追放公爵ベリアルさんの偉大なる悪魔料理〜同胞喰らいの逆襲無双劇〜

軍艦あびす

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第1部

第11話 正義と幸せ

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 反射的に、エクサードはその身ごと視線を背後に移す。その先に立っていたのは、紛れもない強欲を絵に描く姿だった。
「誰だ……⁉︎」
 イレギュラー登場の空気に当てられ、分かりやすい驚きを体現する異形。その存在が如何なるものか、きっと誰しも予想していなかったのだろう。
 アガリアレプトの能力は、あらゆる機密を解明することができる。これから起こる展開までもを理解できるが、自主的に知りたいものを調べなければ知ることができない。
 だからこそ、この存在は誰しもを驚かせるものだったのだ。
「正義を喰らい、幸せを求める者……と、コイツは語っている」
 睨みつける様な眼差しは己の胸を拳で叩き、その言葉の在処を示す。どうやら完全とは行かないまでも、彼らは一体となって戦う覚悟を手に入れたらしい。
「そうか……‼︎皆倉蓮磨が悪魔に身を売ったということか‼︎」
「仮にそうだとしても、その姿の奴に言われたくはないな」
 歪に象られる悪魔を身に纏う純白の装甲だったものが、大声を上げて蓮磨を睨む。いや、この姿が皆倉蓮磨なのかマモンなのかは分からないが。
「礼を言うぞネビロス。俺とコイツの正義のため、全力で協力しよう」
「いいだろう」
 先程、檻の中で縛られていたマモンは空中に光の痕跡で文字を描いていた。彼の能力によって生み出されたものなのかは知らないが、その檻の中にはこう示されていた。
 『この壁壊せ→』
 用いられたのは、かつて獄で娯楽の為に作られた文字。人間界と繋がってからはいつしか悪魔にだけ通じる文字という風に扱われていたものだったが、この様な場面で役に立つとは思わなかった。
 当然の如くその意図を汲み取ることができなかったエクサードは、誘い通りに壁へ打撃を与えてくれたのだ。
「粛清だ。私利私欲に見染められた外道」
「貴様ァ‼︎DRを裏切るというのか⁉︎」
 毎度の如く背面のジェットで蓮磨に迫るエクサードは、拳に焔を纏わせて構える。距離が詰まり、その拳が鼻先に触れようとした瞬間だ。
 その腕を掴んで受け流し、身をかがめて巨体の影に潜り込む。下側から全力のアッパーを繰り出し、エクサードの身は勢い余って天井に衝突した。
 どうやら、こちらもベリアルと同じように人間を媒体としている為かエクサードの対魔装甲を軽く吹き飛ばしている。全力を持って、ようやく有効打になる完全な悪魔体の我々とは根本から違うらしい。
「付け焼き刃の装甲に頼る貴様が、毎日地獄の様に鍛えた俺に敵うと思うか‼︎」
 重力に寄せられたエクサードはそのまま落下するも、その最中に蓮磨の蹴りをモロに受ける。完全に壊れた簡素な床だったその地を転がり、己の足元に衝突して停止した。
 そのまま右脚に人間の魂を込め、今繰り出せる全力を尽くしてこちらもエクサードを蹴り返した。
「糞ッ‼︎やめろォ‼︎」
 またも空中を舞うエクサードだが、どうやらこちらの力では蓮磨の元まで届かないらしい。
「ふっ……ざけるのも大概に……‼︎」
 よろけながら立ち上がったエクサードは、言葉の最中に右手を耳の辺りに伸ばす。数秒後に驚愕の表情を見せて、仁王立ちの体勢を取った。
「なんだ……?」
 エクサードは逼迫した雰囲気を醸し出し、ジェットを起動させて真上に向かい飛ぶ。腕の異形を変化させ、突起した金属の類に変形させて、その天掲げて天井を破壊していた。
「逃げるつもりか⁉︎」
「まさかあの野郎、もう気付きやがったのか⁉︎」
 既に姿を眩ませた先では、頭上からあらゆる瓦礫を降らせながら少しだけフロアが揺れていた。恐らく先程使用した能力は、サブナックが建築の際に使用する鑿岩機のようなものだろうか。そうすると、奴の胎内には現在イフリートとサブナックのコアが存在しているのだろう。
「気付いた……というのは、どういうことだ⁉︎」
 蓮磨は叫ぶ。勿論誰しもが持つであろう疑問だ。味方についている彼には、しっかりと話すべきである。
「サルガタナスがここの情報を撮影した。それを全国ネットで放送して、DRの正体を全人類に公開する」
「成る程……なら、すぐに追わねばならんぞ‼︎」
「あぁ、ここから七階掛け上がるぞ」
 
「フルーレティ様。こちら、サルガタナス様からです」
「ご苦労でした。ベルゼブル様の確認は聞いていますよ、このまま放送を開始します」
 サルガタナスをベルゼブルに引き渡し、映像の収められたビデオカメラをフルーレティに届ける。これにて、ガープの仕事は終了だ。
「ご苦労でした」
「はい。それでは」
 その姿を眩ませ、ガープは持ち場に戻る。それを見届けたフルーレティは、機材に溢れたとある一室にてグレムリンとの作業に移る。
「放送開始時間までまだ時間がありますが……ネビロスの時間稼ぎがいつまで持つか分かりません。今すぐにでも始めましょう」
 その言葉と共に、グレムリンはとある機材に触れる。電波を狂わせて、このビデオプレイヤーに備え付けられているコードへと、強引に接続した。
「奴は逃走してこちらを真っ先に狙う可能性もあります。ここは私が死守しますので、グレムリンはしっかりと放送を繋げてくださいね」
 
 テレビ局のオフィス一面に貼られた、デジタルの壁。その画面にはニュース番組が映り、DR襲撃事件と名付けられた本件を延々と語っていた。
「そろそろ始まんじゃねえの?」
「あぁ。ネビロスが足止めできるのにも限りがあるだろうからな。アイツが負けることは無いだろうが、相手が逃走を図ろうとするならそれはまた別の話だ」
 テレビ局の屋上にて佇むベリアル、ベルゼブル、ルキフグ、アガリアレプトの四人。我々はなんとしてでも、これから開始される放送を停止させてはいけないのだ。
「最新情報だ。あと一分で放送が始まるぜ」
 アガリアレプトの言葉に、三人が息を呑む。当たり前のようにDRからの刺客が現れるだろうが、それを停止させる唯一の可能性を秘めているのがベリアルたったひとりというのが余りにも難儀だった。
「十、九、八……三、二、一、ゼロ」
 一般公開されている、この放送局が受け持つチャンネルの映像が一斉に切り替わる。簡素で無機質な白色に染められ、檻が幾つも立ち並ぶDRの地下が流れ始めたのだ。
 テレビ局前には公道が設置されており、ちょうど仕事を終わらせて帰宅する人々が多く行き交っている。誰しもが、不自然なタイミングで切り替わったその映像を不思議な表情で見入っていた。
 グレムリンが機材を弄ったのか、唐突に音量が大きくなる。先程までは街中ということに考慮したものだったが、この音量ならば人々の立てる音に掻き消されることはないだろう。
『糞がぁッ‼︎ぶっ殺してやらぁ‼︎』
『解放しろ‼︎私が何をしたというのだ⁉︎』
 次々と進む映像の中に、囚われた悪魔たちが罵詈雑言を次々と並べる。映像はそのうちに含まれる一匹の悪魔に切り替わり、一般人なら吐き気を催すようなグロテスクな描写が映り込む。その身を破壊されてドロドロとした血液を流しながらも必死の絶叫を繰り返していた、筋肉質な悪魔だった。
「SNSも現状では既にこの話題で持ちきりだな。政治関連の人間やタレントもしっかりと反応している」
 ルキフグが、スマートフォン片手に語る。彼女はこの作戦にて、人間の動向を知る為に必要だということでスマートフォンを入手したらしい。文明の利器とは、やはり重要なデバイスなのだなと実感させられる。
「DRの職員が気付いたっぽいな。奴らが局を特定してここに来るまで約四分だ」
 アガリアレプトが、敵陣営の動きを捕捉する。つまりあと六分以内に、この作戦の核となる戦いが幕を開けるのだ。 
「ネビロスはどうなっている?」
「当然ネビロスもこちらに向かうだろうが、現在地が地下だし数分は遅れるでしょうね」
 ベルゼブルの声に返事を残したアガリアレプト。彼は戦闘に特化していないが、本日は有効な手段を調べ続けてそれをリアルタイムで伝えてくれるという立ち回りにいる。
「そうか。それでルキフグ、サタナキアはどうなっている?」
 サタナキアの能力は、あらゆる女性を魅了して己の望むまま操る。彼女は能力を駆使して、多くの女性をDRの敵対関係に置くよう操るという立ち回りだった。
 一種の洗脳だが、当然先ほど述べた文明の利器が発達している時代だ。操った範囲内でSNSに意見を刻めば、それが消えることは無いだろう。
「既に始めているようだ。この放送に関する投稿は女性のアカウントが七割ほどを占めている」
「順調だな」
「みんな、そろそろ備えといたほうがいいぜ」
 アガリアレプトの言葉に、ふと全員が同じ方向を向く。DR本部がある方角では、青白い光とブラックダイヤモンドのような反射が煌めいていた。
「さぁて、最終決戦と行こうじゃねえか」
 腕を交差させて準備体操の形を作るベルゼブルは、輝く方向を向いて笑う。
「まさかこんなに大きな事態になろうとはな」
 ルキフグは背負った三つの鞘からうち二つを抜刀し、刃の先を足元に突き刺して柄を握り直す。クラウチングスタートのように体を低くして、目標物を捉えて構える。
「人間のくせにいい香りするじゃねえか。こいつぁ高級食材だな」
『人間だぞ、食うなよ?』
「あぁ?人間はいらねぇよ。オレ様の目当ては中にあるコアだ」
 刻一刻と迫るその瞬間に、無限の緊張感が巣食う。反逆者と言われようが、何が正しく何が間違っているのかはしっかりとわかっているつもりだ。
 だからこそ、奴だけは何としても止めなくてはならない。

「さぁ、テイスティングの時間だぜ」

 一斉に飛び出し、出来るだけこの建物に奴を近づけまいと攻撃を開始した。
「小賢しい俗物めが‼︎貴様らはどれだけ自らの品位を下げれば気が済むというのだ⁉︎」
 かつて出会った姿とは似ても似つかず、あらゆる箇所を歪めた怪物は叫んでいた。純白と並んでところどころを支配していた紫のかかる黒い物質は、禍々しいと言わずして何と表現していいのかがわからない程のものだった。
「てめぇみたいな奴が品位だと⁉︎笑わせてくれるじゃねえか‼︎」
 ベルゼブルの踵がエクサードの頭上より振り下ろされ、禍々しいその身は近辺の低い建物に落下する。この辺りはオフィスが多いため、移動に適した平な屋上の作られた建造物が多い。フィールドの種類は、恐らく戦闘に適していると考えられる。
「何をいうか、貴様ら悪魔に対する人類の評価は見ていればわかるはずだろう‼︎貴様らは獄に篭り、迫害を投げつけられ続けていればいいのだ‼︎」
 落下によって巻き起こった土煙の中から、エクサードがゆっくりと姿を表す。動かずに構える姿を見て、改めてその禍々しさを思い知った。
「ったく、どっちが悪魔か分かんねえ見た目になってんじゃねえか‼︎」
 ベリアルのによる、追い討ちをかけるような空中からの拳。しかし、その姿を捉えていたエクサードはベリアルに向けて掌を構えていた。
『なんか来るぞ‼︎』
「分かってる。急かすんじゃねえよ」
 攻撃の軌道は変えず、反撃の類が来ることを理解してなお一直線に突っ込むベリアル。何か考えがあると信じたいものである。
 案の定何か反撃を備えていたであろうエクサードの右腕から火柱が飛び出し、ベリアルの身を一瞬にして覆った。
『ほら言ったじゃねえか‼︎』
「うるせぇよ、黙って見てろ‼︎」
 ベリアルはその身を縮め、小さく蹲っていた。その瞬間にベリアルは落下して、視界を支配した焔に辛うじて残るほんの小さな隙間を潜って地に降りた。
「あれは……バアルか⁉︎」
 一部始終を傍観しながら戦線に向けてビルの壁を下へと走るルキフグは、この光景を見て呟いた。あの小さな隙間をこの身体がすり抜けることが出来たというのは、バアルのコアを使って己を小さく変幻させていた故らしい。
「初めて使ったけど、案外使い勝手いいなぁこれ。食って正解だぜ」
 呑気に落下するベリアルの姿は本物の蜘蛛と同じサイズらしく、エクサードの目には暗闇と混じって認識ができていないらしい。
「ベリアル、そこを退け‼︎」
「おおっとあぶねえなぁ」
 身体を一瞬で蜘蛛から元の形に形成し直し、ベリアルの攻撃が当たることなくその身は仰け反ってエクサードから距離を置く。
 そうしている間に、ルキフグの太刀二本がエクサードの装甲同士が作る隙間にめり込んでいた。
「もう忘れたのか⁉︎この程度の攻撃……‼︎」
 確かに、エクサードと初めて交戦した際にはベリアルの攻撃が有効打となって勝利を収めた。だが、今回はあまりダメージが入っていない上にコアを喰らい強化を受けている。少しでも期待を寄せるが、ムダに等しいかと考えるが妥当だろう。
「くっ……‼︎」
「充分な足止めだぜ、ルキフグ‼︎」
 仰け反って距離を置いたベリアルは、ルキフグとの交戦に夢中になっていたエクサードを後ろ側から蹴る。それをしっかりと見ていたルキフグは、太刀を捨てて上空に飛んで巻き添えを回避していた。
「ぐぁっ……‼︎」
「おいおい、なかなかいい声で鳴くじゃねえかぁオッサン」
 勢い付きベリアルの蹴りに押されて吹き飛ぶエクサードは、現在交戦していたビルから離れてテレビ局の外壁へと衝突する。建物を覆うガラスは片っ端から割れて重力のまま落ちていき、出鱈目な力で折り曲げられた窓枠だけが形を辛うじて保っていた。
「こんな映像を流したとて、人類が悪魔を敵対する情勢は変わらんぞ‼︎」
「なんだてめぇ、人間の総意みたいに言うじゃねえか」
 埃や瓦礫に塗れているものの、やはり傷は無い。未知の物質で造られたエクサードの身体はジェットによる噴出で、その空間から一時脱却した。
「チッ……また逃げんのか?」
「貴様らの前に、この映像を止めねばならぬ‼︎」
「なんだ。やっぱ怖えんだな、人間から迫害されんの」
 ベリアルは、下卑た笑いをしているのだろう。煽りに特化したその顔を浮かべる暇があるなら、是非早くエクサードの行動を阻止していただきたいのだが。
「何を‼︎人間が悪魔を憎むのは当然の——」
「だとしたら、貴様の行為には矛盾が生じますね」
 エクサードが発信元を捜索し、テレビ局の周りを捜索していた。その最中に、割れた窓ガラスがそのまま見せるオフィス内にて、一人の少年が両腕を前方に構えて語る姿を映す。
 その少年の周囲から生み出された氷塊が勢いよく飛び出し、エクサードの身に連撃を加える。あまりに咄嗟の出来事に防御が出来なかったエクサードは、スーツに氷塊を付着させることを許してしまった。
 フルーレティの攻撃は、一時的ながらエクサードの行動を奪ったのだ。
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