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95.強さは貴方譲り
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「ワシから最愛の娘を奪う上、祝福までもを求めるというのですか? 強欲にもほどがありますぞ。貴族に認められ、国民に受け入れられ、調子に乗られておるようだ」
「お父様! そんな言い方っ」
「良いんだレベッカ」
思わず立ち上がって抗議をしたら、エリオットにたしなめられた。
お父様の強い視線をエリオットが真っ直ぐに受け止める。
「強欲で良いと、何もかもを求めていいとレベッカに教えてもらったんです。だから僕はなんと言われようとどんな邪魔をされようと、絶対に諦めません」
「……若造が」
「若輩であることは確かですので、これからも僕ら王族や国民を助け導いてください、我が国の優秀なる宰相閣下」
「このワシに嫌味まで言えるようになりましたか」
「嫌味などではありません、本心ですよ」
はらはらと二人を見ていたら、お父様が大きなため息をついた。
「せめてこの場で嫌味を言うくらい嫌な男であればまだ反対できたものを」
がっくりとうなだれる、そんなお父様を見たのは初めてだ。
「……レベッカは早くに母親を亡くしておる。この子はワシと、そして甥のグレッグで育てたんです」
「知っています。さぞ大変だったことでしょう」
「そんなことはない。この子はとても真っすぐで良い子でした。ただ少し内気で、ワシとグレッグと限られた使用人としか交流できんかった。だからワシはこの子が夫婦生活を送らんでもすむような、優しく閉じた世界を変えることなく生きていける、そんな相手としてエリオット殿下を選んだのです」
「僕でしたら貴方の言う事には逆らえませんでしたからね」
「ああ。だが――」
お父様が私を見た。
小さな頃からずっと変わらない、私のことを宝物だと思ってくれているのがよく分かる瞳で。
「いつの間にかレベッカが、あんなにも大勢の前で立ち回れるようになっておったとはな。……変えたのは貴方なんですな、エリオット殿下」
「僕も驚きましたよ。でもレベッカの強さは貴方譲りだと僕は感じました。会議で反対派を黙らせるウォルター公にそっくりでしたから」
お父様とエリオットが笑って、張り詰めていた空気がふっとゆるんだ。
きょとんと私だけが取り残されてしまう。
すとんとソファに座った私をお父様が笑いながら見て、そして微笑む。
「子供だと思ってたが、いつの間にか成長しておったんだな」
「お父様……」
「エリオット・イグノアース殿下、ワシの娘をどうか幸せにしてやってください」
頭を下げたお父様は、今までと違ってどこか淋しそうで、でもすっきりしたようにも見えた。
その姿に胸がきゅっとなった。
「お父様、私、今までだって幸せでした」
「レベッカ?」
「私には苦手なものや怖いものが人より沢山あったけど、でもそれ以上に守ってくれる人の愛情があったから」
小さな頃から寂しさを感じることなんて無かった。
求めれば愛情の手はいつだってすぐに差し伸べられたから。
今回はすれ違ってしまったけれど、でもお父様の私への愛情そのものはほんの少しだって疑いもしなかった。
お父様もグレッグお兄様もアンナも、エリオットとはまた違う、けれど私にとってかけがえのない人だってことにこれからも変わりはない。
「私はいつだってお父様の娘ですし、お父様の娘で良かったって思います」
少し目が潤んでいるようにも見えるお父様に、笑う。
「今までだってこれから先だって、私もずっとお父様のことが大好きです」
「お父様! そんな言い方っ」
「良いんだレベッカ」
思わず立ち上がって抗議をしたら、エリオットにたしなめられた。
お父様の強い視線をエリオットが真っ直ぐに受け止める。
「強欲で良いと、何もかもを求めていいとレベッカに教えてもらったんです。だから僕はなんと言われようとどんな邪魔をされようと、絶対に諦めません」
「……若造が」
「若輩であることは確かですので、これからも僕ら王族や国民を助け導いてください、我が国の優秀なる宰相閣下」
「このワシに嫌味まで言えるようになりましたか」
「嫌味などではありません、本心ですよ」
はらはらと二人を見ていたら、お父様が大きなため息をついた。
「せめてこの場で嫌味を言うくらい嫌な男であればまだ反対できたものを」
がっくりとうなだれる、そんなお父様を見たのは初めてだ。
「……レベッカは早くに母親を亡くしておる。この子はワシと、そして甥のグレッグで育てたんです」
「知っています。さぞ大変だったことでしょう」
「そんなことはない。この子はとても真っすぐで良い子でした。ただ少し内気で、ワシとグレッグと限られた使用人としか交流できんかった。だからワシはこの子が夫婦生活を送らんでもすむような、優しく閉じた世界を変えることなく生きていける、そんな相手としてエリオット殿下を選んだのです」
「僕でしたら貴方の言う事には逆らえませんでしたからね」
「ああ。だが――」
お父様が私を見た。
小さな頃からずっと変わらない、私のことを宝物だと思ってくれているのがよく分かる瞳で。
「いつの間にかレベッカが、あんなにも大勢の前で立ち回れるようになっておったとはな。……変えたのは貴方なんですな、エリオット殿下」
「僕も驚きましたよ。でもレベッカの強さは貴方譲りだと僕は感じました。会議で反対派を黙らせるウォルター公にそっくりでしたから」
お父様とエリオットが笑って、張り詰めていた空気がふっとゆるんだ。
きょとんと私だけが取り残されてしまう。
すとんとソファに座った私をお父様が笑いながら見て、そして微笑む。
「子供だと思ってたが、いつの間にか成長しておったんだな」
「お父様……」
「エリオット・イグノアース殿下、ワシの娘をどうか幸せにしてやってください」
頭を下げたお父様は、今までと違ってどこか淋しそうで、でもすっきりしたようにも見えた。
その姿に胸がきゅっとなった。
「お父様、私、今までだって幸せでした」
「レベッカ?」
「私には苦手なものや怖いものが人より沢山あったけど、でもそれ以上に守ってくれる人の愛情があったから」
小さな頃から寂しさを感じることなんて無かった。
求めれば愛情の手はいつだってすぐに差し伸べられたから。
今回はすれ違ってしまったけれど、でもお父様の私への愛情そのものはほんの少しだって疑いもしなかった。
お父様もグレッグお兄様もアンナも、エリオットとはまた違う、けれど私にとってかけがえのない人だってことにこれからも変わりはない。
「私はいつだってお父様の娘ですし、お父様の娘で良かったって思います」
少し目が潤んでいるようにも見えるお父様に、笑う。
「今までだってこれから先だって、私もずっとお父様のことが大好きです」
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