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第1話
しおりを挟む何を感じているのだろうか。それすらも分からなくなって尚働き続けるこの身体は、未だに身体を動かすこと以外の全ての機能を正常に動かすことが出来る。それが役に立つのか…いや、そもそも、本当にそんな感覚なんてものを最初から持ち合わせていたのだろうか。行動ができなくなった現状、後々その他の機能も失うのであろう。この思考さえも動かなくなって、今までの記憶も何もかも無くしてしまうのだろう。そうすれば、この眼前に広がる光景に触れることも無く消えることが出来るだろうか。
先ほどまで聴覚を支配していた雨の音も遠くなり、その最中に届いた低い声のようなものを聞き取ることは出来なかった。伸ばすような腕も、発言するような口も、何もかもを失った末に残るものは何もなかった。
最後に、何がこの原因となったのか知りたかった。何故このようになってしまったのか。もしこの耳に雨音以外が届くのなら———
『じゃあな、欠陥品。』
終わってしまった一つの命にも、未だに自我が残っている。これはどういう事だろうか。本来終わりのその先というものは用意されていない。いや、これが『命』だったかどうかも解らないが…
しかし、目蓋は自然と網膜に光を注ぎ込む。左右のタイミングはズレる事はなく同時に開き、コンクリートを映し出した。
その視界の左端を揺れる碧い球状のもの、それを人体の頭部であると認識する。この行為により視覚が未だ存在していたという事を確認した。どういう訳か、全てにおいて機能を修復された様な感覚に陥る。
「…んご、ん…あぁ…起きた?」
単一個体認識した一人の人間は眠っていたようで、目を覚ますと同時に言葉を発する。明らかにそちらが言われる側なのではと伝えたいのだが、言葉を発する事は出来るだろうか。
「スピーカー機能起動。テスト中…」
どうやら機能としては働いているらしい。その他においても完璧な状態で動作が可能になっているようだった。大破した筈のボディでさえ綺麗になっている。
「ん、ちゃんと動くっぽいね…それで、突然なんだけどどうしてあんな所に…?」
あんな所とは、何処を指すのだろうか。理解が追いつかない様で、綺麗になったのはボディだけでなく記憶も同じだったらしい。
「…私はどこで何をしていたのですか…?」
「んー、リブートされてるね…今までの記憶殆ど飛んでるでしょ?名前とか…」
名前。名前という概念は知っている。完璧な初期状態ではなく再起動の最中に回路で事故が起こりメモリーが飛んだのだろう。
「あー、紹介まだだったよね。私はナズナ。これでもAIの職人やってんだよ。小さいけど。」
「という事は…貴女が私を修復したのですか?」
基本、自作AIの作れるこの世界だがオリジナルの修復は制作本人でなければ難しい筈だ。元の主人の名や顔は覚えてないが男性の個体だった事はかろうじて覚えている。即ちこのナズナと名乗る職人はかなりの腕であろう。
「…受け入れられないかも知れないけど、君は捨てられたのかも知れないね。」
別に構わないと人工知能は処理をしている。覚えのない人間に捨てられようが今ならどうでもいいのだ。
「記憶がない以上マスターに返すって事が難しくなったな…修復したのは私だし、マスターが見つかるまで君はここで匿うよ。行くアテだってないだろう?」
理由は充分だった。機械にすぎない知能は頷くことしか出来ないようだ。
「よしっ。これからよろしくね!」
「こちらこそ宜しくお願いします。迷惑ならばいつでも切り捨ててくださって構いませんよ。」
無機質な機械音から理解の末が音波として発せられた瞬間だった。両頬と言うべき位置に人間の温度を感じた。スピーカーの両端を柔らかく引っ張られ、表情を強引に明るいものに変える。
「そんなネガティブ思考はダメだよ。ほら、明るく…ね?」
不思議だ。知能と言えど、正解に辿り着くことだけを目的としたものに人間じみたものが流れているのが伝わったのだから。
「よし!いい笑顔だよ。名前がないと困るから仮の名前付けよう?何か「これがいい!」って、ある?」
名前なんて、一つの概念でしかない筈なのにどうしてだろうか。何故欲というものが人工知能に存在するのだろうか。そんな思考を吹き飛ばすように、ただ純粋な知能で「欲しい」と思ってしまっていた様だ。
「…よし、今日から君は『コハル』だ!改めて宜しくね!」
こうして、私ことコハルは元の生活に戻る為…何故捨てられたのかを知りたいが為に第二の生涯を開始した。
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