」
リラが明るい声で報告すると、リーダーのケインは満足げに頷く。
「よし、まずはそこから始めよう。怪我をした座員はいないし、昨夜はリュートとガロウが大変だったが……体調はどうだ？」

リュートは左腕に巻いた包帯を気にしながら、苦笑交じりに答える。
「少し痛みますけど、動くのに支障はありません。それより、あの女性の容体はどうですか？」
「医者の話では、少し意識が戻りかけているらしい。ただ、まだ朦朧としていて詳しい話は聞けていないそうだ」

どうやら、被害に遭った女性は一命を取り留めたものの、まだ回復には時間を要するらしい。夜の路地裏で目撃した魔物について何か知っていれば手がかりになるが、今は焦らず回復を待つしかない。

「さて、それじゃあ公演に行くぞ。暗い話ばかりで街の空気も重い。こういうときこそ、俺たちが盛り上げてやらなきゃな」
ケインが笑って馬車を仕立てると、メンバーたちはそれぞれの役割を確認し合いながら宿を出発する。リュートは、荷物運びや雑用を任され、広場までの道案内を兼ねて先頭を歩くリラについていく形だ。