生贄の聖女として30年間悪竜を封じてきましたが

あまね

文字の大きさ
15 / 21
2章

第13話 あっという間に半分脱落

しおりを挟む
「きゃああああっ!」
「やだ、もう、無理、これ無理っ!」
「もう魔力が……」

 悲鳴と同時に気絶したもの、壁を這う地虫のような小型の魔物をパニックになったもの、その魔物相手に攻撃魔法を乱発して早々に魔力切れになったもの――おおかたの予想通り、洞窟に入って1時間も経たないうちに半分以上が脱落した。

 それぞれ任意に、あるいは自動で、首につけた金色の輪にかけられた脱出魔法により、その場から姿が消える。今頃は洞窟の外で救護役の先生がたにそれぞれ介護されていることだろう。

 私は自分の首の輪っかに軽く手をかけながら、探るように周囲を見た。

 魔法の花、エターナルフラワーを育てるのに必要な3つのアイテム。「竜の巣の土」「大蝙蝠の落とし物」「奇跡の泉の水」を探しにこの花の洞窟へやってきたが、いまだ1つも手に入っていない。

 今回のお花育て実習では、以前に比べてひとつ気がかりなことがある。

 担任のアルガス先生――つまりドルガマキアの存在だ。

 ドルガマキアが教師に扮してこのミズラル学院に潜入したのは私を監視するためだろうが、私が何をしようとしているのか、どこまで把握しているのかはよくわからない。とはいえ生贄の水晶に戻ろうとしない私を苦々しく思っているのは間違いなかった。

 私のころは生徒たちへの安全策といえば首輪にかけられた脱出魔法だけだったが――今ではそれに加え、あらかじめ洞窟内の各所に教師たちや有志の上級生たちがあらかじめ待機しているらしい。

 担任のアルガス先生もその役目だとかで、今朝にはすでに学院にはいなかった。

 この危険な「花の洞窟」のどこかで――私たちを見ているはずだ。

 ドルガマキアにとっては絶好のチャンスだろう。

 私を葬るための。

 暗黒竜ドルガマキアは、聖女を生贄の水晶に封じ込めて喰らうという以外の方法で殺すことはできない。そういう契約になっている。

 しかし、生贄の水晶から出た私を偶然を装って私を殺すことは――おそらく可能だ。

 例えば、魔物に襲われているのを見ないふりをするとか。

 そこらへんの魔物にちょっかいをかけて凶暴化させ、私を襲わせるとか――――。

「ジュリエッタお姉さま、怖かったですわね……」

 ファリスがそっと私に体を寄せてくる。

 実習は4~5人ごとのグループで行うことになっているが、私のグループでまだ脱落していないのは私とファリスだけだ。

 他グループも似たような状況で、偶然再会した別のグループと合流してはまた脱落者が出て、また合流し……を繰り返し、今は私とファリス、それに同じ1年空組だがもとは別グループだったユロと、1年月組のライラにグラシアで洞窟内の探索を続けている。

 この残ったメンバー構成を見ていると、この洞窟が有力な聖女候補に対してだけ道を開くというのは本当かもしれない、という気がしてくる。

 とうに聖女になった私のことはさておいて、隠してはいるが間違いなく有力な聖女候補のひとり、ファリス。

 それに、地方から出てきたという同じクラスのユロ。彼女は公言こそしていないものの、信頼できる親しい友達にだけは自分が聖女候補だと明かしているらしい。まあ、そういう噂を私まで知っている時点で、本当に信頼できるかどうかは怪しいものだけれど。

 貴族出身のライラは自分が聖女候補だと公言している。分厚い瓶底メガネが特徴的なグラシアは、いつもそのライラの半歩後ろを歩いている、ライラのお世話役といった感じの子だ。

「残ったのはこれだけですか……」

 地を這う炎魔法――消費魔力は少なくて済むがテクニカルなやり方で扱いが難しい――を使って地虫たちを一網打尽にしたグラシアが、私たちを見回して言った。

「はじめからすると、随分減ってしまいましたわね」

 と、私。

「大丈夫大丈夫、まだまだ、元気出していきましょっ!」

 と、元気よく右手を突き上げたのはユロ。

 そんななか、

「ちょっと! あなたたち、卑怯よ!」

 と、ライラが私とファリスを、ビシィ! と指差した。

「え?」
「さっきから見ていたら、魔物が出てきたら戦いもせず後ろに下がってぼんやり見ているだけ……みんなを犠牲にして自分だけいい成績を取ろうなんて、恥ずかしくありませんのっ?! 特にあなた、ジュリエッタ! 伝説の聖女と同じ名前が泣きますわよ!」
「…………」

 たしかに、私と、それに私にくっついているファリスは戦闘時も少し後ろに下がったまま手を出さなかった。

 しかし、魔物と戦うのを避けていたのではなく、魔物を見てパニックになった子たちが闇雲に放つ攻撃魔法のフレンドリーファイヤーを避けていただけだ。

 それよりなにより――誰より先に誰より遠くへ逃げて、いまだに物陰から覗いているだけのライラにだけは、卑怯と言われたくない……。

 そう思っていることが視線で伝わってしまったのか、ライラがはっとした様子であちこち見回したあと、助けを求めるようにグラシアを見た。

「わっ、私は――グラシアが私の分まで戦っているからいいのです! そうよね、グラシア!」
「そうですね」

 グラシアがくいとメガネを引き上げながら、感情のない声で返事をする。怒っているのか、もともとそういう喋り方しかしないのかはよくわからない。

 その時、ライラの背後でなにかが蠢いた。

「ライラ、後ろ!」
「ライラ様、後ろに」

 私とグラシアがほぼ同時に声を出す。

「後ろ? なに?」

 ライラが振り返る。そこには、ライラの身の丈よりも巨大で腕よりも太いミミズが、頭だかおしりだかわからないぬっぺりした先端でライラを見下ろしていた。

 意外にも、ライラは悲鳴をあげなかった。

 その代わり、白目を向いてそのままゆっくりと倒れて行った。

 頭が地面に衝突する前に首輪が光り、その姿が消える。

 悲鳴をあげる余裕すらなく、どうやら気絶して、緊急脱出魔法が発動したようだ。

「ひっ?! ひっえぇえぇぇぇぇええぇぇえええ?!!」

 いっぽう、少し離れた場所にいたユロは悲鳴を上げる余裕があったらしい。

 グラシアは無言のまま攻撃魔法を出す構えをとる。

「待……」
「待ってください!」

 私が言おうとしたことを、ファリスが言った。

「入り口で聞いた、エターナルフラワーを育てるための三つのアイテムの謎かけ……竜の巣の土、が示す竜って、あれのことではありませんこと……?」
「……確かにありえる」

 グラシアが手を下ろした。

「えっえっ?! いやいや竜じゃないから! ミミズミミズ!」

 ユロがぶんぶんと首を横に振る。

「ミミズがいるのは豊かな土壌の条件ですから、その巣の土……ミミズがいる土というのは、花を育てる土として適任のはず。それに、ミミズのことを土竜どりゅうと呼ぶ地方もあります」
「まあ、そうなんですのね! グラシア様って博識でいらっしゃるのね!」

 目を輝かせて自分を讃えるファリスに、グラシアが尋ねた。

「知らなかったのですか?」
「ええ!」
「それなのにどうしてあれが怪しいって思ったんですか?」

 グラシアは相変わらず無感情な声だ。それに対しファリスは小首を傾げてしばらく考えたあと、

「直感……かしら。あの大きなミミズさん、私たちに何か言いたそうに見えましたし……」

 そ、そうかな。

 私にはわからなかったけれど……ファリスにはなんかわかったのかもしれない。

 図体の割には臆病な性格の大ミミズは、ユロの悲鳴に驚いてすでに土の中へ姿を消している。

 ファリスが大ミミズがいたあたりに近づいてそこの土を掬い上げる。それを自分の石盤タブレットの上に載せると、タブレットが青く輝いた。

 正解、の証だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...