記憶のカケラ

シルヴィー

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ストーリー

藍色のローブの子の過去3

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小娘は救出してから2週間ほど経った頃、ようやく意識を取り戻した。

『目が覚めたか。調子はどうだ?』

取り除ききれなかった闇のせいか、小娘はひどく警戒しこちらを睨んでいた。しかし、爛々らんらんと輝く目は、何も映していないようにも感じられた。

『小娘、おのれが何者か理解しているか?』

答えはない。代わりに、おぞましい息のもれる声と共にいびつな貼り付けたような笑顔になった。一般的な人間にとっては戦慄せんりつし、恐怖をいだくだろう。"聖の"もといリュカスは、何百年も生きた経験からか小娘の発する雰囲気オーラは痛くもかゆくもなかった。

『我はおぬし救世主きゅうせいしゅぞ。小娘ごとき、睨まれることなぞしておらぬ』

小娘はゆっくりと、こちらに目を離さず起き上がる。

「……誰だ」

甲高かんだかい子どもの声をできるだけ低くしたような声だった。

『我は聖魔法を操る者。この辺り一帯いったいの森の管理者である』

「森の管理者…だと?」

『そうだ。樹木の精霊ドライアドの導きにより、お前を助けた』

「お前の助けなど…うっ…」

出来るだけの治療はほどこしたが、足りない血は回復が追いついていないらしく、小娘は頭を抱えた。

『もう少し眠るが良い。おぬしの体はまだ、完全には回復しきれておらぬ』

「てめぇみたいな、誰かも知らない奴がそばにいたら寝れるかよ…!!」

幼き子とは思えない言葉づかいだ。やはり、取り除ききれなかった闇が取りいているらしい。早急そうきゅうになんとかすべきだが、こればかりはどうにもならない。

『では、こうしよう。おぬしが我を信頼してくれるまで、暮夜ぼや時は去る。その間、お前は自力で身を守れ。日中は我がここへ来る。さすれば、おぬしは安心して夜を眠れよう』

小娘は真意しんいを見定めるかのような目でこちらを見つめた。このようなやり取りは半世紀振りだと思いながら我も見返す。

しばらく無言の重い空間があった。それほどに我は疑われているということだろう。

沈黙を破ったのは小娘の方だった。静かに、トゲ混じりの声で言い放つ。

「…分かった。そうさせてもらおう。…今から寝るから、お前はどっか行け!」

『ああ。夜明けに戻る。それまで休まれよ』

この日から我は小娘と昼間の時間だけ、一緒になることが多くなった。それからというもの、小娘が我を信用し、信頼してもらうまで数年の月日がかかった。
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