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15.男性経験なんて欠片も無い

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「あ、んんっ」

 ちくりとした痛みと、そして甘い疼きが胸元に走った。
 エリオット殿下の唇が触れていたそこに真っ赤なキスマークが生まれていて、そこを舐められるとぞくりと背中に走る。
 溢れた吐息は妙に熱っぽい気がする。

「ほら、逃げないと痕が増えてしまうよ。いいのかい?」
「ダメで……す、ぅんっ」

 柔らかい唇が肌をなぞる。そうしてまた新しい場所を吸われてしまう。
 逃げたい気持ちは確かなのに、腰を回った手の力は思ったよりもずっと強くて動けなくて。
 甘さを含んだ刺激に身体と声が震える。

 家に着くまでの間、エリオット殿下は私の胸元から顔を離すことはなかったのだった。


  *


「……レベッカ様」

 私の説明に対するアンナの返事は呆れたような溜息だった。
 ますます私は肩を小さくしたけれど、勿論だからといってどうにかなったりなんかするはずがない。

「だって仕方ないでしょ。前世だって今までだって、男性経験なんて欠片も無いんだから」
「そうかもしれませんが、それにしたって振り回されすぎです。レベッカ様が目指しているのは『悪女』でしょう?」

 つま先までぴかぴかに洗い上げてもらって、お湯から出る。
 ふかふかのタオルで水気を取ってもらっている間に、備え付けの全身鏡に写った姿を眺めた。

 美しい身体は自分のもののはずなのにどこか作り物のようで、思わず溜息がもれてしまう。
 滑らかな白い肌に、こんもりと膨らむ胸元の曲線美。それでいてウエストはきゅっとくびれていて、そこからぷるっとした小さなお尻とすらりと伸びた足に続いていく。
『悪女』に相応しい、完璧な身体だと思う。

「うん、私は誰に何を言われても自分のしたい事を貫く『悪女』になる」

 アンナに何度目か分からない決意を伝える。

 エリオット殿下が何を考えていようとどんな意図があろうと関係ない。
 私は私の思いを、「ルイス殿下が好き」だという気持ちを持ち続けて押し通すだけだ。
 この身体を最大の武器にして誘惑して、既成事実を作る。それが目標だ。

「アンナ、私は頑張るから」
「応援しています。レベッカ様がどんな決意や行動をしても、私は絶対にレベッカ様の味方ですから。レベッカ様の幸せを一番に願っています」
「うん、ありがとうアンナ」

 鏡の中のアンナに微笑む。

 お母様を早くに亡くした私にとって、乳母だったアンナの母親が私にとっても母親代わりだった。一歳年上のアンナも私を妹のように可愛がってくれて、いつも一緒に遊んでくれていた。

 アンナは私にとって誰よりも長く近くに居てくれた人だ。
 だから前世を思い出した時もアンナにだけは打ち明けたし、信じた通り私の事を狂人扱いすることも無く真剣に話を聞いてくれた。

『悪女』になってでも好きな人と一緒になりたい、と言った私の事を応援してくれたのだ。

「まずはまた、ルイス殿下とお茶をする機会を作らなくちゃね」
「そのためにはこのエリオット殿下の痕を隠さないとといけませんね。お化粧でカバーできると良いんですけども」
「うう、お願いアンナぁ」

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